転職89日目 番外編:とある少年の冒険譚7
ちょっとした寄り道があったが、レベルアップは順調に進んでいく。
教養を先にとった為に幾らか時間はかかる事になったが、入ってくる経験値は変わらない。
六ヶ月という期間を待たずに戦闘技術はレベル3になるはずである。
そうなればあらためて独り立ちとなる。
そうなるとさすがに次を見据えて行動していくようにもなる。
元から言われていた事でもあるが、訓練期間が終わった後の行き先を探すようになっていった。
ハルキだけではなく、他の新人達も同じだ。
仲間を募集してる所はないかと、拠点にある掲示板の前に日参する。
全体に情報を周知するために存在する掲示板には色々なものが貼り付けられている。
一団からの告知のために作られたものであるが、今はそれだけに留まってない。
商人達からの売り出し情報や野菜のお裾分けなどなど拠点近隣における様々な情報があふれている。
その中には冒険者グループからの募集もある。
一団として巨大な集団となってるヒロノリの組織であるが、その実態は少人数の冒険者集団の集まりと言えるものになっている。
戦闘を主に担当する冒険者達のほとんどはヒロノリ達が指示してまとまってるわけではない。
軍隊のように部隊を編成してるのではなく、所属する冒険者達が自分達で活動するための集団を作ってる。
一部はヒロノリ達によって編成されているが、それらは全体からすればかなり少数である。
その少数にしても、完全に一団の意志でまとめられてるというのとも違う。
たいていは、あぶれたものが一団の斡旋でどこかの集まりに参加したというものだった。
本当に一団によって組織・編成された者達はそれこそ十数人程度と言われている。
モンスター退治のために活動する少人数編成の集団。
パーティや一群、小隊など様々な呼び方がされるこれらのほとんどは、彼等自身によって集ったものがほとんどだった。
一団は、それらを引き合わせる仲介をしてるようなものである。
軍隊と違い、冒険者は基本的に個人事業主と言える者達である。
大きな組織の中の一員として上層部に従ってるのとは違う。
一団に所属している以上は一団の示す方針や規律には従う事にはなるが。
それでも冒険者の大半は軍隊よりはもう少し自由である。
冒険者はいつでも一団から離脱する事が出来る。
それだけ一団の意志による統率はかなり難しい。
何らかの目的を達成するために活動してるなら、これは不利な要素になるだろう。
だが、ヒロノリの一団はそのあたりは特殊である。
確かにモンスター退治という活動をしている。
そのためにはある程度の統率は必要になる。
モンスターのいる地域に冒険者を送り込まねばならないので、そのために指示を出すこともある。
だが、そのほとんどは参加者募集方式で行われている。
仕事というか、モンスターの出現を告知してそちらの方面に出向く者達を募っていくのだ。
その為に報酬が出るという事はないが、報せを見聞きした者達でやる気のある者は言われた場所に出向いていく。
冒険者はモンスターを倒さねば稼ぎを得られない。
なので、危険は分かっていてモンスターの出没情報があればそちらに向かっていく事になる。
全員が、というわけではない。
それなりの力量を持った者達が言われた場所に出向く事にはなる。
それでも、命令されて派遣されるという事はほとんどない。
どうしても人が集まらない時にヒロノリ直轄の部隊が向かう事はあるが、それも頻繁に起こるわけではない。
大半のモンスター退治は、最終的には各冒険者の意志とやる気によって行われている。
一団の仕事は、様々な場面における斡旋と言える。
おすすめはするが強制は出来ない。
やるならそれなりの報酬を支払わねばならない。
一団と言っても、実際にヒロノリの意志で動く部分はそれほど大きいわけではなかった。
そういった組織なので、冒険者の集まりである一群や小隊も自発的な集まりで結成されていた。
これには様々な理由があるようだが、
「こっち(一団)で組み合わせるのは手間がかかりすぎる」
というのがあった。
膨大な人数を編成して組み合わせるなら、それを為す為の組織が必要になる。
どうしても人員の増大を招いていく。
そんな事をする余裕などない。
なので、冒険者の組み合わせに一団は極力関わらない事にしていた。
引き合わせたり斡旋したりといった消極的な協力はするが、あそこに入れとかこいつを受け入れろというような事はほとんどしない。
しないというより出来ないと言うしかない。
ただ、一番の理由はそれではない。
「気の合わない者同士を一緒にさせておくわけにもいかないし」
ここが最も大きな要素になってくる。
命がけの仕事である。
息が合わない、そりが合わないもの同志が組んでいたらやってられない。
どうしても連携に齟齬をきたし、どこかの時点で破綻する事になる。
そうなったら、待ってるのは全滅だ。
その為、どうしても気のある者で組む事が求められる。
そうそう上手くいくわけではないが、少なくとも互いに嫌悪しない程度の相手と一緒なのが好ましい。
となると、どうしても離合集散が起こる事になる。
いつまでも固定した者達で、というわけにもいかない。
大半の一群は最初に組んだ者同士でずっとやっていくものだが、そうでない所も出てくる。
その時、命令や指示でまとめさせられていたら人の出入りも簡単にできない。
何をやるにも上層部に申し出て許可が出るのを待たねばならなくなる。
そんな事をしてる手間も馬鹿にならない。
だったら、当事者達で勧誘や離脱をやってもらった方が楽である。
一団は一群における離脱や加入の結果を報告として受け取りはするが、基本的にそれだけである。
あとは離脱したり加入したりする者達の募集告知に協力したるするのがせいぜいだった。
何にしても、一団はその為の場所や機会を可能な限り用意する存在となっている。
とはいえさすがに新人達をそのまま放置するというわけにもいかない。
あちこちの一群に声をかけ、新人を受け入れてくれる所を探していく。
新人にも募集をしてる一群を紹介していき、出来るだけあぶれる者が出ないように配慮していく。
それくらいの事はさすがにしていた。
でなければ、折角鍛えた新人が何も出来ずに突っ立てるだけになってしまう。
この程度の世話は一団にとってもやらねばならない作業の一つになっていた。
とはいえ新人にとってはなかなかに憂鬱なものでもある。
「上手くやっていけるのかな」
そんな心配をしながらハルキは募集広告に目を向けていく。
同じような者は他にも何人かいる。
皆、どこに入るか、どこに入れるのか考えている。
何せこれからの活動と生存率に関わってくる。
下手な所は選びたくなかった。
自由に離脱や加入が出来るのはありがたい事ではあるのだが、新人達にとってはありがたみよりも憂鬱さが先に立ってしまう。
一団からの手助けもあるとはいえ、初めての事だから非常に面倒でもある。
将来がかかってるとなれば、誰もが慎重になるし臆病にもなろう。
そんな彼等の姿は、就職活動そのものであった。




