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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第四決算期

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転職87日目 番外編:とある少年の冒険譚5

「明日から教官と一緒にモンスターか」

「上手くいくのかな」

「どうだろ」

「でも、あれだけ強いし」

「まあな。

 高レベルってスゲエよな」

「どうにかなるんじゃねえの、ついていけば」

「ついていければいいけど」

「そうだよな」

 一週間(実質六日)の訓練が終わった翌日は休暇だった。

 その一日でそういった会話が繰り返されていた。

 誰もが不安を抱いていた。

 明日からのモンスターが退治がどうなるのかを。

 教官と一緒だと言っても、モンスターとの戦闘がそれで上手くいくとは思えなかった。

 実際にモンスターと戦った事がないだけにその強さが分からない。

 教官のレベルなどは見せてもらってるが、それがどれだけ役立つのかも分からない。

 今はまだ不安の方が大きい。

「何とかなればいいけど」

 普段だけが口から出てきていた。



 その翌日。

 懸念はあっさりと払拭されていく。

 モンスターの出没地域に向かったハルキ達は、一緒に行動する教官が次々にモンスターを倒していくのを目にしていった。

 教官達が正面からモンスターを相手にして、ハルキ達はその背後に回り込む。

 二人がかりでモンスターに当たる場合の基本的な手段だ。

 一人が正面でモンスターの攻撃を受け止め、もう一人が背後に回って急所を攻撃する。

 素人の攻撃ではさすがに一撃で仕留める事は出来ないが、それでもかなりの損害を与える事が出来る。

 前方の敵に集中せねばならないから後方は疎かだ。

 そこをつけば、素人でも結構な打撃を与える事が出来る。

 上手くいけば急所を刺し貫く事も出来る。

 そこまで狙えるほどの腕がないので、斬りつけるだけで終わるが。

 だが、その一撃が入ればそれで良い。

 それでモンスターの動きは一瞬止まる。

 場合によっては背後から攻撃した者達に振り向く。

 そこを教官が狙い、一撃で仕留めていく。

 この方法で、モンスターはかなりあっさりと倒す事が出来た。

 驚くしかない。

 教官のおかげなのは確かだが、こうもあっさりとモンスターが倒れるとは思わなかった。

 嘘だと思った新人が大半だったが、それが次々に続くのを見て事実だと受け入れていく。

(こんなに強かったんだ)

 教官達の強さをはっきりと理解する。

 同時に、自分達の危険がかなり下がってる事も。

 それからはただひたすらにモンスター退治に集中した。



「はー」

 一日の作業が終わり、自分達の倒したモンスターの数を誰もが確かめる。

 手に入れた核の数と、経験値がそれを示している。

 一日でかなりの数を手に入れた。

 今までから考えたらとんでもない数である。

「本当にこれだけ手に入れたんだ」

 目に見える核と、数字としてあらわれる経験値は確かにそこにある。

 嘘ではないと思いつつも信じる事が出来ない。

「本当にやったんだな……」

 袋に入れた核を見ながらそう思った。

 手助けにもなってなかったが、自分も確かにモンスター退治に参加した。

 そしてこれだけのものを手に入れた。

 目の前のそれを示すものがある。

 信じられなくても事実がそこにある。

 疑いを入れる余地などないしそもそも必要無い。

 手にしたものを担いで拠点に戻れば良いのだ。



 行商人に核を売りはらい、手にした金を駐留してる役人の所に持っていく。

 税金の取り立てのために常駐してる役人は、領収書に書かれた金額から税金を割り出してその分を取っていく。

 それが終われば手に入れた金を分配出来る。

 ここからが本当の分け前になる。

「まあ、一団にも入れないといけないけどな」

 取り分は二割。

 税引き後の金額から更に取られていく。

 実際に手に入れるのは稼ぎの五割余りとなってしまう。

 それでも、一団に金を入れる事を拒む者はほとんどいない。

 彼等が活動する拠点などを維持するための費用なのだから、これは仕方ないと誰もが納得している。

 実際、時間はかかっているが拠点は拡充されている。

 それを見てきた者達は、金が自分達の為に使われてる事を知っている。

 税金ほど使途不明になってるわけではない。

「何にせよ分け前だ」

 そう言って一団の事務所へと教官に連れられていく。

 そこで本当に最後の処理を行っていく。

 一団に振り込む金額を算定し、それをおさめてから手に入れた金額の分配になる。

 ハルキは銀貨一枚。

 残りは教官のものになる。

 稼ぎの大半が教官のものになるが、文句はなかった。

 実際に戦ってたのはほとんど教官であり、ハルキが活躍したところなどほとんどない。

 それでも銀貨一枚が手に入るのだ。

 不平や不満があるわけもなかった。

 それでも教官は声をかけてくる。

「ま、がんばってレベルを上げな。

 そうすれば自分達で稼げるようになる」

 その通りである。

 独り立ちすれば稼いだ分は自分達のものになる。

 稼ぎも跳ね上がる。

 だが、これだけの稼ぎがあれば無理をする必要もないと思えてくる。

 教官と共に行動してれば、無理せず稼げると思えてくる。

 そう思って教官に言うのだが、

「ま、レベルが上がればそう言わなくなるさ」

 そういって取り合わなかった。

 そうなのだろうかと思った。



 それから一ヶ月余りでレベルが上がった時、教官の言ってる意味が分かった。

 経験値を使って刀剣を操る戦闘技術を上げたあと、モンスターを簡単に倒せるようになった。

 一撃で倒せるほどではないが、以前より的確な攻撃が出来るようになっている。

 背後に回ればかなりの損傷を与える事が出来る。

 その分、モンスター退治の危険は下がっていた。

 与える損傷が大きければその分戦闘時間も短くなる。

 短くなれば危険にさらされる時間も減る。

 レベルアップでモンスターを容易く倒せるようになる事で、自分の危険も減った。

 まだ一つしか上がってないのに差を実感出来る。

「どうだ」

 教官が声をかけてくる。

「この調子でレベルが上がればもっと稼げる。

 そうなったら、わざわざ銀貨一枚で満足してる必要もないだろ」

 なるほどと思った。

 確かに教官が一緒なら安全だ。

 しかし、自分がそこに近づけばわざわざ頼る必要もない。

 分け前を減らさなくても良い。

 一ヶ月ほど前に教官が言っていた意味が分かった。

「レベルをあげて、早く独り立ちしろよ」

「はい」

 素直にそう言えた。

 そして、もっと稼げるようになりたいと思った。

 自分の前にある可能性を感じながら。

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