転職87日目 番外編:とある少年の冒険譚5
「明日から教官と一緒にモンスターか」
「上手くいくのかな」
「どうだろ」
「でも、あれだけ強いし」
「まあな。
高レベルってスゲエよな」
「どうにかなるんじゃねえの、ついていけば」
「ついていければいいけど」
「そうだよな」
一週間(実質六日)の訓練が終わった翌日は休暇だった。
その一日でそういった会話が繰り返されていた。
誰もが不安を抱いていた。
明日からのモンスターが退治がどうなるのかを。
教官と一緒だと言っても、モンスターとの戦闘がそれで上手くいくとは思えなかった。
実際にモンスターと戦った事がないだけにその強さが分からない。
教官のレベルなどは見せてもらってるが、それがどれだけ役立つのかも分からない。
今はまだ不安の方が大きい。
「何とかなればいいけど」
普段だけが口から出てきていた。
その翌日。
懸念はあっさりと払拭されていく。
モンスターの出没地域に向かったハルキ達は、一緒に行動する教官が次々にモンスターを倒していくのを目にしていった。
教官達が正面からモンスターを相手にして、ハルキ達はその背後に回り込む。
二人がかりでモンスターに当たる場合の基本的な手段だ。
一人が正面でモンスターの攻撃を受け止め、もう一人が背後に回って急所を攻撃する。
素人の攻撃ではさすがに一撃で仕留める事は出来ないが、それでもかなりの損害を与える事が出来る。
前方の敵に集中せねばならないから後方は疎かだ。
そこをつけば、素人でも結構な打撃を与える事が出来る。
上手くいけば急所を刺し貫く事も出来る。
そこまで狙えるほどの腕がないので、斬りつけるだけで終わるが。
だが、その一撃が入ればそれで良い。
それでモンスターの動きは一瞬止まる。
場合によっては背後から攻撃した者達に振り向く。
そこを教官が狙い、一撃で仕留めていく。
この方法で、モンスターはかなりあっさりと倒す事が出来た。
驚くしかない。
教官のおかげなのは確かだが、こうもあっさりとモンスターが倒れるとは思わなかった。
嘘だと思った新人が大半だったが、それが次々に続くのを見て事実だと受け入れていく。
(こんなに強かったんだ)
教官達の強さをはっきりと理解する。
同時に、自分達の危険がかなり下がってる事も。
それからはただひたすらにモンスター退治に集中した。
「はー」
一日の作業が終わり、自分達の倒したモンスターの数を誰もが確かめる。
手に入れた核の数と、経験値がそれを示している。
一日でかなりの数を手に入れた。
今までから考えたらとんでもない数である。
「本当にこれだけ手に入れたんだ」
目に見える核と、数字としてあらわれる経験値は確かにそこにある。
嘘ではないと思いつつも信じる事が出来ない。
「本当にやったんだな……」
袋に入れた核を見ながらそう思った。
手助けにもなってなかったが、自分も確かにモンスター退治に参加した。
そしてこれだけのものを手に入れた。
目の前のそれを示すものがある。
信じられなくても事実がそこにある。
疑いを入れる余地などないしそもそも必要無い。
手にしたものを担いで拠点に戻れば良いのだ。
行商人に核を売りはらい、手にした金を駐留してる役人の所に持っていく。
税金の取り立てのために常駐してる役人は、領収書に書かれた金額から税金を割り出してその分を取っていく。
それが終われば手に入れた金を分配出来る。
ここからが本当の分け前になる。
「まあ、一団にも入れないといけないけどな」
取り分は二割。
税引き後の金額から更に取られていく。
実際に手に入れるのは稼ぎの五割余りとなってしまう。
それでも、一団に金を入れる事を拒む者はほとんどいない。
彼等が活動する拠点などを維持するための費用なのだから、これは仕方ないと誰もが納得している。
実際、時間はかかっているが拠点は拡充されている。
それを見てきた者達は、金が自分達の為に使われてる事を知っている。
税金ほど使途不明になってるわけではない。
「何にせよ分け前だ」
そう言って一団の事務所へと教官に連れられていく。
そこで本当に最後の処理を行っていく。
一団に振り込む金額を算定し、それをおさめてから手に入れた金額の分配になる。
ハルキは銀貨一枚。
残りは教官のものになる。
稼ぎの大半が教官のものになるが、文句はなかった。
実際に戦ってたのはほとんど教官であり、ハルキが活躍したところなどほとんどない。
それでも銀貨一枚が手に入るのだ。
不平や不満があるわけもなかった。
それでも教官は声をかけてくる。
「ま、がんばってレベルを上げな。
そうすれば自分達で稼げるようになる」
その通りである。
独り立ちすれば稼いだ分は自分達のものになる。
稼ぎも跳ね上がる。
だが、これだけの稼ぎがあれば無理をする必要もないと思えてくる。
教官と共に行動してれば、無理せず稼げると思えてくる。
そう思って教官に言うのだが、
「ま、レベルが上がればそう言わなくなるさ」
そういって取り合わなかった。
そうなのだろうかと思った。
それから一ヶ月余りでレベルが上がった時、教官の言ってる意味が分かった。
経験値を使って刀剣を操る戦闘技術を上げたあと、モンスターを簡単に倒せるようになった。
一撃で倒せるほどではないが、以前より的確な攻撃が出来るようになっている。
背後に回ればかなりの損傷を与える事が出来る。
その分、モンスター退治の危険は下がっていた。
与える損傷が大きければその分戦闘時間も短くなる。
短くなれば危険にさらされる時間も減る。
レベルアップでモンスターを容易く倒せるようになる事で、自分の危険も減った。
まだ一つしか上がってないのに差を実感出来る。
「どうだ」
教官が声をかけてくる。
「この調子でレベルが上がればもっと稼げる。
そうなったら、わざわざ銀貨一枚で満足してる必要もないだろ」
なるほどと思った。
確かに教官が一緒なら安全だ。
しかし、自分がそこに近づけばわざわざ頼る必要もない。
分け前を減らさなくても良い。
一ヶ月ほど前に教官が言っていた意味が分かった。
「レベルをあげて、早く独り立ちしろよ」
「はい」
素直にそう言えた。
そして、もっと稼げるようになりたいと思った。
自分の前にある可能性を感じながら。




