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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第四決算期

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転職85日目 番外編:とある少年の冒険譚3

「きつい……」

「なんか、体が強ばる」

「手が動かねーよ」

 昼の食堂、休憩かつ昼食だというのに、ろくに箸を動かさないまま声だけが上がっていく。

 その声もそれほど多いわけではない。

 どちらかというと、淡々と黙々と──といった調子である。

 妙な静けさを発生させながら、ハルキ達新人は二日目の訓練の半分を終えた。



 やった事と言えば昨日やった事の繰り返しである。

 一晩開けてそれをどれだけおぼえてるのかを確認し、それから更に何度も素振りを繰り返した。

 移動しながらの素振りもやり、それが頭と体にまだ残ってるのを確かめた。

 それが終わると、今度は立木に向かって木刀で打ち込んでいった。

 垂直に立てた丸太を木刀で叩いていく。

 繰り返した素振りの動きのまま、ただただ丸太に向かっていく。

「丸太との距離も考えていけよー。

 その距離でないと攻撃は当たらないから。

 遠くても近くてもな」

 教官の言う通り、距離が遠くては当たらない。

 近すぎても木刀による有効な打撃にはならない。

 程よい距離を見つけ、その位置から打ち込まなければならなかった。

 その立ち位置を最初に教えられる。

 それから木刀による打ち込みになった。

 思った以上に、これがきついものがあった。



 だいたいの者がそうなったのだが、打ち込んだらその衝撃がそのまま跳ね返ってくる。

 相手は地面に突き刺した丸太だ。

 丸太自体の硬さや重み、しなりがある。

 軽く叩いたらすぐにはじき返してくる。

 それに、地面という土台に立っているので、衝撃のほとんどが地面に受け止められる。

 力一杯叩き込めば、当然その力がそのまま跳ね返ってくる。

 最初の一回でほとんどの者が、自分が打ち込んだ力で手を痛めていった。

 怪我はしなかったが、打ち付けた時の衝撃が手から腕に通っていく。

 それが頭を揺らす。

 ただ叩いただけなのにとんでもない衝撃になって返ってきた。

 さすがに二回目からは衝撃にならないように叩いていくのだが、

「そんなんじゃモンスターを倒せないぞ。

 もっと強く叩き込んでいけ」

という教官からの教えが入る。

 そんな無茶な、と誰もが思った。

 しかし、それを見越していたらしい教官は、

「いいか、こうやるんだ」

と言って見本を見せていく。

 丸太の前に立つと、軽く木刀を振りおろしていった。

 しかし丸太に当たった瞬間に重く硬い音が響く。

 木刀に込めた力はハルキ達の比ではないのがそれだけで分かる。

 それを何度も繰り返していくのを見て、ハルキ達は呆気にとられた。

 教える立場だからそれなりの腕は持ってるだろうとは思っていた。

 それがどれほどなのかを目の当たりにして、自分達とは隔絶したものだという事を知る。

 一通り打ち込んだ教官は、

「こんな調子でやっていくんだ」

と皆に振り返った。

 特に力んだ様子も何もない。

 ごく自然体なままでいる。

 力の入った一撃を何度も繰り返していたとは思えない。

(これが高レベルって奴なのか……)

 その場にいた者達の誰もがそう思った。

「それじゃ、もう一度やってみろ。

 丸太を思いっきり叩いていけ。

 それがこれから役に立つ」

 その言葉を聞いて、ハルキ達は再び丸太に挑んでいく。

 そして、手に返ってくる衝撃に涙がにじんでいった。



「今日、あれを続けるのかな?」

「そうだろうな」

「きついな」

「俺、まだ手が動かないよ」

 丸太打ちのせいか、木刀を握ったままの形で手が固まってしまっている。

 指を開くことは出来るが、それを複雑に動かす事が出来ない。

 おかげで箸を使う事が出来なかった。

「だから、これが出てきてるんだな」

 スプーンにフォークが出された時は何事かと思ったが、今はその理由がよく分かる。

 今はそれがないと飯を食うことも出来ない。

「とにかく食おうぜ」

 そう言って誰かが食べるのを促す。

 これからの事を考えれば食べないわけにはいかない。

 三時に軽食が出されるが、それまでもたないだろう。

 目の前の料理を誰もが黙々と食べていく。

 お粥に温野菜と味噌汁。

 簡素だが食べやすいものが並んでいる。

 新人達の状態を考えてのものなのだろう。

 その心遣いがありがたい。

 ハルキ達は黙々とそれを腹におさめていった。



 午後は移動しながらの丸太打ちとなった。

 丸太に向かって移動し、間合いに入ったら打ち込む。

 ただそれだけである。

 それが意外と難しい。

「歩数が合わないと上手く当たらない。

 当たっても有効な一撃にならない。

 だから、距離を考えながら動いていけ」

 教官の言う通りで、適度な間合いになるよう動いていかないと上手く攻撃出来ない。

「昨日やった事を思い出してやってみろ。

 移動の感覚はあれをもとに考えていくんだ」

 そんな言葉を頼りに足を動かし、適度な位置に入ったところで振りおろす。

 どうにか上手く当てられるようになるのに時間がかかった。

「モンスターも動いているからな。

 動いて攻撃する事も考えていけよ」

 当たり前と言えば当たり前である。

 動かずにいるモンスターはほとんどいない。

 例外はあるだろうが、この近隣での目撃例はない。

 たいていのモンスターは動いている。

 そんなものに攻撃を当てようと思えばこちらも動くしかない。

 弓のような射撃武器なら話は違うのだろうが。

 それでも射程にとらえ、射線が通る位置はとらねばならない。

 動きながらの攻撃もおぼえねばどうにもならない。

「今日はこれだけやって終わりにするぞ」

 終わるまでこれを繰り返すという宣言でもあった。

 聞いたハルキ達は軽く絶望した。 

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