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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第四決算期

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転職82日目 閑話:掃除婦

「相変わらず散らかしてるねえ」

 部屋に入ってきた女に言われて、ヒロノリは苦笑を浮かべる。

 若い、ヒロノリよりもずっと年下の女である。

 まだ二十歳にもなってないはずである。

 しかし、ヒロノリはこの女になかなか頭が上がらないものがあった。

 仕事を依頼してる側であるのであるが。

「どうにも片付かなくてね」

「まあ、色々と忙しいのは分かってるけどさ」

 言いながら女はヒロノリを追い払うように手を振る。

 かわいらしい、愛嬌のある顔に「しょうがないなあ」と言った苦笑を浮かべながら。

「とにかく片付けるから、一旦部屋から出ていって」

「はいはい」

 素直に従って外に出るヒロノリは、暫く食堂で時間を潰す事にした。

 自室として建てた倉庫はしばらく使えない。

 女がこれから色々と片付けられるからだ。

 重要なものは置いてないが、それでも貴重品だけは持っていく。

 それを見届けてから掃除婦は倉庫の中に目を向ける。



「……男所帯だね、毎度の事ながら」

 後付でつけた床と、その上のベッドと机、それとタンスがいくつか。

 申し訳程度に備え付けられてるソファ(というほど上等でもないが)と、その前に置かれたもう卓。

 それだけの簡素な造りの倉庫内は、どうやったらこうなるのかと思う程散らかっている。

 ゴミはゴミ箱に、洗濯するものも専用の篭に入ってるのだが、不思議な事に散らかっている。

 食堂から持ち込んだと思われる様々な小鉢や小皿と箸が机の上に積み重なっている。

 書類仕事をしてたためだろうが、机の上も散乱してる。

 タンスやらも引き出しこそ閉まっているが、中身はかなり乱雑になってる事だろう。

 ベッドの布団やらシーツは言わずもがな。

 そして、余った場所にしかれた畳の上も、何ともいえない乱れ方をしていた。

 一見してそれ程細々とした物が落ちてたりするわけではない。

 しかし、何でか知らないが散らかってるような気がするのだ。

(また埃が積もってるんだろうけど)

 そのままの状態では分からないが、箒で掃いたり雑巾をかけると雑多な汚れが集まってくる。

 それらが目に見えない程薄く散らばってるから、何となく散らかってるような気がすると思われた。

「……そんじゃ、やっちまいますか」

 少しばかりぞんざいな口をききながら彼女は、掃除婦としての作業を始めた。



 拠点の生活基盤を支える仕事は多い。

 一番目立つのは食堂であるが、各施設の掃除を担当する者達も欠かす事が出来ない。

 宿舎から事務所に食堂と手を入れねばならない場所は多い。

 使ってる者達もある程度片付けはしてるが、本格的に手入れをする程の余裕はない。

 そのため、どうしても専門で清掃・整頓をする者達が必要だった。

 その為、少数ではあるが何人かが雇われていた。

 と言ってもそれ程長い時間を拘束されたるするわけではない。

 宿舎であれば、冒険者達が作業に出向いてる間の日中の数時間。

 食堂なども人が引けてる昼から夕方の間などに片付けをする程度だ。

 また、一日で拠点内の全部を回るわけではない。

 一日に一つの施設を片付けたら終わりになっている。

 昨日は食堂、今日は宿舎、明日は隣の宿舎……といった調子で日替わりで別の場所を清掃している。

 それくらいで十分だったし、それ以上頑張ってもらう必要もない。

 人数もそれほど必要なわけでなく、数人程度で作業をしている。

 その分一団も支払いを低く抑える事が出来る。

 というより、支払いを低く抑えるためにこういった形態になっていると言える。

 掃除婦達も小遣い稼ぎというか、日常生活のついでにといった感覚で作業をしている。

 その程度で十分だったし、それ以上を求められるというわけではない。

 なので拠点近くの村から通いでやって来てる者達が大半だった。



 ただ、一団として頼む範囲だけでは行き届かない部分もある。

 個人的にやってもらいたい事なども当然ながら発生する。 

 そういった場合は、掃除婦達に直接仕事を頼む事になる。

 このあたりが掃除婦達の稼ぎに直結していく。

 この場合金を払うのは頼んだ者になる。

 一団といえどもそこまで負担をするわけにはいかない。

 また、一団の作業が優先されるので、それらが無い時間帯にしてもらう事になる。

 なので確実の都合が合わないと作業を頼めない事もある。

 それでも一週間に二日か三日は頼まれる事があるので、割と良い稼ぎになる。

 この個人的な依頼を取り付けてくるのも掃除婦達にとって重要なやりとりになっていた。

 ヒロノリの部屋の片付けも、そうした個人的な依頼の一つである。



 持って生まれたズボラさもあるが、仕事が忙しいため部屋を片付けてる余裕が無い。

 そのため、どうしても他の誰かに頼む事になる。

 ただ、ヒロノリの立てた倉庫(を転用した住居)はあくまで個人の所有となっている。

 一団の敷地内にあるが、一団の施設ではない。

 なので片付けを頼むとしたら自腹になる。

 その分の出費もしないといけない。

 一団の統率者といえども、そこを覆すわけにはいかなかった。

 統率者だからこそとも言える。

 なので二週間に一回ほど掃除をしてもらう頼んでいた。

 頼まれた方も払いが良いのでそれを喜んで引き受けている。



「とは言ってもねえ……」

 苦笑しつつ微妙に散らかってる部屋を片付けながら、掃除婦はぼやく。

「ここまで散らかすってのも見事なもんよね」

 その感想通り、ヒロノリの使ってる部屋の汚れ方というか汚さはなかなかのものである。

 物がそれほど多いわけでもないのにどういうわけか散らかる。

 それは他の所もそうなのだが、ヒロノリの所は一種独特だった。

 とにかく何かが散らかっている。

 大げさに散らばってるわけではないのだが、小さな範囲の散らかりがあちこちに発生している。

 机の上だとか、卓の上だとかベッドの周りだとか。

 それ以外の部分にまで何かが散乱してる事はないのだが、部分部分に散乱が集中していた。

 それらの集合体がヒロノリの部屋であった。

 そしてその理由もおおよそ見当がついている。

「ここしか使ってないんだね、相変わらず」

 日頃の生活で使う場所。

 それがヒロノリが散らかしてる場所だった。

 なので、机と卓とベッドの周辺が騒がしい。

 あと、衣類などをおさめてるタンスとその周囲。

 このあたりだけが妙に何かが散乱してるのだ。

 そこ以外は実に綺麗なものである。

 使った形跡がない。

 全く無いという事はないが、ほとんど見あたらない。

 偏った使い方をしている。

 だからこそ、落差がはっきりともしていく。

「足を踏んでない所だけだね、埃がないのは」

 それだけ行動範囲が限られてると言える。

 一人で使うには倉庫を改装した住居が大きいせいもあるだろうが。

 それにしても、使ってる部分が少ない。

「帰って、食べて、寝て、書き物をするだけかあ……」

 何と言うか仕事一辺倒な様子がうかがえる。

 だから数年でこれだけ巨大な一団を作り上げたのだろうが。

「こんなんで大丈夫なのかねえ」

 自分より随分と年上の相手であるが心配してしまう。

 仕事漬けで自分を潰してしまうのではないかと。

 余計なお世話であるのは分かっているが。

「ま、それがあの人の良いところか」

 良くも悪くも真面目なのだろう。

 決まったところを決めたとおりに使おうとしてる部屋の様子からもそう思えた。

 その割に散らかしたものを片付けないズボラさもあるが。

 それもまた、手を出せない所はすっぱりと切り捨てる決断力のあらわれかもしれなかった。

「おかげで仕事が回ってくるんだから文句は言えないしねえ」

 出来ない事を他人に任せる度量と掃除婦は思う事にしていた。

 総じて、悪い人ではないという結論に落ち着く。

 面倒そうな所もある人物ではあろうが。

「ま、仕事仕事」

 ぶつぶつと独り言を呟きながら、それでも掃除婦は面白そうに掃除をしていった。

 やりなれた作業だけに雑作もなく事を進めていく。

 極端に汚れた部屋というわけでもないのでやりやすい。

 そんな所も含めて、ヒロノリには好ましい印象を抱いていた。

 ヒロイン成分がまったく、これっぽちも、欠片もない本編なので、少しは色気を出そうとこんな話をこさえている。

 前回の閑話もおおむねそのつもりで書いてみた。

 それでも主人公との絡みはほとんどないという。

 そこが書いてる人の限界なのかもしれぬ。



 それと、昨日も書いたお知らせ。



 77話の投稿をしくじっていまして、78話を掲載してました。

 現在投稿しなおして、本来の77話を掲載してます。



 同様のことが40話でも発生しておりました。

 これはすでに活動報告にも買いていましたが、あらためてここでも掲示しておきます。



 まだごらんになってない方がいましたら、これらに目を通していただけると幸いです。



 ……しばらくこのお知らせを掲載していこうと思います。

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