転職80日目 開拓日記9
「まあ、人事異動は現場と後方の状態を見ながらだな」
あちこちで起こってる出来事を聞きながらそう言っていく。
裏方の作業に回りたがる者達や、モンスター退治に出向きたいと言う者達などのやりとりはなかなかに難しい。
どちらも一時的に人数不足に陥る事になるので、簡単に決めるわけにはいかない。
一団としてそれらに命令を出すわけでもないが、なるべくなら穏便にゆるやかに進んでいってくれるよう願うしかない。
所属してるとは言っても、一団員に命令を出せるというわけではない。
どちらかというと互助会としての性格が強いのが一団である。
個人事業主の集まり、連合体、同盟といったものが一団である。
少なくともヒロノリはそう意識していた。
なので、誰が所属してるのかを管理するための人事部はあるが、配属や所属を上層部が決定するという事は無い。
そんな事が出来るような組織となってるわけではない。
そういう意味では集団という方が正確であろう。
誰かが集まって出来てる団体なのだ。
ただ、全体のバランスなどの調整があるので、一応希望や要望を届けてもらってる。
所属してる者達も、変に自分だけで行動するよりはその方が無理や問題がないのでそうしている。
異動希望者を募り、それらを引き合わせる事で一団に与える影響を和らげようとしていた。
移動希望者も、そうして置いた方が適度な移動が出来るのでそうしている。
所属の変更というか役割の移動というか。
それを希望した者同士で組ませる事で、移動を楽に進める事は確かに出来ていた。
要望を出してる者達を合流させて組ませてモンスター退治に出向かせるのだ。
元々戦闘をしていた者達と、新たに戦闘に加わろうとしてる者達で組めば、他の者達の負担が減る。
戦闘技術を持ってる者達は一般的な作業をしてた者達を率いる事になるので手間はかかる。
だが、教育作業という扱いになるので、収入は増える。
本来であれば頭割りになる分け前が変わってくる。
作業員の方は一日銀貨一枚が分け前の上限になるが、その分教官役の者の受け取り分が増える。
教官の方は分け前が増える事で、戦闘が出来ない者を率いる手間を埋め合わせる。
その為の引き合わせを人事としてする事で、余計な無駄を省いていた。
それをしなかった場合、各自が相手を探さねばならなくなる。
一団としても、作業の停滞を極力抑えることが出来るので利点がある。
集団である事による利点の一つであろう。
単独で活動してる冒険者であれば、こういう事も難しい。
「でもまあ、異動希望者ってのは無くならないもんだな」
「やってみるまで何が自分に合ってるか分からないですからね」
「稼ぎと安全、どっちを取るかも悩ましいですし」
技術レベルでは計れない部分である。
性格や人格による向き不向きというのは、実際にやってみるまで分からないものである。
技術レベルが高くても戦闘にストレスを感じる者はいるし、一般作業をしてても何か納得出来ない気持ちになる者は出て来る。
そういった者達にも試す機会を提供する場所としても一団は上手く機能している。
自分でも分からない適性を探す場所にもなっていた。
その甲斐があったのかどうか。
一団内部においても役割の固定というか、専業集団のようなものが出来上がりつつある。
モンスター退治は言うに及ばず、それを支える様々な作業。
それをこなす者達が出来つつあった。
基本的にはモンスター退治が本業である。
だが、ある程度戦闘技術を身につけたら、後は自分のやりたい物事を身につけていく者達が出てきていた。
それが木工だったり料理だったり金属加工だったりと内容は様々だ。
それらが必要な時に役立つ事がだんだんと出てきていた。
専業でそれらをやる者達には及ばないまでも、当面の支えや応急処置としてなら十分に期待出来るようになっている。
だんだんと専門の技術者を呼ばなくても一団内で多くを賄う事が出来るようになりつつあった。
専属として活動せねばならない場合は他の者達に任す事になるが、臨時で増員が必要な時に外部に発注する必要がない。
それが一団の自己完結性を、独自の活動能力を高めていっていた。
もちろん専属で作業する者達が不要になったわけではない。
継続して毎日やらねばならない作業には、専属で従事する者が必要である。
そういった部署には兼任の者をおくわけにはいかない。
そちらで手が足りない時の応急処置として、戦闘以外の技術を身につけてる者達が重宝するのだ。
ライフスタイルというか生き方の変化が訪れてると言えた。
危険ではあるが、モンスター退治をする事で通常より技術を身につける時間を短縮する事が出来る。
それが一時的な進路変更を比較的簡単なものとしていた。
一年から二年かかるレベル3に半年程度で到達可能になるのだから、人生の余裕がかなり大きくなる。
最低限の戦闘技術を半年で、それから更に半年かけてより強固なものとし、それから二年三年をやりたい技術修得に費やす。
そんな事が可能となっていた。
簡単とはさすがに言わないが、その間に専門的な技術者などになっていくのも良いのではないかという考えが次第に出て来るようになった。
実際にそういった経路をたどった者もいる。
意識してそういった事をやろうとしていたわけではないが、ある程度戦闘をこなせるようになってから趣味の技術を伸ばしはじめた者達である。
戦闘技術をレベル3からレベル5あたりまで身につけ、確実に戦闘をこなせるようになってから余技を身につけはじめた者達がいた。
そんな彼等も、趣味として身につけて技術を伸ばし、次第にプロと呼べる段階に到達していった。
そういった者達がモンスター退治に区切りを付け、伸ばした一般的な技術で活動をしていっている。
人数は多くはないが、そういった者達が先駆者となってやり方を示していた。
口で言うのではなく、自分の経歴を見せる事で。
戦闘以外を目的としてやってきた者達の中には、そういった者達を見て自分も続こうと考える者も出てきた。
もう何年にもなる活動の中で、様々な道や可能性を示す事となっていた。
「何がどうなるか分からんもんだなあ」
そういった経緯を眺めると、ヒロノリすらも驚く事がある。
意図的にやってきたわけではなく、単に好きにやってもらっていただけであった。
それがまさかの新しい可能性を示す事になっているのだ。
計画にしろ何にしろ、頭で考えてるだけでは出て来ないものである。
実際にやってみて、やってみた結果が出て来て、その中で思いもがけないものが生まれてきている。
人の知性や知識の限界を示されてるようでもあった。
考えないわけにはいかないが、可能性というのは頭で考えてるだけで出て来るわけではない。
やって来た道のりの中に、思いもよらなかった何かが潜んでるかもしれない。
やってるうちに新たな可能性が見えてくる事もある。
本筋とは関係なくやっていた事が、結果として役立ってる事もある。
とにかく思いもよらない事がどこかに潜んでるものである。
「考えてる範囲ってのは案外狭いもんだな」
「まったくです」
予期せぬ、予想すらしなかった、予定には当然なかった事にヒロノリ以下の者達も驚くしかなかった。
そうそうこういった良い意味での意外さに遭遇するわけではないとも思う。
しかし、人間が考える以上に様々な出来事が起こるという事はあるのだとも感じていた。
「幸運が起こる事を予定に組み込むわけにはいかんけど」
「ですね」
「でも、そういう事も今後起こり得るんでしょうね」
「だろうな。
それが良い事であるのを願うよ」
思ってもいない悪い事も起こり得る。
むしろそちらの方が多いだろう。
身をもってそれを体験してきただけに、ヒロノリは慎重にならざるえなかった。
起こりうる幸運を考慮に入れても。
昨日は前書きで書いたけど、今日はあとがきで。
77話の投稿をしくじっていまして、78話を掲載してました。
現在投稿しなおして、本来の77話を掲載してます。
同様のことが40話でも発生しておりました。
これはすでに活動報告にも買いていましたが、あらためてここでも掲示しておきます。
まだごらんになってない方がいましたら、これらに目を通していただけると幸いです。




