転職8日目 求めていたのはこんな事じゃない(主に出会い的に)
(売春宿に行けば良いだけなんだろうけど)
この世界にも世界最古の商売と言われるものはある。
だが、求めてるのはそういうものではない。
女といちゃつくだけならそれで良いかもしれないが、そういうのを求めてるのではないのだ。
欲しいのは売買による関係ではなく、心を通じ合わせた……なんて考えるとあまりの青臭さにもんどりをうってしまいそうになる。
ハーレム展開とか美少女に美女を侍らすとか、多くの女性と仲良くなどと考えてるくせに何を、と言ったところである。
だが、このあたりがヒロノリの譲れない一線であった。
……とはいえやはり興味はある。
一度は興味に引かれて出向いた事もある。
幸いと言って良いのかどうか悩ましい所だが、この町にもそういった商売をしてる一角があった。
ある程度金が貯まった所で、どんなものなのかを見に行った。
なのだが、そこで目にしたものがあまりにも衝撃的すぎた。
一角と言っても本当に小さなものだった。
せいぜいそれ専門と思われる店が二軒隣り合ってるだけ。
あとはその店の周囲に客引きの男と、町で客を取る街娼がいるくらいだ。
で、立ってる女と店の飾り窓にいる女を見て、瞬時に見切りをつけてしまった。
それだけ衝撃的だった。
この世界ではそれが標準なのかもしれないが、あまりにも化粧が濃い。
遠目や夜目だからよく分からなかった、という事は無い。
その一角だけ魔力を用いた灯りを点けていたので、結構はっきりと物が見える。
おかげで一気に興味が薄れてしまった。
多少の化粧は当然だろうとは思うが、元の造形がはっきりしないほどに塗り込まれてるのはいただけなかった。
それはもう化粧と言うより仮面とみなすべきものだった。
(さすがにあれはきつい……)
金を握って出向いた事が、それで全てが萎えた。
いい加減それでもいいじゃないかと思うが、生理的に受け付けない程に酷いものに見えてしまった。
その時見た事を思い出すと頭を抱えてしまう。
(あれならエロゲーでもやってた方がまだマシだ)
創作物は優秀すぎた。
現実が太刀打ち出来ないほどである。
そのせいとは思わないが、現実にあらためて目を転じてみるしかない現在、落差の大きさを感じてしまう。
誤解を恐れずに言えば、それらが消費者にとって最も都合の良いものを提供してきたからでもあるだろう。
理想の追求の究極と言える。
そんなものと、全てが思うようにいくわけではない現実を比べるのが酷ではある。
それが無いにしても、分厚い化粧と露出の大きな衣装の下に何があるのかと考えると色々と萎えてしまう。
それはそれで落差の大きさに驚くのではないかと思えた。
欲求は依然として存在してるが、そこらで解消したいとは思えなかった。
以上、様々な理由により、ハーレムルートすらも諦めるしかなくなった。
やるならば、今以上に稼いで功績を挙げるしかない。
でなければ一般的な庶民平民達との関係すら縮める事が出来ない。
大なり小なり何処にでもあるだろうが、地元民と余所者とではどうしても溝や壁がある。
接点が少ないし、あってもどこかに一線を引かれ深い付き合いにはなりにくい。
これは冒険者に限らず、行商人なども同じだ。
外から来た者への警戒心とばかりも言い切れない。
顔見知り同士が長年にわたって造り上げてきた仲間意識も大きい。
悪い事ではない。
見知った者同士で以心伝心・意気投合してるのは強みであり良い事でもある。
結果としてそれ以外の者との関係にどうしても一定の限界を作ってしまうだけである。
下手に中に入ろうとせず、物のやりとりなどの交易をしていればそれなりに関係を作っていく事は出来る。
ヒロノリもそのあたりは何となく肌で感じている事だし、変に深入りしようとは思わなかった。
期待したような素敵な展開の可能性が低くなってるのが残念なだけである。
(エロゲのようにはいかないか)
虚構と現実の区別がついてるのは良い事であろう。
しかし、いきなりエロゲーのような展開を求めるのはどうだろうかとも言える。
せめてギャルゲー程度に止めておけ、と誰かが忠告してあげられればどれだけ良い事だろうか。
そういった者がいないのが、もしかしたらもっとも悲劇なのかもしれない。
長々とした説明が続いたが、とどのつまりハーレム的な展開は現状では決して叶えられない夢物語と言って良かった。
それを理解せざるえないからため息を吐くしかない。
抑圧されてきた今まで違い、この世界では縦横無尽に駆け巡り、金銀財宝もほしいまま。
様々な美女に美少女と昼夜を問わずにむつみあえるかもという希望は希望だけで終わりそうだった。
しかし、これでくじけるようならブラック企業の社員として数年を過ごす事は出来なかっただろう。
(まあ、それならそれで)
頭を切り換え、次の方策を考えていく。
求めるものは同じだが、自分に出来る範囲で、出来る事からと考えていく。
このしぶとさがあったからこそ、どうにかこうにか今まで生きて来れたのだろう。
実際に何かが思い浮かんだり、凄い方法を考えついたりするとは限らない。
だが、いつまでも失敗や出来ない事にこだわらないのは強みである。
悔しい思いはどうしても引きずるが、同じような事はしないとも考える。
(何かあるか?)
自分にも出来そうな事、自分でも出来る事。
それを考えていく。
与えられた条件で出来る事は無いかと。
秀でた所がほとんどないが、それでも出来る事はあるのかと。
(無理だよなあ……)
さすがに自分にそこまで期待は出来なかった。
だが、このまま全てを終わらす気にもならなかった。
(何かある、必ず何かある)
そう思ってればいずれ答えが見つかる──ヒロノリが見つけた、ささやかな経験論である。
駄目だと思っていれば本当に何も良い事は起こらない。
しかし、答えを求め、よりよい結果を求めているならば、いずれ何かがやってくる。
その何かをヒロノリは求めていった。
ともあれ、まずは自分の食い扶持が先である。
これから先を求めていくにしても、その為には食っていかねばならない。
困窮から逃れない事には何がどうなるものでもないのだから。
その結果と言って良いのだろうか。
自分でも突飛だと思うような思いつきが頭に浮かんだ。
(だったら、一から作るか)
なぜかそんな事を考えていく。
今ある者が駄目なら、自分が求めるものを作ってしまえ、と訳の分からない方向転換をしてしまう。
それこそ無謀な挑戦でしかないのだが、本人は全く気にしなかった。
(そうだよ、全部始めから作れば良いんだよ。
素質のある子を集めて、立派に成長させればいいんだ)
頭の中に浮かんでいたのは、かつてやりこんだ様々な育成系のギャルゲーでありエロゲーであった。
特に年齢制限がかけられ、子供の購入は禁止されているゲームなどが。
その内容がヒロノリの頭の中で重点的に再生されていく。
(あんな風に俺好みに育てていけば……!
源氏物語のように、源氏物語のように!)
紫式部と日本文学への冒涜的な考えを浮かべているが、それを掣肘する心ある者はいなかった。
(とりあえず、将来のかわい子ちゃんを確保しないと)
そう思って出向いたのが孤児院であった。
時折堀のモンスターを倒して核を抜き取ってる子供達の姿を見たことがある。
それについて聞き回って孤児院なる存在がある事を知った。
(寄付や差し入れをしてまずはあたりをつけておいて……)
無粋どころか邪な事を考えながら出向いたものだった。
そして現実を直視する事となる。
続きは明日になります。
18:00予定。