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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第四決算期

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転職79日目 開拓日記8

<お知らせ>


 ただいま様々な方から指摘を受けておりますとおり、掲載する話を間違えております。

 あらためて確認をしたところ、このお話を掲載し間違えていた……というわけではなく、77話を掲載し間違えていたのが分かりました。

 本来であれば78話になるはずだった話を77話として投稿しており、そのため一話ずつずれているという事になっておりました。

 なので、ここに掲載されてる話は79話で間違いありません。


 掲載し忘れていた、飛ばしてしまっていた本来の77話はすでに掲載しております。

 ここまで読んでもらって大変申し訳ありませんが、あらためて77話を再読していただければありがたいです。


 なんにしてもお騒がせしてしまい、大変申し訳ありませんでした。


<以上です>

「いよいよか」

 その日、ヒロノリはツヨシ達を見ながらそう漏らした。

 最初に出会ってから六年が過ぎ去っている。

 その間に成長した彼等は、既に青年となっていた。

 それでもまだ年齢でいえば二十歳になろうかならないかというあたりである。

 まだまだ若い。

 それが、今や自分達の家を持とうとしている。

 出世といって良いだろう。

 今日の食い扶持を必死に集めていた孤児からここまで来たのだから。

「これからも大変だけど、頑張るんだぞ」

 そう言ってヒロノリは励ましていく。

 拠点となった村における、移住第一号であるツヨシ達に。



 裏の方への移住については考えてはいたが、なり手はそうそうなかった。

 モンスターとの最前線であり、一時的な逗留はともかく、永続する移住まで踏ん切る事は出来ない。

 そういうものがほとんどだった。

 責めるわけにもいかない。

 モンスターの脅威にさらされる最前線に出向こうなどと思う者はそうはいない。

 居を構えるなどというものはそうはいなかった。

 それでもツヨシ達は名乗りをあげた。



「このままってわけにもいかないしね」

 いい加減、これ以上結婚を伸ばせないというツヨシ達は、理由をそう説明した。

「復興中の村の方も難しいし、貴族にぶんどられた所なんて行きたくもない」

「そうか」

 だったら仕方ないと思った。

 何にせよ彼等が決めた事である。

 それなら受け入れるしかない。

 ヒロノリとしてもそうしてくれると助かるというのもある。

「出来れば村の中心になっていってもらいたいな」

「それはどうかな」

 笑って受け流すツヨシであるが、ヒロノリはそれを期待したかった。

 どのみち村にはまとめる者が必要になる。

 それをツヨシがやってくれればありがたい。

 何せ一団における古参だ。

 しかも若い。

 これからがある。

 時間を味方にする事が出来る。

 今は若いが、これから時間をかけて村に根を張っていく事が出来る。

 そうなる前に更なる飛躍をしていき、村や一団からも飛び出していくかもしれない。

 何がどうなるかは分からないが、多くの可能性を持っている。

 それを大事にしてもらいたかった。

 ついでに一団の利益にもなればと思いつつ。



 誰にも知られないよう気をつけながら造り上げた拠点が拡張されていく。

 村を拡大するように堀と柵がつくられていく。

 一団とは別に作られたその空間に、ツヨシ達の新居が建っていった。

 宿舎として用いる、共用の小屋ではない。

 家族が住む為の住居である。

 設計自体は宿舎の小屋とそれほど変わりはない。

 しかし、そこを使うのは新たに夫婦となる者だけ。

 そんな家が十軒ほど建てられていく。

 隣接する拠点に住み込んでる者達は、それを見て圧倒されていった。

 全部がそうではないが、作業員にしろ冒険者にしろそれなりに年齢が高い者は多い。

 食うや食わずの生活を続け、どうにかこうにか生きてるうちにそういった年齢になった者達である。

 そんな者達からすれば遙かに年下の者達が、所帯を持って家を建てているのだ。

 これが衝撃でない訳がない。

 一瞬、嫉妬が浮かんできて理由のない不公平さを感じてしまう。

(俺達、これだけ頑張って、こんだけしか稼げてないのに)

(あいつらは家まで持ってるのかよ……)

 人間として恥ずべきものであるが、浮かんでくるものを抑える術は無い。

 しかし、その直後に非を悟る。

(いや、あいつらはモンスター退治で稼いでたんだし)

(ガキの頃からそれ一本でやって来てたって言うし)

(何年も頑張ってれば家を建てるくらいの蓄えは出来るか)

 それは彼等も理解している。

 自分達のやってきた事も。

 彼等にも非があるわけではない。

 貧民街に身を寄せるしかなかった境遇と、その中で必死になってもがいてきたのは賞賛すべきである。

 食っていくだけで精一杯だったとしても、死なずにここまで生きてきたのだから。

 今もモンスターに囲まれた場所で、拠点の拡張のために働いている。

 全てではないが、復活させていっている畑を手にした者もいる。

 しかし、それでいてなお、目の前に見る者達の出してる成果に嫉妬をおぼえていく。

 だが、彼等はそれを少しは健全な流れに向かわせるだけの道理は心得ていた。

(俺らもいずれは……)

(ああやって、俺らの家を……)

 目に見える形で示されたものを、いつか自分もと考えていく。

 不可能ではないと示してくれてもいるのだから。



 言ってしまえば格差の発生と言えるだろう。

 宿舎住まいと家持ちの差という形ではっきりと出てきただけである。

 それ以前に、収入差というのであればとっくにそれは出てきている。

 モンスター退治をしてる者とそれ以外では圧倒的な差が発生している。

 その時の状況にもよるが、レベル3以上でモンスター退治をしてる者達の一日の稼ぎは銀貨三枚はかたい。

 モンスターの出没状況などもあるし、天気によっては出動出来ない事もある。

 それでも、一ヶ月の稼ぎはおおむね銀貨四十枚から六十枚で推移する。

 命がけの激務の報酬として妥当かどうかは悩ましいが、普通に生活するだけなら十分過ぎるほどの稼ぎである。

 出費が多いのも確かではある。

 武器や防具の修理や新規の購入、薬草などの消耗品の用意、一団の運営費などなど。

 必要最低限の部分だけでもそれなりの金を払わねばならない。

 経費としてそれらはどうしても必要になる。

 それだけで一ヶ月に銀貨数枚は消えていく。

 更に生活費などを考えると自由になる金は減っていく。

 それでも底辺の労働者の一ヶ月の収入くらいの金額を好きに使える。

 一般的な作業員などとは比べものにならない程の稼ぎがあった。



 これに対して作業員の賃金はそれほど多くはない。

 日当として概ね銀貨一枚ほどを出されるし、宿舎や食事は基本的には無料である。

 食事などは割り当てが決まっているし、呈示される以上に食べたければその分の負担はしなくてはならない。

 だとしても手元に残る金はかなりのものとなる。

 一ヶ月で大体銀貨二十枚ほどの収入であるが、生活費などはそれほど負担する必要は無い。

 どんなに頑張っても収入の半分程度の出費でおさまる。

 酒や博打に女につぎ込めば話は別だが、節度を保っているなら金は残る。

 他の多くの作業員に比べればかなり恵まれている。

 だが、モンスター退治に比べればどうしても収入は劣る。

 そして収入や手元に残る金額の差は、時間が経つと大きな違いとなってしまう。

 どちらの仕事が尊いとか優れてるというわけではないが、発生する違いは無くしようがない。

 やってる仕事などによって出て来る違いとしか言いようがなかった。



 全員が貧しい所にいるなら、そんな差を感じる事もなかっただろう。

 しかし、やってる仕事による差は当然出て来る。

 それは覆しようがない。

 それでも、概ね全員が豊かになっていてるのは間違いはない。

 少なくとも今までよりは良い状態になってはいる。

 ただ、全員を同じ程度にする事は出来ないというだけで。

 それを均すのも道理に反する。

 一人一人に違いがあるのであれば、成果も結果も違ってくる。

 それを差というならば、それは当たり前として認めねばなるまい。

 他人を侵害してるのでもないならば、非難される事は無い。

 どうしても稼ぎたければ、稼いでる者と同じ事をすれば良いだけである。

 この場合モンスター退治がそれに当たる。

 それをやるかやらないかは人それぞれの判断だ。

 やると決めればそれに向けて頑張るしかない。

 無理だと思うならば、それ以外で何かをしていくしかない。



 それを認めた上で、作業員達も決断をしていく。

 稼ぎはほどほどだが、安全にやっていける今を貫くか。

 今からでも危険を承知でモンスター退治に飛び込むか。

 はたまたもっと別のよりよい何かを求めて別のどこかへ向かっていくか。

 それを選ぶ自由は彼等に与えられている。

 何を選ぶも彼等自身の自由であった。



 その結果。

 ごく一部の者達がモンスター退治を希望していく。

 危険は承知で今よりも高い稼ぎを求めて。

 残りの大半は、今の状況でいる事を受け入れていく。

 いずれは自分も田畑を手に入れる事を夢見ながら。

 だが、ここから飛び出す者は皆無だった。

 今の状況に満足はしてなくても、他に行くあてもない。

 ここより良い境遇の場所があるというわけでもない。

 この世のどこかにはそういう所もあるかもしれないが、そんなものを見つける余裕などない。

 ならば今ここで頑張るしかない、と考える者がほとんどだった。

 そんな状態であっても、確かに蓄えを作っていけているのだから。

 ここに来るまで、そんな事すらも出来ていなかった。

 それを考えれば、ここから抜け出すなどという選択肢は消えていく。

 ここで頑張るしかないとあらためて理解していくしかなかった。

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