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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第四決算期

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転職76日目 開拓日記5

「……本当に俺達でも大丈夫なのか?」

「もちろんだ。

 こっちは人手が幾らでも欲しい。

 あんたらが来てくれるなら、ある程度の支度はこっちで受け持つ」

 とある町の貧民街でそんな話が進められていっていた。

 話を聞いてる者達は半信半疑であった。

 それも仕方ないかもしれない。

 何せ、最初の二ヶ月ほどの衣食住の負担は受け持ち、なおかつ必要な武具も提供するというのだから。

 おまけに、やり方の教育もしてくれるという。

「その代わり、使えない、出来ないと判断したら叩き出す。

 こっちはレベル3以上の冒険者が揃ってる。

 出来ないとは思うなよ」

 脅しも忘れずにかけられる。

 それは念押しの為の、言ってしまえば嘘ではないのが感じられた。

 実際に下手をうったら始末にかかるだろうと思わせるものがある。

 しかし、それでも貧民街の者達は話に乗り気であった。

 まともな食い扶持にありつく事も困難な者達だ。

 それが、ここまでの条件を示されてしまえば、やる気も出てくる。

 何より大きいのは収入だった。

「銀貨一枚か……」

「しかも、訓練してる時でそれなんだろ」

「嘘みてえだ」

 嘘ではない。

 実際、まともにモンスター退治に出ていればそれくらいは稼げるようになる。

 それを続ける度胸と根気があるかどうかは問われるが。

 しかし、今のまま貧困生活を続けるよりはと誰も思う。

 モンスター退治が危険であるとしても。



 金になるのは誰も知っていた。

 モンスター退治が危険であり、困難を伴う事と同じくらいに。

 それでも稼ぎは大きく、レベルが上がれば一日の稼ぎは銀貨一枚ではきかない事も。

 成功してる冒険者……というより、生き残ってるというべきだろうか。

 長く続けてる冒険者が割と裕福なのはよく知られてるところだ。

『とにかくレベル3』という言葉もある。

 苦しくてもつらくても、とにかくレベル3になるまで頑張れば、それなりに稼いでいける事が出来る。

 そういう意味として伝わっている。

 冒険者に限った事では無く、様々な職業における目安である。

 そのレベル3までいけば、危険もなく確実に稼げるようになる。

 冒険者もそうであった。

 それくらいのレベルになれば、モンスターを倒すのがかなり容易くなる。

 その為、危険も少なく安全に稼げるようになる。

 だが、そこに至るまでに死ぬ者が多い。

 レベル3になれば稼げるのに冒険者が敬遠されやすいのは、モンスター相手による死亡率の高さが問題になっていた。

 しかし、その危険をかなり軽減してくれるというのが、呈示された話の内容だった。

 そうであるならば挑戦する意義はある。

 斡旋してきてる者達が嘘を吐いてなければ。



「どうする?」

 問われて誰もが尻込みをする。

 やってみたいと思いはするが、果たしてその言葉を信じていいのかどうか。

 それが彼等に共通した思いだった。

「そう言ってくれるのはりがてえけどさ」

「俺ら、あんたらを信じていいのか?」

「話が美味すぎて疑っちまうよ」

 彼等の懸念はそこにあった。

 美味い話には裏がある。

 それは社会の片隅に居着かざる得なかった彼等が身に染みて実感してきた事である。

 何かにつけて騙され、悲惨な境遇に追い込まれるのは幾度もあった。

 だからどうしても警戒してしまう。

「まあ、そうだろうな」

 話を持ってきた男もそれは理解している。

「だから、まずは俺らの拠点で作業員をしてみないか?

 何をしてるのかを実際に見て、それで判断してくれればいい。

 一週間なら、寝床と飯も用意する」

 斡旋の条件にそれもある。

 いきなりモンスター退治は厳しいのは分かってるので、実際に何をしてるのかを見てもらう。

 それからあらためて決めれば良い、というのも条件の中に入っていた。

 それほど時間を割く事が出来ないので一週間という短期間であるが、その間は見学として拠点での労働に従事する事になる。

「寝床と食事は出すし、少ないけど賃金も出す。

 それでどうだ?」

 なお、賃金は日当三千銅貨。

 日頃の労働よりは若干安いが、寝床と食事が出るなら破格である。

 三千銅貨はまるまる手元に残る。

 一週間もあれば銀貨二枚分の稼ぎになる。

 美味しい仕事と言えた。

 それには多くの者がゆれた。

「それだったら……」

「まあ、たしかにな」

「むしろありがたいくらいだ」

 口々に賛同があがっていく。

 モンスター退治はともかく、いつもと変わらない作業内容であるならば抵抗は少ない。

「じゃあ、明日周旋屋に来てくれ。

 そこで正式な契約をする」

 そう言ってここでの話は終わった。

 仕事の話を持ってきた者達が立ち去り、残された貧民達が額を突きつけ合わせる。

「どうする?」

「どうするって……」

「行ってみようかと思うよ、俺は」

「うーん、話が美味いように思うけど」

「けどなあ、周旋屋が間に入ってんだろ?」

「だったらなあ……」

「まあ、周旋屋もグルかもしれんけど」

「それを言ったらどんな仕事もそうだしなあ……」

 疑問と期待とが入り交じった会話が続く。

 しかし、半分くらいは言ってみようという気持ちになっていた。



 結局、半分くらいが話を受ける事となった。

 いきなり全員が出向くのは危険が大きい。

 まずは様子見という事で半分が出向く事になった。

 それで様子を見て、いけるならという事で決着がつく。

 翌日の周旋屋には赴く者達がやってきて、斡旋人と契約をしていく。

 実労働は一週間、往復の移動で最大一週間。

 移動中は賃金は発生しないが、食事は出す。

 拘束の最大期間は二週間となるが、行き来で不具合が起こったりした場合は伸びる可能性はある。

 それでも最大で一ヶ月(およそ四週間)を超えない。

 ──出された条件はそのようになった。



 条件を受け入れた者達が旅立ち、そして二週間が過ぎる。

 予定より若干早く帰ってきた者達は、出ていった時の不安を消し、真剣な表情で見てきたものを伝えていく。

「あれならやれるかもしれん」

「俺達みたいな新人も多かった」

「モンスター退治は確かに危険だけど、一緒に出向く人はもっと強いから危険は無さそうだ」

「なんでも、レベル5とかになってる人がほとんどだとか」

「そんな人について、モンスターを倒していくから、そんなに危険もない」

「レベルもかなり早く上がるみたいで、半年もしないうちにレベル3にはなるみたいだ」

 そんな話が出向いた者達から飛び込んでくる。

 それを聞いて、多くの者達が乗り気になっていった。

「それに、モンスター退治以外の仕事もあるらしい」

「色々と作業が必要で、人手はいつも募集してるとか」

「宿舎の清掃とか衣類の洗濯、食事作りとかもあるらしいぞ」

「そっちは女子供向けらしいが、賃金はそれなりに出るらしい」

 これには女子供が食いついた。

 また、それだけでないのも示される。

「最低限の技術が必要だから、そこに届いてないのは駄目だっていうけどな」

「その為に、教育訓練もするとか」

「モンスター退治への同行で、そっちの技術を身につけてくれって」

「これも危険だけど、半年もすれば一通り出来るようになるっていうから、まあ悪くはないかもな」

 そこにはさすがに及び腰になったが、それでも魅力的と思えるものはあった。

「とにかく、俺はやってみるよ。

 やらないでいるよりはいい」

「このままじゃどうにもならねえしなあ」

「どうせ死ぬなら、一発挑戦してみるわ」

 そんな声が帰ってきた者達からあがってくる。

 聞いてる者達は驚きつつも、その話を聞いていた。

 斡旋人が言ってるなら、ただの美味い話と思うが、仲間がこうも言ってると考えも変わってくる。

 警戒は以前としてしているが、もしかしたらという期待と可能性が大きくなる。

「お前らもどうだ?」

「なんなら一週間っていう試用期間を利用したらいい。

 実際に見てみると色々と分かるぞ」

 そうやって熱心に勧誘もしてくる。

 とどめとばかりに彼等の一週間の稼ぎが出される。

「これ、俺達の労賃だ。

 確かに銀貨二枚はくれたよ」

 正確には銀貨二枚に、銅貨一千枚である。

 七日間の労働報酬は確かにそこにあった。

 細かく使えるように、銅貨で支給されていたが。

 しかし、それだけに大量の銅貨が袋に入っている。

 見た目の物量は、それを見る者達の度肝を抜いた。

「すげえ」

「こんだけあれば一週間は食っていけるな」

 感嘆の声が次々にあがる。

「冒険者になれば、もっと稼げる。

 俺はやってみる。

 いや、絶対にやってやる」

 そういう声があがり、それにのまれた未経験者達も知らず知らず勢いにのまれていく。

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