転職75日目 開拓日記4
考えねばならない事は多い。
可能な限り自給自足という事で田畑の確保もしていかねばならないが、それ以外の資源・物資も必要である。
それらを手に入れるためにどうするかを考えていかねばならなかった。
可能な限り購入地域などを分散してるが、消費量が増えれば確実に何かしらの動きとなってあらわれる。
どうにかしてそれらを避けていきたかった。
「木材も、出来るならこの辺りで調達したいな」
現在、一番消費が大きいのはそれである。
出来る限り拠点化した村の近隣で調達したかった。
「伐採もこのあたりでやるとして、作業員と道具を調達していきたい」
担当者会議においてもこういった発言をして周囲に意見を呈示してもいる。
彼等もその必要性は理解してるので、可能な限りその方向で動こうとはしていた。
しかし、現実的な問題が幾つも達はだかる。
「やるとして、作業現場周辺でモンスターを阻止しなければならないので。
安全確保で冒険者が必要です」
「作業員を養っていくためにも場所が必要ですし、その分住居や食料も必要になります」
「どうしても限界がありますよ。
隠しながらやるのは」
伐採作業の作業員を仮に数十人として、それらを守る為に周辺地域に冒険者を二倍三倍で配置しないといけない。
それだけの余裕は現在なく、実施するのは難しい。
やったとしたら、それだけの人を動かした事で確実にやってる事が露見するだろう。
「無理か……」
残念ながらこれは認めねばならない事である。
「とにかく、秘密にしながら動かすのは難しくなっています。
せめて田畑だけでも確実に造り上げて、食料を調達出来るようにしないと」
それだけで何年もかかってしまう。
しかし、確実にやるにはこうするしかない。
「となると、その間はどうするかな」
もっと効率的な手段を考えるしかなかった。
しかし、隠しながら物事を進めるのは限界がある。
「いっそ、前面をもう少し強化するか」
様々な図面を見ていたヒロノリは、考え方を少し変えてみた。
「隠してやってる方は現状の規模のまま、少しずつ拡大拡張をしていってもらうとして。
その間に、表立ってる前面の方を拡大していこう」
前面や表と言ってるのは、復興している村や貴族が出しゃばってる拠点の方を指す。
目に付く場所だから前面や表と言っている。
対して後ろや裏というのは、秘密裏に確保した廃村の方を指す。
出来るだけ隠して物事を進めているので、そう呼んでいる。
主な目的というか、集中して開発するのは裏の方であるが、その為に表の方をしっかりと運営せねばならない。
なのだが、隠し立てするにも限界がある。
「表の方を強化して、出来るだけ裏を隠す。
前の方が拡大すれば、横流しもしやすくなるだろう。
全体が拡大すれば、そのなかで少量を別の方向に移動させても目立たなくなる」
発想の転換だった。
とにもかくにも裏の方の拠点は出来ている。
あとはもう表を拡大させて裏に流す量を増やしていく事にした。
その方が目立つ事も少ない。
「人員の拡大と育成を強化してくれ。
各地の拠点で育成をはじめて、使える人材を増やしてくれ。
一気に一百人も増えれば、次の拠点作りも難しくはないだろう」
表の拠点二つと、いくつかの集積地である中継地点などに分散すればモンスター退治の場所は増やせる。
その分教育の機会を増やす事が出来た。
「冒険者も事務員も、日常雑務も、とにかく人を作ってくれ。
これから更に拠点を一つ二つと増やしていく。
そこで稼いだ分を、裏に集中させる」
早速それによって得られる将来的な収入などが試算された。
単純に考えても、拠点が増えた分だけ収入が上がる。
維持費も増えるが、それでも絶対的な収益は拡大していく。
そして、拡大の手間は拠点が増える毎に低下する。
今も、拠点が二つ、実質的には三つある事で収益は増大している。
その為、次に拠点を作る為に進出するにしても、負担は小さい。
人材の育成も含めて、負担は低下していっている。
「この調子で、年内にあと一つ。
出来れば二つは拠点を作っておきたい。
来年には三つ四つを作っていける」
そこまで拡大すれば、裏の方に流し込める資本も増やす事が出来た。
莫大な資本を投入すれば、そのうちの一部がどこかに横流しされていても気づきにくい。
「ついでに、あちらさんの目を表の方に逸らす」
拠点の展開先を裏の方とは別方向に進めていく。
それによって、流れや動きに目を向けさせていく。
「その間に、こっちは裏の方向に進んでいくぞ」
その先にも、廃棄せざるえなかった村や町がある。
そこを取り戻していく事で一団の活動範囲を拡大させていく。
「俺達が手に入れるんだ。
俺達の場所を。
俺達が苦労して取り戻した場所を、他の誰かに横取りされないように」
ヒロノリの言葉に全員が頷いていく。
貴族が出向いてきた事に憤りを抱いてる者はヒロノリだけではない。
苦労して場所を確保したのは誰もが同じである。
何の支援も支持もせず、いきなりやってきて居座ってる連中を良く思うわけがない。
汗を流し血を流し、頭を絞り、心にかかる負担に堪えてきのを誰もが等しく感じている。
それを横からかっさらわれたという不満もまた、誰もが感じていた。
だからこそ、大半の一団員が裏における作業を支持していた。
どれほど困難があろうとも。
その支持がまた、ヒロノリの大きな味方でもある。
「とにかく、絶対に裏の方で俺達の場所を手に入れる。
もう誰にも手を出させない。
俺達が作ったものは、俺達のものだ」
その思いが彼等を支えていた。
単純な損得であれば、貴族が出しゃばってきても問題は無いのに。
むしろ、様々な負担を貴族や統治機構がまかなってくれる。
損は少ないだろう。
だが、それを認めてもなお残る憤りが一団を動かしていた。




