転職70日目 そちらがそのつもりなら、こちらはこうやっていく
貴族からの通達があった日からヒロノリ達の一団の活動は少し変化をしていった。
人を募集し、冒険者として育て、最前線に送り込んで稼ぐというのは変わらない。
その送り込む先が変わっていった。
いきなり全員がそうなっていくわけではない。
まずは先遣隊として一部を目的地に派遣していった。
古い地図などから、かつての集落や町などを探していく。
轍すら消えかけた場所に二十人くらいの偵察隊を馬車で送り込む、
その先がどうなってるのかを確認し、次の進出先を探していく。
やってる事は、廃村を探し当てた時と変わらない。
違ってるのは、それらを秘密裏にやってる事であった。
可能な限り他の者達に気づかれないように。
目撃者は少ないほど良い。
それらのために二ヶ月ほどを費やしていく。
その間に拠点も少しずつ充実させていく。
倉庫を更に増やし、人や物をより多く置けるようにしていく。
ただ、住居などは建設せずにいた。
手間と時間のかかるそれらは後回しにする事にしていった。
事情説明として、予算の都合と周囲には説明している。
現在、拠点は二カ所。
それらを全部整備していくための手間は大きなものとなる。
資金の負担も大きい。
そのため、利便性は低くなるが、可能な限り費用が安く済む簡素な倉庫を増やす事にしていった。
表向きにはそれが理由となっている。
そんな調子で二ヶ月が過ぎ去った頃、偵察・調査の結果が出始めていく。
古い地図の位置情報は正確で、確かにその場所にかつての集落が存在していた。
当然廃墟であり、一時的な逗留にも使えないようなものばかりだった。
しかし、そこに場所があるのが分かっただけでも十分である。
それが分かったところでヒロノリは、更にその先、より奥地にある集落の確認を命じていった。
モンスターが出没する地域により深く乗り込んでいかねばならず、危険は跳ね上がる。
それでもヒロノリは偵察を強行していった。
人数を増やし、出来るだけの準備をさせて。
そうしてでも掴んでおきたい情報があった。
結果が出るのはそれから更に一ヶ月ほどしてからである。
更に奥地、人里から遠く離れた地域の状態が分かってくる。
モンスターが蔓延ってるのは予想通りであったが、廃墟も概ね地図に記してある場所に存在していた。
知りたいのはそれだった。
幾つかの廃墟の位置を知り、より奥地へと向かっていく。
間に幾つもの廃墟を挟んだあたりで、ヒロノリは求める理想的な場所を見つける事が出来た。
「ここを手に入れる」
地図の一点、探し当てた場所を指す。
「やる事は今までと同じだ。
ただ、かなり遠くになるから手間も危険も跳ね上がる。
それでも、ここを手に入れるぞ」
そう宣言する。
聞いてる者達はその困難さに目眩がしそうだった。
目的地は遠い。
人や物を運ぶ手間は今まで以上である。
途中で集積所を何カ所か作っても、それでも大きな困難が伴うとみられた。
特にモンスターの脅威は果てしなく大きい。
偵察に出した者達も、かなりの負担を強いられたという。
にもかかわらずヒロノリは、
「途中で集積所とかは作らない。
目的地まで物を運ぶのも人を送り込むのも大変だけど、それは作らない」
一同は耳を疑った。
そしてヒロノリの正気を疑った。
「今回、そういうのは作れない。
あれば色々と勘ぐられる。
大変なのは分かるが、こうしないと駄目だ」
周りの者達は顔を見渡した。
「あの、そこまでするんですか?」
一人が疑問を口にする。
頷きが返っていく。
「ああ、少しでも気取られるような事は出来ない。
一気に目的地まで行かないと」
「なんでそこまで……」
「ま、色々考えての事だ」
答えは曖昧にしておいた。
どこに目や耳があるか分からない。
勘の良い者は察してしまうだろうが、それでも情報は制限しておいた方がよい。
今回の事は出来るだけ隠密に行いたい。
行わねばならなかった。
他所からの介入を減らす為に。
「とにかくやるぞ」
決意は変わらない。
ヒロノリは一同に納得するよう求めた。
表向きは今までと変わらない状態が続く。
あちこちの拠点においてモンスター退治が行われていき、物が行き交っていく。
新人も増え、拠点の整備も進んでいく。
それらのほとんどは計画として発表されるものばかりである。
一団の者達はいつも通りに公表されるこれからと、実際に進んで行く作業の実態を見て疑問を特に抱く事もない。
拠点などにおける建築速度は以前より鈍ってるが、それも広範囲に対象地域が広がったのだから仕方ないとも思っていた。
相変わらず日々は変わることなく、滞る事無く進んでいっている。
そうしてるうちに貴族もやってきて、最前線の拠点となった元廃村に赴任する。
その下準備として拠点となった村の中に大がかりな館が建てられた。
場所を大きく取るので邪魔でしかなかったが、文句を言うわけにもいかない。
送り込まれる物資と進んで行く建築。
それらを横目に見ている一団の冒険者達は、何となく不可解な思いを抱いていった。
(ここ、俺らが取り戻したんだよな)
血を見る覚悟で、実際怪我をしながら取り戻したのは自分達であると思っている。
思ってるだけでなく、事実としてそうなのだ。
(なんでこいつら、我が物顔なの?)
不可解でしょうがなかった。
そこにいるのが当たり前という顔が納得出来ない。
人の集まる所に統治機構が出来上がるのは、当然と言えば当然ではある。
あるのだが、当たり前のように居場所を取っていくのは納得しがたかった。
それが領主であろうと。
それでも不満を飲み込むのが下々の義務とも言えるものではある。
不満が解消するわけではなく、くすぶりつづける事になるわけだが、それをどうにか出来るわけではない。
ただ、横目に見ながら腕をくんでもらすだけである。
「解せねえなあ」と。
それもまたヒロノリにとっては追い風となる要素になりつつある。




