転職66日目 思った以上に作業は進んでいく
進展があるような無いような日々が過ぎていく。
見えない所では資金が貯まり、資材が増え、様々な発注が出されている。
だが、目に見える部分での大きな変化はない。
モンスターを倒しに行って、核を手にとって帰ってくる事の繰り返しである。
拠点の方に宿がもう一つ増えたが、それも焼け石に水といった状態だった。
ついでに倉庫というか納屋が一つ追加されたが、これも焼け石に水でしかない。
出入りする者達は格段に増え、テント住まいも増えている。
モンスター退治に出向く者が増えており、そうせざるえなくなってきている。
既にある宿舎も、ベッドだけでなく床の上で寝泊まりする者がいるくらいだ。
そうまでして無理矢理詰め込んでいるが、それでも全然寝床が足りない。
それだけ人が増えてるので稼ぎも増大してるが、出費が大きくなってもいるので効果は薄い。
資金は確実に増えているのだが、それも計画を大きく進めるほどではない。
やはりそれなりの時間が必要だった。
それでも時間というのは確実に過ぎ去るものである。
やるべき事をやっていれば確実に何かが積み上がり、次の段階へと向かっていける。
自動的に全てがなされるわけではないし、手を抜いていれば何の積み重ねもありはしない。
しかし、手間をかければその分の積み重ねは何かしら出来上がる。
ヒロノリ達の一団もそれらを確実に成し遂げていた。
拡大した集積所に積み上げられた資材は多く、人が寝泊まりする場所も確保する事が出来た。
事前に発注を出していたので、人手もどうにか確保出来ている。
一団においても、当日におけるモンスター退治の人員を募り、作業を一気に進められるようにしてある。
所属する冒険者の半分以上を動員する大がかりな作業になるが、それもどうにか目処が付きそうだった。
年度がかわってから三ヶ月目、予定通りに行動を開始していく。
この世界にやってきて五年目における、最初の大事はそうやって始まっていった。
やってみると、これが恐ろしく速やかに進んで行った。
投入された冒険者は即座にモンスターを村の中から駆逐していく。
それから村の内部を探索し、廃屋などに潜んでいたモンスターを殲滅していった。
それも終われば、今度は村の周囲の警戒である。
何かしらモンスターがいるので、戦闘は断続的にであるが続いていく。
なのだが、村に近寄れるモンスターはいない。
堀の作業は、モンスターの駆逐が終わったという報せが入ってからになった。
前日から集積所のテントで寝泊まりしていた作業員達は、馬車に乗せられて一気に村へと向かっていく。
事前に割り当てられていた作業場所へと案内され、スコップなどを手にした作業に入っていく。
一団から何度も仕事を受けてる者もおり、手際は格段に良くなっている。
ほとんど埋まっていた堀が元の形を取り戻し、塞いでいた土が土嚢となって堀の中に敷き詰められていく。
堀の左右を固める壁として土嚢は積み上げられ、より堅固なものとしていく。
余った土嚢も、村を覆う簡素な壁として用いられていく。
集積所の方では別の作業も進められている。
持ち運び出来る竈や調理台を用いて料理が進められていく。
冒険者一百人近く、作業員も一百人近くが集められている。
それに振る舞う食事も大がかりなものとなっていく。
復興中の村から出向いてきていた者達が、ここぞとばかりに作業を進めていく。
米を炊き、味噌汁をつくり、漬け物を用意していく。
この異世界、基本的に和風なので出て来るのはこういったものとなっていく。
そのくせ、パンなどもあるので、今一つ世界観がはっきりしない。
適度に、あるいは適当に和洋折衷になってるものと考えていくしかない。
そんな創作者側の都合と趣味はさておき、合わせて二百人分の料理をとにかく急いで作っていく。
竈の火は絶えず、広々とした調理場の中を所狭しと人が動いていく。
抱えるような大きな鍋がずらっと並び、それらが蓋を鳴らしている。
出来上がった物は、ある程度冷めてから馬車にのせられていく。
食器と共にそれらは村へと向かっていく。
作業で腹を空かせた者達に届けるために。
モンスター退治と穴掘りをしていた者達にもたらされた食事は瞬く間に消えていった。
作業量が作業量なので失われる体力も大きい。
それを補うために大量の食料が求められる。
渡された飯を誰もが即座にかっくらっていく。
次々にお変わりが要求され、鍋の中身はあっさりと底をついた。
もちろん作られた料理はそれだけではなく、それこそどんどん続きが送り込まれていく。
なのだが、おにぎりにしたご飯は四つ五つと当たり前のようにたいらげられ、味噌汁も何杯も喉を通る。
漬け物も小皿一つ程度の量では到底足りるはずもなく、思った以上に消耗していく。
元々冒険者を相手にしていた炊事班であるだけに、それは想定の内ではあった。
しかし、作った料理が次々に平らげられていくのを見て、さすがに不安がよぎる。
(これ、足りるのかな?)
もとより多めに食材は持ち込んでいるつもりなのだが、料理を作るにも時間がかかる。
食材全部を食べられる状態にするまでにかかる時間を考えると、果たして食事時に全部が間に合うのかと思ってしまった。
幸い、集積所から送り込まれてくる料理は間断なく続き、昼の間に全員に食事が行き渡る事にはなった。
そのおかげで炊事・料理担当達は真っ白に燃え尽きる事となっていった。
そんな調子で午後の作業が始まり、堀が作られていく。
一日で終わるなんて事はさすがにないが、思った以上に進んでいく。
その日の作業が終わる頃には、村全体を覆う堀の半分ほどが出来上がっていた。
夕暮れ前に作業を終えて集積所に戻る作業員達は予想以上に仕事をこなしてくれた。
堀は翌日にほぼ完成し、三日目には柵を作る所まで作業は進んだ。
持ち込まれた木材が次々に柱として立っていき、その間に別の木材が渡されて組み合わさっていく。
村全部を囲むほどにはならなかったが、それでも柱となる木材は全部立てる事が出来た。
あとは横に木材を組み合わせていくだけとなる。
作業そのものは三日ほどで目処を付ける事が出来た。
作業に慣れていた事もあるのだろうが、手際は随分と良くなっている。
その作業の早さに、ヒロノリの方が驚いた。
「もう終わったのか?」
驚きのあまりそんな事を尋ねたほどである。
もちろん廃墟として残ってる残骸などは残ってるので、それらを今後は取り除いていかねばならない。
廃村の中に居住出来る場所や、生活のための設備、事務作業が出来る場所に資材置き場などを作っていかねばならない。
それでも急いで仕上げたい防備は既に出来上がっている。
周りを守りで固める必要はない。
何より、村に冒険者を駐留させられる。
早速ヒロノリは廃村に冒険者を送り込んだ。
集めた人をさばく必要があったし、稼ぎを更に確保せねばならない。
人はそれだけ集まっており、それらを送り込む場所が必要だった。
稼ぎも必要である。
まだ手を入れる必要がある廃村であるが、それでも展開出来る場所に人を送り込まねばならなかった。
「でも、急ぎすぎじゃないですか?」
「そうは思うんだけどな。
でも、稼ぎを増やして早く設備をそろえていかないといけないし」
「まあ、それもそうですね」
そんな事情もあって、廃村への駐留などは急速に進められていった。
あちこちに押し込んでいた者達をどんどん移動させていく。
モンスター相手の前線が更に大きく動く事となった。




