転職63日目 手に入れたものをどうやって維持するか
年内においてやれる事はほぼ終わりそうになっていた。
集積所も拠点もこれ以上拡張する余力もなく、人員の増加もすぐには出来ない。
終止は黒字は保っているが、入った分だけ施設や設備に消えていっている。
使った分は何かしら形で手元に残ってるし、その後も有意義な効能を与えてくれてはいる。
あとは時間が経つのをまつしかなかった。
何事もすぐには進展しない。
色々と忙しい中で確実に作業は進めていく。
まずは毎日のモンスター退治が大前提であるので、そちらを順調に進めていかねばならない。
幸い、大した怪我人が出る事もなく物事は進んでいく。
集積所の方の、モンスターの数が多い所はさすがにレベルと作戦が必要なようだが、手が出せないほど難しいわけではない。
レベルを上げた者達が増加していく中で、着実に戦力は増強されていっている。
直接的な戦闘力だけでも、レベル5を超えてレベル7に到達している者も出てきていた。
単純に一つの技術だけを伸ばすわけにもいかないので、技術一つあたりのレベルはある程度頭打ち状態にはなっている。
その分、複数の技術のレベルを上げており、確実な戦力となりつつあった。
レベル3で独り立ちの最低限、レベル5でそこそこの作業が出来る。
レベル7となれば、独立して一人でやっていける目安と言われている。
最初の頃に入った者達は概ねその段階に到達してきていた。
全体的に見てもレベル3を突破してる者達が増えてきている。
あと少しすれば、新人達のレベルも落ち着いてくる。
そうなれば、更に奥地へと向かっていく事も出来るだろう。
次の目標である新たな廃村の奪取も難しい事ではない。
(問題は、奪い取った後だよな)
そちらの方が面倒だった。
単にモンスターを蹴散らすだけなら簡単な事になりつつある。
しかし、モンスターを押しのけた、それから更に場所を制圧し続けるとなると難しい。
拠点を造り、村を復興させてるとそれを実感する。
何にせよ金がかかる。
人の手も何らかの形で入れていかねばならない。
村の場合、単に居住場所だけでなく周囲の田畑も復活させねばならない。
そちらはなかなか進展していない。
雑草などを抜き、土の状態を肥料などでととのえるだけでも膨大な作業になる。
更に、その田畑をモンスターから守る為の防備が必要になる。
堀と柵だけの簡単なものであっても、外周に張り巡らせるのは大変な労力だ。
今の村にそれを全て為すだけの力はない。
年単位の時間が必要になる。
田畑の整地や用水路の修繕と共に、それらは少しずつ進めていくしかなかった。
それと同じで、廃村からモンスターを除いても、その先の苦労が待っている。
防備を張り巡らせ、人を駐留させ、日夜モンスターと戦う事になる。
村と言うよりは最前線の砦となるだろう。
そこを維持するとなるとかなりの手間と面倒がかかる事になる。
稼ぎも大きいだろうが、損失もばかにならない。
せめて死傷者が出なければ良いのだが、それも今後は増える事になるだろう。
本格的な国境ほどではないだろうが、モンスターの勢力圏に入っていく事に変わりはない。
今まで程度の損害で終わるとは思えなかった。
(まあ、場所の確保は今までのやり方をそのまま使うとして……)
問題になるのはその後の運営である。
村をそのまま拠点に仕立てあげるにしても、その後が大変になる。
食料を始めとした物資の輸送もそうだが、村(拠点)の中における生活の維持も考えねばならない。
食事に修理などの作業も自分達で賄わねばならなくなる。
その為の人員も雇わねばならなくなるだろう。
駐留する人数にもよるが、生活を支える人間もかなりの数になる。
周りのモンスターの数を考えるとかなりの人数が必要になる。
冒険者だけでも五十人以上、一百人は必要になるだろう。
夜間の警備も考えると交代制でそれくらいの人数は必要になる。
それらの生活を支える者達も、大雑把に考えて五十人以上は必要になるはずだった。
料理・清掃洗濯・補修修繕・道具の修理・様々な事務作業を考えるとどうしてもそれくらいは必要だった。
(村とか町を一つ作るようなもんだしな)
人が集まってる集落の機能を設置しようというのだから当然なのだろう。
既にあるものの中で活動してるならともかく、自らそれらを用意するとなるととんでもない労力が必要だった。
(でもまあ、場所だけはあるか)
それしかないとも言えるが、あるだけ良い。
更地ではないが、もう誰も使ってない場所だ。
好きに使う事は出来るだろう。
幸い川も近くにある。
川が近くにあるから村を作る事が出来たと言う方が正解だろうが。
ともかく水には困らない。
それだけでも大きい。
場所を確保出来れば人を送り込んで住み着く事が出来る。
あとは最初の段階での投資である。
(作業員に資材に、運搬計画にと……)
拠点を作るための労力と材料は果てしなく大きい。
冒険者の一団でやるような事ではない。
本来ならば、国家など公的な存在が動くべき事案である。
少なくとも地方領主あたりが音頭を取るべき事業である。
それを、大きくなったとはいえ民間の団体でやろうというのだから無理も生じる。
(でも、これをやらないと稼ぎがなあ)
とかく世の中金次第であった。
それが全てで無いにしても、欠かす事の出来ない一部ではある。




