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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第三決算期

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転職59日目 潰えたらそこで途切れるから絶やしてはならない

「じゃ、行こう」

 二十人の同行者達に向けて声をかける。

 そう言ったヒロノリをちらちら見ながら、調査隊の面々は四台の馬車に乗り込んでいく。

「…………なあ、なんで団長がいるんだ?」

「…………いつもの事だろ、あの人自分が前に出るのが好きだから」

「…………目立ちたがり屋ってやつか?」

「…………それとは違うみたいだけど」

「…………何にしろ、気が抜けねえ」

 そんな声もあがっていく。

 決して不快というわけではないのだが、ヒロノリが居る事で無用な緊張を抱いてしまっている。

 ヒロノリとしては圧力をかけるつもりはなく、ただ自分の目で現地の様子を確かめたかっただけなのだが。

 しかし周囲は何かしらの意図があるのでは、と余計な事を勘ぐってしまう。

 それも間違ってるとは言い難い。

 調査として出発させた者達が、適当なところで足を止めて時間を潰してしまわないか、という心配はしていた。

 そんな事をするような奴はいないと思うが、まさかを考えなければならない。

 疑うのは嫌なものだが、下手に信じてはいけないというのはブラック企業時代に嫌と言う程実感した。

 魔がさすという事もある。

 どこでどんな間違いが起こるかなんて、誰にも分からないのだ。



 そんな問題が無くても、自分の目で確かめておくというのは重要である。

 写真やビデオなんてものがないので、報告は基本的に文章になってしまう。

 簡単な素描をさせたりもしてるが、それだけでは情報が足りない。

 どこかの段階で自ら現地を確かめる必要が出てくる。

 だったら最初のうちにやってしまおうという事になる。

 調査に自ら乗り出してるのはそういう理由もあった。

 最初から最後まで丸投げ出来るならヒロノリが出向く必要もなかっただろう。

 それこそ責任者を決めて、そいつに全てを任せれば良い。

 そういうわけにはいかないから今はヒロノリが動かねばならなかった。

 まだまだ組織として一団は未熟な部分が残っていた。

 こういう時にそれがあらわれてるように思えた。



 古い地図を元にして位置を割り出してるので、村の位置はだいたい分かってはいる。

 道も轍の跡としていくらか残ってるので、そうそう迷う事もなさそうだった。

 しかし、実際にどのようになってるのかは全く分からない。

 当時の生き残りでもいれば良いのだが、復興中の村よりも更に古い時代に襲撃を受けた場所である。

 そこから逃げ延びた者はいても、存命である者を見つける事は出来なかった。

 今から数十年前の事らしいので、たいていの者が寿命でこの世を去っている。

 子孫もいるにはいるのだろうが、見つける事は出来なかった。

 記録によれば、町まで逃げてきた者もいるにはいたらしい。

 しかし、彼等がどこでどのように暮らしていったのかの記述はない。

 貧民街などに流れ込んだとは思うのだが、出自を探る事は出来なかった。

 もしかしたら生存者の子孫がいたかもしれないのだが、自分の出自を知ってる者などほとんどいない場所である。

 日々の生活に追われ、昔話をする余裕もない者達がほとんどである。

 結婚をして子供を産んで育てるなんて事はほとんど出来ない。

 仮に子供が生まれたとしても、出自について語るような生活の余裕がある者はまずいない。

 そんな事を語ってるくらいなら、生活のために働くしかない。

 それくらい余裕のない状況におかれてるのが貧民街の者達である。

 記憶を持った者達を探す事など不可能というしかなかった。



 記録にしても同じで、万全なものなど存在しない。

 逃げ延びてきた者達がいたという事は記してあっても、彼等がその後どうなったのかを記したものはない。

 戸籍として町や村に居住してる者達を記したり、転出転入があれば記す事はあっても、それ以上ではない。

 一人一人の来歴を後生大事に記録するほど公的機関も暇ではない。

 税金をとるため(だけではないのだろうが)に誰がどこに済んでるのかを把握はするだろう。

 また、外部からの間諜などを見つけるために、住人についてある程度は把握してるだろう。

 だが、誰がどこでどのように暮らしてるのかまで記録するわけがない。

 現実問題として不可能である。

 余程の著名人でもない限りは。

 命からがら逃げ延びてきた者達など、到着した時点で記録はするだろうが、それ以上かまう事はない。

 実際そうなった。

 途切れた記録から、その後の彼等の事を掴む事は出来なかった。

 村も、そこに居た者達も消え、廃村は本当の意味での廃墟となっている。

 たとえ形が残っていても、そこにあった何かは受け継がれる事無く断絶した。

 もう復活する事は無い。



 復興中の村と同じく、元の住人がいればそれらにあたろうとした結果、そんな事が分かった。

 いればその者達に声をかけ、村の復活に向けていかないかと声をかけるつもりだった。

 村にまつわる様々な権利関係で揉めるのを防ぐためなのは言うまでもない。

 土地の所有やそれらの相続などがどのようになされてるのかは分からない。

 だが、面倒を避ける為に地権者などに話をつけておきたかった。

 それを抜きにしても、生き残りやその子孫がいるなら、その者達と手を組みたいとは思っていた。

 多少なりとも縁があるなら、それを元にしていきたかった。

 今となっては何の関係性もないかもしれないにしても。

 本当に何の関係もない者達よりは、なにかしらの接点はあるのだから。



 かなわない事を求めても仕方が無い。

 調査を続ければ何かが判明するかもしれなかったが、それだけの時間もない。

 殊更急ぐ理由は無いが、経営・運営的に考えれば急いだ方が無難である。

 人の増加にあわせて活動範囲を広げなくてはならない。

 その為にも、新たな拠点は必要不可欠である。

 今の拠点を拡張させてもすぐに限界が訪れる。

 元々の人数が多かったのだ。

 町や村などに分散させてるが、それでも限界ギリギリである。

 拠点に人を移動させても問題は解消しない。

 それでようやく妥当な水準に人が落ち着くのだから。

 これ以上の拡大は、更に新しい拠点を構築するしかなかった。

 受け皿となる場所が無ければ増やしようがない。

 今の状態でも稼ぎはあるし、黒字の収益を続けている。

 組織を拡大させる理由は特に無いのだが、それでも拡大の余地を作っておきたかった。

 大きくなれば出来る事も増える。

 稼ぐ事も目的だが、それによって出来る事にも興味がわいてきていた。

 今は村を一つ復興させてるくらいだが、それを更に拡大してみたい。

 何処まで出来るか分からないが、いける所まで行ってみたい。

 ブラック企業で底辺にいた反動だろうか、自分が何かをしていくという事にヒロノリは楽しさを見いだしていた。



 廃墟へと向かっていくのも、そうした理由があった。

 これから自分が手をつけるものを目でみておきたかった。

 誰の手もついてない状態の、すさんでしまってるものを。

 ありのままを見て、それを記憶しておきたかった。

 立て直した後にどうなってるのか見比べるために。

 馬鹿げた話かもしれないが、それも下見である調査の目的であった。


今日はもうちょっと続く。

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