転職55日目 廃村の今後について
「──というわけなんで、そろそろ動こうと思う。
と言っても、二ヶ月三ヶ月は無理だけど」
その言葉に廃村出身者達は真剣な表情となる。
強ばった真顔は、ヒロノリを見つめている。
「本当に、村を取り戻すと?」
「そのつもりだ。
ようやくそのあたりが見えてきた。
拠点をもう少し拡大出来たら人手を集めやすくなる。
そうなったら一気にやるつもりだ」
「…………」
「村に戻るのはそれからになるだろうけど、とにかくそのつもりでいてくれ」
「…………分かった」
「そしたら、作物を優先的にこっちに売ってくれ。
すぐには無理だろうけど、その方向で頼む」
「ああ、ああ、もちろんだ」
暫定的な村の代表者である最年長の男は、何度も頷いた。
その程度の条件で村を取り戻してくれるというなら安いものである。
彼等からすれば、貧民として生きていくしかない現状からの解放である。
その先が今より楽という保障はないが、惨めな境遇から抜け出せるならこんなにありがたい事は無い。
よろこんでヒロノリに協力したくもなる。
例え何ヶ月か待つ事になろうと、それで文句があるわけもない。
廃村の住人達も遊んでいたわけではない。
声をかけられた時からヒロノリとの付き合いは続いている。
その中で、ヒロノリが何をしてきたのかを見てきた。
最初は小さな拠点を作っただけだった。
柵で覆っただけの小さな場所に、テントをはってるだけ。
なんだこの程度かと誰もが思っていた。
しかし、それを手始めとして、拠点を拡大し、内部を充実させ、戦力を集め始めている。
拠点内部の雑用として何人かが廃村の者達も出向いているから内情も分かる。
確かにそれほど裕福でも余裕があるわけでもない。
しかし、確実に事は進んでいってる。
一ヶ月二ヶ月と時間をかけて、確実に物事を進めている。
もしかしたらという希望を廃村の出身者達に与えていく程に。
雑用だけではない。
モンスター退治に出向く者達も出てきた。
ヒロノリの一団に加わる形でモンスターとの戦闘を始めていく者達が。
一般的な作業に比べて大きな報酬が手に入るというのは大きい。
おかげで貧民街にいる彼等の生活もかなり向上した。
ある程度のレベルが上がるまで上級者が行動を共にしてくれるので心配もいらない。
一定の段階を超えれば、より大きな稼ぎを求める事も出来る。
そうなった彼等は、たいてい廃村での活動を希望していく。
やはり自分達の故郷の近くというのは心理的に落ち着くものがあった。
村の現状を把握するためでもある。
今は無理でもいつか取り戻すという目的の為に、彼等は村に入っていく。
核を手に入れるためでもある。
堀の修繕作業の時などには、護衛として積極的に参加もした。
何でも良いから、村の開放に近づくための行動をしていたかった。
ヒロノリへのささやかな不信感もある。
耳に心地良いことを言ってくれてるが、本当に村を取り戻すつもりがあるのか分からないのだ。
人間、嘘を吐く事は簡単にできる。
他人を利用する為にそれを当たり前のように使う連中はいる。
ヒロノリもそういった者の一人ではないかと疑っている。
あって当然の警戒であろう。
本心がどうであるのかは結果が出るまで分からない。
その結果をまだヒロノリは出してないのだから。
しかし、ここに来てヒロノリが本心から村を取り戻そうとしてる事が伺えてくる。
何らかの利益を狙っての事かもしれないが、とりあえず今は信じる事が出来る。
村を取り戻すつもりはある。
そう感じとる事は出来る。
その先がどうなるか分からないが、そこまでは利害は一致している。
それだけで十分だった。
そう思うほどに貧民としての生活はすさんだものだった。
永続する好意はなく、好意とはえてして打算を覆い隠す美しい仮面にすぎない。
だからこそ彼等は迂闊に人を信じる事をしない。
一時的な利害の一致があり、それが続く間だけの友好があるだけだと。
しかし、そんな一時の利害がこの先も続いてくれるよう願いもする。
確かな善意を向けてくれる相手とは。
それに、村を取り戻してすぐに生計が立つわけではない。
田畑は荒れてるのですぐに農業という事にはならない。
根気よく整理していかねばならない。
その間は一団相手に商売をしていくしかないだろう。
モンスター退治をしてる者達にはそれらを継続させてもらうしかない。
金はそうやって稼ぎ、その間に田畑を元に戻さねばならない。
長い時間がかかる。
そう考えるとヒロノリの提案してきてる、一団相手の商売というのは悪い話ではない。
元通りの生活になるまではそれが必要になるだろう。
上手く持ちつ持たれつの関係になれるようにしていきたいものだった。
しかし、それも上手くいった場合の事だ。
(村を取り戻してからの話ではあるがな)
肝心要のその一点をいかにして達成するか。
まずはそこを解決しない事にはどうにもならない。
今のところ、その為にもヒロノリの協力が必要だった。
村の者達だけでどうにかなるような事ではない。
(頼るしかないか)
善意や好意による協力・申し出である事を願いつつ、ヒロノリの言う通りにするしかない。
頼りすぎないように、村の者達もそれなりに活動せねばならないが。
ほんのわずかであっても村の者達も取り戻す為に活動をしておかねばなるまい。
全てを一団で片付けてもらってしまっていたら、それこそ今後に関わる。
そんな警戒も一応はしておかねばならなかった。
(考えすぎであれば良いけど)
村の代表者をまかされた年長者は、ヒロノリのどこか人の好さを感じさせる部分に期待したいものだった。
打算はあるだろうが、悪意は感じられない何かを。
ちゃんと続きが書けるとほっとする。
明日はどうなるか分からないけど。




