転職52日目 全員の意識が揃ってくれるとありがたい
「なるほどねえ、こんな風になるのか」
「けど、二ヶ月先だろ」
「いや、二ヶ月先ってのも、まだ始まるってだけだろ。
実際に出来上がるのはもっと先だ」
「これ見ると更に二ヶ月くらいかかるってあるしなあ」
そんな話が周旋屋の広間にてのぼってくる。
ヒロノリの一団は、示された完成予想図を見て期待と現実を入り交じらせた言葉を発していた。
そこには、新たに追加されたものも加わっている。
作業計画表。
何月何日までにこれくらい出来上がってる予定、というものだ。
全てが順調に推移した場合、という但し書きはしっかりと分かりやすく書いてある。
契約書の隅々まで読んで、不審点がないかを探していく……そんな事は一切しない。
また、現時点で分かりうる事はしっかりと書いておいた。
都合の悪い部分を伏せておく、という形の嘘も吐いてない。
分かりうる事を正確に記しておいた。
でなければ、後で不正がばれた時に大きな問題となる。
嘘というのは、その場しのぎになっても人を欺いてる事に変わりはない。
なので、どれほど大変で厳しくても真実を示す必要がある。
後々の問題としないためにも。
…………一時しのぎで良いから利益を得て、あとはトンズラするというなら、それは悪党悪人の類である。
(それだけはなあ……)
断固としてそれだけは避けたかった。
そんな事を続けていれば、誰もが自分の利益を守る為に猜疑心を持つようになる。
ある程度それは必要であるが、そんな事をしていたら協力なんて出来なくなる。
悪事というものの問題がここにある。
犯した者は確かに利益をあげる。
それも多大なものとなる。
悪事や犯罪と呼ばれるものが絶えない理由の一つはこれにあるのだろう。
何にしろ悪事というのは利益にはなる。
そうでなければわざわざ実行する者はいない。
しかし、被害にあった者に多大な損失をもたらす。
だからこそ忌避される。
損失をもたらすという事は、将来を潰す事になる。
誰かが一方的に得をして、もう一方が壮大な損をする。
こんな事を続けていては、協力なんぞなりたたない。
誰が損失を与える者と共にやっていこうというのか?
悪が忌避されるのはこういうところに理由があるのだろう。
だからこそ、ヒロノリは極力嘘を言わないようにしていこうとしていた。
もちろん、相手を見ての事であるが。
そして、完成予想図と作業計画表には、必要になる金額の予想も書いておいた。
これらの作業を進めるにあたってどれくらいの金額が必要になるのか。
その大雑把な見積もりである。
必要な作業員の人数と日数。
木材や釘に工具などの材料。
食費などに費やされる部分。
思いつく中で大きなものを列記し、それ以外も「その他雑費」として記載した。
その金額が一団員達に現実の重さをしらしめていく。
「これだけ必要なんだな」
「やっぱり高いよなあ」
「でも、出来上がれば便利になるよな」
「テントももう飽きたし」
「寒い時期はさすがにきつくなるもんなあ」
「でも、これだけ稼ぐってなると、かなり大変じゃねえのか?」
「レベルアップして稼ぎが増えてもな」
「もっと人がいるだろ」
「今よりも?
これ以上でかくするのか?」
「出ないと、これだけ稼ぐの無理だろ」
そんな会話が出てきている。
自分の稼ぎだけ、自分の生活だけ考えていたら出てこないものだろう。
先々の事、求める物、まだ無い物を示した事で出てきたものだった。
もちろん、彼等の今後に関わる事である。
あれば廃村の、最前線での駐留が楽になるのだ。
無視する事は出来ない。
彼等も今後稼いでいく事を考えているので、それが出来る場所を求めている。
町の近くだけでは手狭なのは彼等も感じていた。
それに、稼ぎを更に増やすには強いモンスターを倒していかねばならない。
より強力な核を手に入れるためにはそうするしかない。
もしくは、より多くのモンスターを倒さねばならない。
その為には広範囲の活動場所が必要になる。
一カ所に集まるモンスターの数は限りがある。
より多くを倒すには、より広い場所が必要になる。
だからこそ、モンスターが多数存在する場所が必要だった。
その為には町から離れた場所、国境近くまで進まねばならない。
モンスターとの最前線であるそこが数多のモンスターを倒せる場所になる。
出来るだけその近くに陣取る必要があった。
危険ではあるが、レベルを上げればそれにも対処が出来る事を彼等も実感として知っている。
だからこそ、レベルを上げてそこを目指そうとしていた。
廃村はそこに最も近い場所なのだ。
全員がやる気になってくくれてるのがありがたい。
気持ちをまとめる、意識を集中させる、やる気を出すというのはとても難しい。
人の考えや気持ちは他人がどうこう出来るものではない。
そこが解決出来た事で作業を進めやすくなる。
だが、これで終わりという事はない。
金を稼いでいかねばならないし、本格的に拠点が稼働するならやらねばならない事もある。
(人を集めて、組織を作らないとならんよなあ)
分かっていた事である。
これから拠点が稼働するとなると、そこだけで自立して動けるようにしなくてはならない。
拠点における生活全般を支える部署が必要になるし、その為に人員が必要になる。
当然、今より人が必要になる。
食事、洗濯、掃除などを専属でやる者を本格的に確保しなくてはならない。
消費される食材や、日々の生活で必要になるものも用意せねばならない。
ベッドにシーツに雑巾に箒などなど。
生活に必要な物は何でも揃えなければならない。
それらを統括する部署も必要になるだろう。
全部を賄いきれないにしても、ある程度はやらねばならない。
その為の組織作りを、これからやっていく事になる。
(こっちの方が大変だろうな)
拠点の拡大よりも難しいとヒロノリは思っていた。
21:00に続きを。
少しでも進めておかねば。
何せ全然進んでないし。




