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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第三決算期

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転職51日目 目に見えるものを出してみる

 何はともあれ、第一段階が終わったので廃村の方での作業を開始していく。

 駐留場所として見れば全く使えないが、野営する場所として見ればそこそこ役に立つ。

 レベルの上がった者達には出来るだけそちらに回ってもらうようにしていく。

 同時に、廃村に向かう途中にある村にも営業をかけ、冒険者達が駐留できるよう取りはからっていく。

 こちらの方はさして苦労もなく話がまとまり、十人くらいの者達が入っていく事になった。

 モンスター退治の人間が分散出来た所で、新たな人間を入れる余裕も出てくる。

 減った蓄えを補う為にも、新人を入れて体制を強化していく必要があった。



 面白いというか意外な事に、拠点が出来た事で一団内に目的意識が出て来ていた。

 モンスター退治を漫然と繰り返す、生活の為に作業をするというものだった者達が、方向性をもって行動していっている。

 全員がそうだというわけではないが、一割二割の者達は出来上がったものを見て感動や興奮をおぼえている。

 目に見える形で何かがあるのは大きかったようだ。

 そういう、何かを作ってるという実感があると動くという事もあるのだろう。

 今後も拠点は拡張予定だという事もあり、それならばとモンスター退治に励んでいる。

 意欲があるのはありがたいので、そんな彼等をまとめて組み合わせて活動させていく。

 こういった意志や指向性には人それぞれ差がある。

 同じような考えの人間が組んでいればさほど問題は起きないが、そうでない者と一緒だとどうしてもすれ違いが発生する。

 それが結果として余計な問題になっていく可能性は十分にあった。

 なので編成をあらためていかねばならなかった。

 そういった者達には、最前線となる廃村での活動を中心に行ってもらう。

 一番衝突が少ないし、彼らのやる気にもつながる……と思っての事である。



 ただ、目に見えた形で何かをすぐに行うというわけにもいかない。

 一番の問題として、金がない。

 何をやるにしても必要になるこれがないとどうしようもない。

 この先十ヶ月近く何もしないでおくというのもかなりこたえる。

 仕方がないので、一ヶ月に一回ほど人を集めて堀を掘る事にした。

 溝を掘るだけならそれほど手間がかかるわけではない。

 どれくらいの人数がいればよいのかもだいたい分かった。

 さすがに五十人もいらない。

 その半分もいれば十分である。

 とりあえず二十人ほどを雇って溝を掘らせていく。

 こんなものでも、事前に出来上がっていれば後々役に立つ。



 その間に新たにいれた人手を町の周囲に展開し、稼ぎを増やしていく。

 二百人に近づいていく一団の活動範囲は大きい。

 町と廃村、その間にあるいくつかの村に展開しても余裕がある。

 その地域からモンスターの脅威を取り除くことで、今まで受けていた損失も減っていく。

 目に見えるほどの大きな成果は実感できないが、年間を通してみた場合それは少しだけ見えてくる。

 モンスターによって受けていた作物などへの被害は確実に減少している。

 それだけでも影響ははっきりしている。

 食料調達のために村から買い付けもしてるので、その分の利益もある。

 ちょっとした事ではあるのだろうが、着実に何かが変わっていっている。



 毎月の溝堀りも少しずつ形になっていっている。

 賃金の関係で実働作業時間は一日しかとれないが、その一日に二十人から三十人が作業をするとかなりのものになる。

 土の状態にもよるが、一日で六十メートルくらいは掘れる。

 それならばといくらか予定を変更することにした。

 当初は、最初の拠点と同じくらいの大きさの場所を確保できれば良いと思っていたが、それを拡大する。

 四十メートル四方の空間を確保し、四倍の広さを手に入れる事とした。

 それだけあれば、大規模な増員も出来るようになる。



 ただ、どうにも出来ない部分もあった。

 いい加減、テント暮らしをどうにかしたいのだが、こればかりはどうにもならない。

 小屋を建築しようにも、金がかかってしまう。

 それだけの資金を簡単に捻出することは出来なかった。

 堀を作るための人件費にとられてしまうというのが大きい。

 そのため、どうしても生活空間はそれほど改善が出来なかった。

 さすがにこれには不満があがってきたが、

「すまん、今すぐどうにかする金が無い」

と頭を下げて説明するしかなかった。

 蓄えは出来てきていたが、すぐに何かにとりかかれる程では無い。

 溝掘りに人を雇うのがせいぜいだった。

 ただ、三ヶ月の溝堀りで場所は確保出来ている。

 おかげで次に進める事が出来るのも事実だった。

「今月は無理だけど、来月には柵をたてて場所を確保出来るようになる。

 そうしたら、小屋の建設にのりだそうと思ってる。

 今の場所だと狭くて、下手に小屋を作ったらそれだけで場所をとる。

 今すぐそこに作るってわけにはいかないんだ」

 嘘ではない。

 二十メートル四方で小屋を一つか二つ作ったら、それだけで手狭になってしまう。

 それよりは一気に柵をつくり、場所を確保し、そこに小屋を作っていった方が手間がかからない。

 それまで不便な生活を強いる事になるが、それはどうしようもなかった。

 文句を言っていた者達も、先の話を聞いて多少は納得していった。

 するしかない。

 拠点作りに参加していた者達もいるので、何かを作るというのがどれだけ手間がかかるのかも分かる。

 だからこそ、あれこれと注文をつけるのを控えてもいた。

「とにっかく来月だ。

 来月になれば、一気に片を付ける。

 それまで、とりあえず待っていてくれ」

 その言葉に廃村に出向いてる者達も納得するしかなかった。



 そういった生活環境の悪さもあって、基本的に廃村には交代で出向く事にしていた。

 一週間の駐留を交代で行っていく。

 テントが毎日ではつらいが、ある程度期間を限定してならば多少はたえられる。

 だが、さすがにそれも限界が近づいてきていた。

 いい加減、まともな屋根や壁のある所での生活がしたくなってきている。

 早いうちにその要望をかなえないと、不満が爆発する事になる。

 目に見えた形が欲しいところである。



(あまり効果はないだろうけど……)

 すぐに形にする事は出来ないので、やむなく計画中のものを絵図面などで示す事にしていく。

 確保した場所の使い道や、どこにどんな建物を配置するかを示していった。

 図面そのものは設計士に頼んで描いてもらい、それが説得力を増していく。

 また、完成予想図も作り、それを全員に見せて回った。

 これが思った以上に効果的で、

「こうなるのか」

「すげえな」

「ふーん、なるほど」

と反応が出てくる。

 実際に形にならなくても、こういう風に見せる事で納得する事もあるんだと思った。

 それも、数字や図面といったものではなく、予想図であっても目で見て分かる形であれば。

 確かに数字や図表だけでは想像する事も難しい。

 それよりは、絵画で示した方が理解が早かった。

 説明の手間が大幅に省けていく。

「まあ、これが出来るなら」

「テントでもう少し頑張るか」

「そろそろ勘弁してもらいたいけどな」

 不満もちらほら混じっていたが、概ね現状を受け入れようという気持ちが見えてきた。

 もう少しだけ我慢は続けてもらえそうで助かった。

 今日はちょっと多めに話を出してみる。

 次は20:00に。

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