転職50日目 とりあえず作る事は出来た
「こりゃすげえな」
現地に到着したヒロノリは、その様子を見て驚いた。
到着した時点で堀の方は完全に出来上がっていた。
その内側には、柵の柱をたてるための穴も掘られている。
そこに木材を入れて柱をたてる事になっている。
それなりの大きさのある木材をたてるので、こういった事前の準備がなければ作業を進める事が出来ない。
「もうここまで出来てたのか)
ここまで期待していたわけではないが、これなら作業を大幅に早く進める事が出来る。
早速木材に取りかかった作業員達が、次々に柱を立てていく。
五十センチほどの間隔で掘られた穴にさしこまれた木材は、かなり大雑把ながらも侵入を遮る備えとしての姿を見せていった。
やはり人数がいるというのはありがたい。
五十人の作業員は、持ってきた木材を次々にたてていく。
木材をいれた穴には、隙間を埋めるために土がもられていく。
更に柱の間に土嚢が積み上げられ、小型モンスターが入り込む余地を無くしていく。
堀を掘った事で出て来た土は十分過ぎるほどあるので、穴埋めは十分に可能だった。
柱と柱の間に横棒が渡され、それらが縄で縛り付けられていく。
後々しっかりと固定するつもりであるが、まずは簡単に固定しておければよい。
そんな調子でかなり簡略ながら、外からの攻撃を防ぐ防備はそれなりの形になっていった。
入り口の部分の門と、堀を渡る為の橋は多少手間取ったが、これもどうにか作る事が出来た。
事前に木材を加工しておいたのが幸いした。
現地ではそれを組み立てるだけですむ。
もちろん素人ではどうしようもないので、職人を何人か呼んでおいた。
値段は高くついたが、それだけに良い仕事をしてくれた。
橋はつり上げる事が出来る跳ね橋。
門は簡素ながらも開閉が出来るものを取り付ける事が出来た。
中には何もないが、外からの脅威を排除出来る場所がとりあえず出来上がった。
「まだこれからだけどなあ……」
出来上がった拠点(仮)を前にして呟く。
「でも、これで少しは余裕が出来るか」
第一歩はどうにか踏む事が出来た。
あとはここを中心として拡張を続けていく事になる。
その為にも、早く資金を貯めねばならない。
今回の作業だけでも、銀貨を数百枚を使う事となった。
作業期間は短いのだが、そのために集めた人員と資材が大きな負担になっていた。
消費した金を回復させる為に、今の調子では半年以上一年以下の時間がかかる。
更に商売の幅を広げない事にはどうにもならない。
その為の拠点である。
「まずはこのあたりで稼いでいかないと」
活動範囲は、これで一気に拡大した。
拠点というには小さいが、ここなら二十人くらいはつめこむ事が出来る。
当面はテント暮らしになるが、それでも安全な場所を確保はできる。
村の方も利用出来るが、モンスターが出入りする場所となると、さすがにそうそう利用する事も出来ない。
防備を復活させ、モンスターを確実に排除出来るようにしておかないと危険すぎる。
やるにしても、まだまだ先の事になる。
(まずはこっちを拡大するのが先になるか)
焦る必要は無いと自分に言い聞かせる。
すぐにでもとりかかりたいが、金が貯まるまでは待たねばならない。
それに、そんな大事よりも先に片付けるべき事がある。
(この中、家とか作っていかないと)
当面のテント暮らしを出来るだけ早く終わらせてやりたかった。
そういった、細かな生活部分を改善していかねばならない。
作業が終わり、囲いの中に入って夜を迎えていく。
持ってきたテントをはり、その中に入っていく。
他にも何人かが村ではなくこちらにやってきている。
交代で周囲を警戒する事になっており、ヒロノリもそれを志願している。
その為、先にテントに入って体を横にしていく。
疲れてるというほどではないが、少しは休んでおかないと夜中に起きる事が出来ない。
直前に飯を食べたせいもあってか、多少は眠気が襲ってくる。
しかし、寝入るという程でもない。
そんな状態でしばらく横たわってるうちに夜になり、ろくろく眠りもしないうちに当番の時間となった。
外に出ると、さすがに寒気が襲ってくる。
布一枚であっても、テントの中と外では温度差があった。
見張りで起きていた者達と交代し、当番についていく。
やる事はそれ程あるわけではない。
時折周囲を見渡して異常がないかを確かめるだけだ。
モンスターがそこかしこをうろついてるので、異常だらけなのだが、それでも襲ってくるかどうかの確認はせねばならない。
時折、堀を越えて柵までやってくるものもいるのだ。
それらを柵越しに倒していく。
隙間だらけの柵だが、モンスターを食い止める役には立つ。
また、その隙間があるから、槍などで突き刺すのには便利だった。
もっとも、モンスターも警戒してるのか、それほど近づいて来るものはない。
遠巻きに伺ってるものはいるようだが、一定の距離をおいて様子をみてるようだった。
知能があるのか分からないモンスターであるが、ある程度の考えは持ってるだろうとは言われてる。
相手が自分達より多いと警戒するらしい、とは昔から言われている。
その為、村や町に少数でやってくるような事は滅多にない。
それでも、人口の少ない村は大勢のモンスターに襲われる事がある。
なので、集団でいれば襲われる可能性はかなり低くなると言える。
時と場合による事ではあるので絶対ではないのだが。
それでも、人数が多いというのは大きな利点になりうる。
(早くここを拡大しないと)
モンスターを倒す為の拠点であるが、そこが襲われないようにある程度の規模にまで成長させたかった。
村からモンスターを遠ざけ、ここを中心にモンスター退治を展開させるためにも。
出来上がったといっても、まだまだこれから何だよね。
そう考えると泣けてくる。




