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転職5日目 死ぬ危険はどっちにもあるでしょう

 翌日。

 ヒロノリはナイフを職員に返し、自分用のナイフを買った。

 安物で三千銅貨で買えたが、これで所持金はほとんど消え去った。

 一晩一千銅貨、一食一千銅貨がかなり響いている。

 しかしめげる事無くヒロノリはモンスター退治に向かっていく。

「あ、ついにで袋をもう一つお願い。

 あと、紐も」

 追加で更に袋を購入して。

 これで更に懐は寂しくなる。

 なのだが、ヒロノリにはこれは欠かせなかった。



 一度町の外にでたヒロノリは、新たに買った袋に石を入れ、口を締める。

 そして縛った口に紐を更に縛り付ける。

 紐は束上にして頑丈にしておいた。

 これで振り回して使う事が出来る。

 遠心力を利用した打撃武器の完成である。

 本当は袋はもっと用意して破れ難くしたかったのだが、そこまで予算に余裕がない。

 が、当面はこれで十分である。

 振り回してぶつける事はなくても、落とした石の回収は簡単になる。

 それだけで十分に利用しやすくなる。



 実際に使ってみると、実に便利だった。

 落とした後に簡単に拾えるし、拾ってもう一度ぶつけるのに手間がかからなくなった。

 また、狙ってやるのは難しいが、振り回してぶつける事が出来れば相当な威力を発揮する。

 金もかからずそこそこの威力の武器が出来て助かった。

 ただ、袋の負担は大きく二重三重にしないと破けそうになる。

 この辺りは今日の稼ぎで袋を追加で購入し、更なる補強を考える事にした。

 そんなこんなでこの日も合計三十体ほどのモンスターを倒す事が出来た。

 手取りは六千三百銅貨で前日と変わらない。

 だが、手元に残る金は増えていく。

 初期投資の分は仕方ないが、それをこなせば純然たる利益として手元に残る。

 それだけでも十分にありがたい。

 もちろん、こんなあり合わせの武器だけでどうにかしていくつもりは無かった。

 もっとしっかりとした武装をして、モンスターとしっかりとわたりあえるようにしたい。

 間に合わせの武器は間に合わせでしかない。

 そうそう長く使えるものではないのだから。



 ただ、出だしは色々と上々だった。

 この世界において銅貨六千枚という日当は、高いものでないが安くもない。

 駆け出しの冒険者としては上々である。

 駆け出しや見習いの職人・商人などではこうはいかない。

 下手すれば死ぬ可能性のある仕事である。

 堀の中にはまりこんだ小型モンスターを倒すだけとはいえ、何らかの拍子に大怪我をおいかねない。

 モンスターを探して移動してる最中に、通りかかったモンスターに遭遇するかもしれない。

 堀にはまり込んでるモンスターを仕留めそこなって反撃を受けるかもしれない。

 比較的安全な場所で活動してるが、野外にでるので不意の遭遇は免れない。

 かなり低いとはいえ、危険と隣り合わせで作業をしてる事に変わりはない。

 だからこそ冒険者という存在が成り立つ事になる。

 たいていの人間は集落から外に出る事は無い。

 危険が大きいのでそれを割ける。

 田畑の作業があるので完全に中に籠もっていられる人間は少ないが、その作業にしても堀を張り巡らしたりして防御はしている。

 完全に防備の外に出て活動する者は、冒険者などの一部の人間や職種に限られていた。

 さもなくば追放された犯罪者か。

 町や集落からの追放は、この世界において死刑に等しい。

 もちろんあまりにも重い罪をおかせば問答無用で死刑になる。

 だが、人里の外に追放するのも大差はない。

 上手くすれば生き残れる可能性があるというだけがわずかな救いにはなる。

 それだけ防備ある場所の内と外では大きな違いがある。

 町や集落の周辺ならそこまで神経質になる事も無いが、わざわざ好んで外に出る酔狂な人間は少ない。



 なお、目に見える所に入れ墨などを入れられる犯罪者は、およそまともな人間の助けを得られる事も無い。

 たまたま出会った冒険者や行商人なども、敵対する事はあっても相互補助の相手と見いだす事は無い。

 出会えば警戒され、そして拒絶される。

 当たり前のように攻撃される事があるのが犯罪者である。

 人間とモンスターの両方から敵とされる犯罪者は、それだけ生き残るのが難しい。

 当然ながら別の町や集落に入ることも出来ない。

 見た目ですぐに罪人と分かるのでどこでも拒否される。

 そんな者達が外で生き伸びる可能性は皆無といって良いほど少ない。

 それだけ町や集落などの人里の外というのは厳しい世界になっていた。

 ヒロノリが神社から村、そして町までモンスターに遭遇しないでいられたのは運が良いと言える。

 そんな町の外側を巡ってモンスターを探し回る。

 見つけて倒し見つけて倒しと繰り返す。

 一日に二十体から三十体という数をどうにか確保していく。

 日々を賄うには十分な金額を手に入れる事が出来ていた。



(いやー、最高だわ)

 危険な作業をこなしつつ一週間が過ぎ、二週間三週間となっていく。

 その間モンスターを倒しに出かけてばかりだったが、それを苦労だとは思わなかった。

 一日の手取りは四千から六千銅貨くらい。

 そこから宿泊費や食費を差し引く事になるが、それでも手元に結構な金が残っている。

 銅貨の上の通貨である銀貨で四枚。

 一ヶ月も経たないうちに手に入れる金額としては上々だった。

 この世界の物価などを考えてもちょっとした貯金である。

 手元に金が残るが嬉しくて休みも入れずに働いた結果だ。

(一ヶ月でこれだもんな。

 何ヶ月もしたら結構たまるぞ、これ)

 前の世界とは全然違った。

 何せ働いた分だけ稼ぎになる。

 以前はどんなに頑張っても全然増えたりしなかったが。

(どんだけ頑張って仕事を取ってきても、禿げと筋肉と眼鏡が横取りしてたからなあ、手柄を)

 悲しい事にそれが現実だった。

 実際にとってきた仕事を他の連中が自分の手柄にして、なおかつ仕事で発生した問題は全部ヒロノリに押しつけてきていた。

 おかげで給料への上乗せもほとんどなかった。

 しかし、今はそれがない。

 業績を横取りするような輩はおらず、働いた分がそのまま給料になる。

(経費も少しはかかるけど、勝手に支払わされる事もないしなあ)

 交通費に飲食費など、営業などをしてると多少は出費がある。

 それらが経費として認められない事も、他の連中の費用も立て替え(そして踏み倒し)される事もあった。

 それが無いというのもありがたい。

 装備がいたんでくれば修繕は必要だし、様々な物品を自分で用意しなければならないのは確かだ。

 しかし、自分のものだけを調達すれば良いのだ。

 当たり前のはずの事が当たり前に出来るというのがとても嬉しかった。

 どれだけ今まで悲惨な目に遭ってきたのか、とも言える。

(手元に金が残るって、こんなに良いことだったんだ)

 様々な手段を講じてやりくりしていた今までとは雲泥の差である。

(これが資本主義なのか)

 稼いだ分だけ自分の物になるという当たり前の事に感動していた。

 日本は資本主義社会だったはずなのだが、その事は全く念頭にない。

(横取りされないって最高だ)

 そんな状況が当たり前というのは、もう会社という組織が機能不全に陥ってると言える。

 更に言うならば、そんな組織を存続させてる世の中の問題というべきか。

 もちろん政府や公的機関の問題もあるが、それらを許容してしまってる人々の問題でもあるだろう。

 何にせよそれらが無いというだけで、この世界は十分に天国だった。

 モンスターが危険だとか、死ぬ可能性が高いという事など問題に思えなかった。

 前の世界で仕事をしていても過労死の危険があった。

 どちらも危険である事に代わりはないのだ。

 そう思うと、前の職場も危険な稼業だったんだなとつくづく思う。

(あんまり変わらないか)

 死に方が違うだけで死亡の可能性はどちらにもある。

 なら、少しでも良い方を選びたいものだった。

 その結果、このファンタジーな世界でモンスターと殺し合いをしてる方が良いと判断をした。

 邪魔者がいないだけで十分ありがたい。

 睡眠時間も休みもとれる。

 それが無いだけ前の世界と会社の方が悲惨だった。

(もう戻りたくはない)

 ヒロノリ、強くそう思った。

 どっちを選べと言われたら迷うだろうけど。

 でも、迷うと言う事は両方とも似たような条件とう事でもあるんだろう。



 ではまた明日。

 18:00に続きを公開予定。

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