転職48日目 始まった事で感じるこれからの不安
「それじゃ、頼むぞ」
「ああ、行ってくる」
そう言うと、第一陣を率いる者は馬車に乗り込んだ。
孤児達のあとに入ってきた者達の一人で、この一団では古株の方になる。
その彼が廃村のモンスターを片付ける者達を率いる事になった。
他にも三十人ばかりが彼に従う。
レベルが十分とは言えない者も混じってるが、そこは人数で補うしかない。
これだけいれば、多少のモンスターはどうにか出来る。
まずモンスターを排除して場所を確保していく。
当たり前だが、これをまずはどうにかしなくてはならない。
でなければ宿泊場所も確保出来ない。
とりあえず村の中のモンスターを確実に排除する。
それをどうにかして成し遂げねばならなかった。
行き来に時間のかかる場所にある村である。
寝泊まりが出来なければ何も出来ない。
もちろん、野外でテントをはるというわけにもいかない。
作業をしてる間は、村の廃屋で使えそうなものを確保し、一晩過ごす事になる。
作業拠点作りのための作業はそれが終わってからになる。
そして、大変なのはここからになる。
翌日には作業員を送り込む事になる。
現地の状況がどうなっていようとこれは変わらない。
なので、初日において確実にモンスターを駆逐しておかねばならない。
宿泊場所となる村の中は確実に安全地帯にしておかねばならない。
作業員に即座に仕事をして貰えるように、拠点付近のモンスター退治も行っていく。
モンスターを食い止めてる間に、作業員には堀を作っていってもらう。
危険ではあるがやるしかない。
まずここを超えないと次に進めないのだから。
堀の作成と同時に、食事など日常的な雑務を行っていく者達も送り込まれる。
これらが戦闘や建築作業以外の事を担う事になる。
その為の道具なども送り込まれていく事になる。
何せ数十人ほどの駐留規模になる。
専用の雑用係を作っておかないと手が足りなくなる。
これらには孤児院の女の子や、新たに採用した女子社員などがあてられる。
実際問題として、こういった日常作業については彼女達の方に一日の長がある。
これ以上の適任者はいない。
何より、純粋に人員の手当がつかない。
やり手がないというのもあるが、人手が不足していた。
他に頼める者達がいなかった。
そんな形で初期の作業を終えてから、本格的な防備の建設が始まる。
予定では、第一陣を送り込んでから三日後に木材などを搬送する事になっている。
出来るなら現地での作業状況を見てからにしたいのだが、そうしてる余裕もない。
伝令伝達が難しいので、どうしても計画を立ててその通りに行動するしかない。
その計画も、「これくらいの作業はこれくらいで出来るだろう」という予測で作られている。
ある程度余裕をもって作業時間と作業進行は考えられてるが、それでも齟齬がでる可能性は大きい。
なのだが、無線通信技術がないのだからこうするより仕方が無い。
なので、最初に出向く者達の責任は大きくなってしまう。
特に堀が出来上がってない場合、次の作業に支障が出るので出来るだけ急いで進めてもらわねばならなかった。
一応、それなりの対応策として、堀の方は深さも幅も半分で良い事にしている。
効果は薄くなるが、小型モンスターを阻むならこれでも効果は大きい。
出来ればそれ以上の大きさを作っておきたいが、それは今後の課題としていくしかない。
最初はまず、しっかりと完成する事を求めていかねばならなかった。
完璧なものを求めて何も出来ませんでした、では意味が無い。
何の効果もないものを作ってもしょうがないが、最低限の効果が見込めるならとりあえずはそれで良い。
完璧なものは、後々作っていけばよいのだから。
それでも急ぎ足で作業を進めていくのは、費用の余裕がないからである。
作業員を雇うにしても、それほど長くは繋ぎ止めておけない。
社員はともかく、周旋屋の作業員は、最大でも四日か五日しか確保出来ない。
一日に出せる費用を考えるとそれくらいになる。
加えて、移動中であっても給金は発生する
そして廃村には、片道で一日くらいはかかってしまう。
実際、移動の二日は全く作業にならないので、差し引いた日数で全てを片付けるしかない。
作業を詰め込むしか無くなってしまう。
金に余裕があるならもう少し日程に幅をもうけられるのだが、そうもいかない。
金がなければ首も回らないのである。
「上手くやっていかないとねえ……」
町から遠ざかっていく第一陣の姿を見送り、ヒロノリは肩を落とした。
始まった以上、面倒は今後も続いていく事になる。
作業はまだ始まったばかりで、面倒は無くなったわけではないのだ。
継続的に作業を進めていくための苦労はここから始まったのだから。
「頭が痛いよ」
「俺もです」
事務作業で作業の進捗と物資の輸送、人員の確保などを担当してる者が同調していく。
「計画通りにいけばいいんですけど」
「そうなるように努力しなくちゃならんわな」
モンスターを相手にするのとは違った苦労を感じ、二人の気持ちはどこまでも重くなっていった。
なんだかんだで主人公は、ブラック企業の頃と同じくらい負担をしょってるなあと思う。
以前よりは報いも大きいけど。




