表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第三決算期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/159

転職45日目 番外的な話:OLさん達の日常的な部分かもしれない話

 算盤を弾く音と、筆を走らせる音だけが響いてる。

 積み上がった書類を片付けるため、事務員達は脇目もふらずに作業を続けていた。

 パソコンなんて便利なものがないので、それがやるべき作業を人の頭と手でやらねばならない。

 その為、消費される紙と墨の量は膨大なものとなる。

 狭い事務所の中、並べた机に向かい、事務員達はひたすらに書類への書き込みを続けていった。



 いずれも女性だけである。

 年代は意外と幅広い。

 下は十二歳くらいから、上は二十歳近くまで。

 いずれも、あちこちの村で余っていた人手である。

 男子で家を継ぐのが長男だけであるように、嫁げる女子も限られる。

 当たり前だが、稼ぎのない所に嫁げるわけもない。

 長男の数が必然的に嫁げる人数の上限となる。

 それが出来なければ、男子と同じように奉公に出るか、家の仕事を手伝うしかない。

 この世界、家事手伝いは立派な仕事である。

 男であれば家の外での野良仕事などが主になるが、女であれば家事全部が担当となる。

 どちらも家族であるが、使用人のような扱いになるのは変わらない。

 それが嫌なら、町に行って周旋屋などで仕事を回してもらうしかない。

 売春宿で働くというのもあるが、好んで選ぶ者は少ない。

 もっとも、容姿で選考外になる事もあるので、希望者が全員就職(?)出来るわけでもない。

 これはともかく、女の働く場所もやはりそれほど多くないのが現実だった。



 そんな所に突如あらわれたのが、ヒロノリの一団である。

 男に比べれば少数であるが、女子の募集もしたのは大きかった。

 余った人手となっていた女子に希望者は多かった。

 親の方も運が良いと喜ぶ程だった。

 それほど女子の就職先は少ない。

 皆無とは言わないが、男子ほどではない。

 概ね好意的に受け入れられていったのは確かである。

 そして、何人かがヒロノリの一団に就職していく。

 ここに至る流れは、少年達と大差がないので省略する。

 書いていても似たり寄ったりになってしまうのがオチだ。



 ただ、やってきた女子はモンスター退治に同行させられる事に驚いた。

 基本事務作業をやるのは確かなのだが、その前に技術を確保せねばならない。

 ある程度の読み書きと計算を習ってる者はいるが、技術レベルとして計上される所に至ってる者はほとんどいない。

 それに、事務作業をするならするでそれなりの技術も必要になる。

 それらをあわせて2レベルほど身につけてもらわないと先に進めない。

 ならばモンスター退治で経験値を稼ごう────そんななかなかに乱暴な理由で女子もモンスター退治に放り込まれる事となった。

 女子が一瞬にして顔面蒼白になったのは言うまでもない。



 だが、今更村に帰るわけにもいかない女子一同は、やむなくモンスター退治に出向く事になる。

 ヒロノリの方も彼女らの事を配慮し、女子一人にレベルの高い者達二人をつける事としていった。

 戦闘は主にその二人が受け持つので危険は大分減る。

 女子は、思い出したように後ろに回って斬りつけるだけで良い。

 打撃となるような攻撃はほとんど出来てなかったが、それで十分だった。

 二ヶ月三ヶ月でレベルが上がるだけの経験値を得ると、まずは一般教養を。

 それから更に二ヶ月三ヶ月で事務の技術を獲得する。

 そうなるとたいていの場合は事務所にご案内され、そちらでの作業に入る事となる。

 新人事務員(候補)にとって、この半年ほどの研修が最初の山場となる。

 ……モンスター退治が新人研修なのも大概ブラックであるが、ヒロノリはあえてその事を無視した。



 晴れて事務員となった女子は、回ってくる書類との戦いに挑む事になる。

 何せ相手は毎日何かしら発生してくる。

 それこそ無限にわき出すモンスターと大差がない。

 命が危険にさらされる確率は戦闘よりは低いが、立ち向かって被る疲労は大差がない。

 主に精神と目にくる疲れは、下手すればモンスターを相手にしてる時以上だ。

 しかも、これに手助けはいない。

 戦闘であれば、レベルの高い先輩が主に担当してくれていたが、初期の頃の事務員にそんなありがたい存在はいない。

 自分自身で考え、作業を進めていくしかない。

 一応男子の先輩もいるにはいたが、それらも外部との交渉やより面倒な作業をしているので、おいそれと声をかける事も出来ない。

 当然ながら仕事のやり方は教えてもらえるが、それを元に手探りで作業を進めるしかなかった。

 最初期の女子事務員は、先行者として必然的に甘受せねばならない苦難を全うせざるえなくなっていた。



 しかし、それでも辞めようなどと思う者は……いるにはいたが、本当に辞職する者は皆無だった。

 何せ給料が違う。

 一人あたり、週給四銀貨。

 月給にすれば概ね十六銀貨になる。

 べらぼうに高いというわけではないが、それでも一般的な労働よりは二割から三割は高い。

 一応技術を持ってるからというのもあるが、この値段は他の仕事を探そうと思わなくなるだけのものがあった。

 宿泊所や食事の料金を払うと実際の手取りは更に下がるが、それでも十分に潤える給料だった。

 この世界、この水準の給料はそれほど多くはない。

 それだけに従事してる女子従業員は、決して他への転職を実行しようとしなかった。

 実際問題として、ヒロノリの一団と同程度の給料を出す所がないのである。

 もう少し技術レベルが上がれば話は別だが、彼女らの能力・技術だとこれ以上の給料はまず発生しない。

 モンスター退治で経験値を稼がせるという、極悪非道な研修を行っているが、それでも彼女らの待遇は最上の部類に入っていた。

「あそこで逃げ無くて良かった」

「きつかったよね……」

「でも、事務所で仕事が出来ると思えば……!」

 愚痴まじりにそんな会話が出て来るくらいに、彼女らは現状を、困難を乗り越えてここにいられる事を幸運だと思っていた。

 ……それって洗脳じゃねえのか、と思わないでもないが、そこは触れないでおくべきかもしれない。



 そうしてるうちに余裕も出て来る。

 作業のコツを掴み、仕事の要領をおぼえると雑談に花が咲く。

 買い物、髪結い、演劇などなどの話で盛り上がるあたりは異世界でも変わりはない。

 当然ながら色恋沙汰もいくつか上がってくる。

 様々な話題の一つとして処理されていくが、それが本命なのは変わりが。

 どこの誰があっちのお方とあんな事こんな事になってる…………どこで仕入れてくるのか分からないそんな話題がどんどん出て来る。

 憶測や推測などを語ってるのが大半だが、中には本当にそうなってる話もちらほら存在する。

 当然それは彼女らの身近な所にも接近し、同じ一団の野郎共の品評会へと発展していく。

「あいつ、仕事は出来るよね」

「仕事はね」

「仕事はねえ……」

「まあ、仕事は出来るよね」

 明確に言わないが、何を言わんとしてるのかははっきりしてる会話が続く。

 やはり身近にいる同じ事務所の人間が対象になるが、モンスター退治に出ている者達も多少は話題に上がる。

 接点が少ないので情報も少ないが、それでも皆無というわけではない。

 核の売却処理の情報も流れてくるので、どれくらいの稼ぎがあるのかは分かる。

 また、人事考課というか、あちこちからの意見も多少は見聞きする。

 それらが出会ってもいない者達の評価材料となったりもする。

「稼ぎは良いよね」

「あっちはなんか評判良くないね」

「一緒にやりたいって要望が出るのは、これとこれに固まるわよね」

「あ、この前こういう人が名前出てた」

「たしかあれだよね、ごつい顔の人」

 仕事における評価とは別に、女子基準による選考が深く静かに進行していく。

 割と厳しめに野郎共は評価をされているのだが、それに気づいてる者は事務所にいる一部の男共しかいない。

 そんなわけで、女衆は着実に目星をつけていく。

 結婚相手にふさわしいのは誰なのかと。

 今の稼ぎでも食って行けるが、それだけでどうにかなると思ってるわけではない。

 結婚すれば楽が出来るわけもないが、将来も一人で生きていこうと考えてるわけでもない。

 適当な誰かがいれば、という思いは頭や心のどこかにはある。

 その為に適当な物件を物色してる最中でもあった。

 そういう観点からすると、今の職場はやはり最高であった。

 何せ、多少なりとも野郎共の情報が手に入る。

 下調べが出来るのは大きい。

 目に見えない所で、虎視眈々と女衆は野郎共を観察していた。



 そんなわけで、行動が早いものは自ら野郎共との接点をもっていく。

 種類の回収や受け渡しなどでモンスター退治に出てる者達に接したりしてく。

 まずは顔をおぼえてもらわないとどうしようもない。

 また、経験値稼ぎという事でモンスター退治に参加を希望する者もいる。

 これはヒロノリが自分でやってる事を事務員にも開放している事だ。

 普段の作業をしていく事でも経験値は手に入るが、モンスターを倒した時ほどではない。

 なので、技術レベルをあげるためにモンスター退治に参加する事も許可していた。

 事務作業に穴があくといけないので、一度に参加出来る人数は制限しているが。

 それがモンスター退治に出てる野郎共との接点を持つ機会の一つととらえてる者は、ここぞとばかりに参加をしていく。

 中には手弁当持参で愛嬌を振りまくといった者もいる。

 そうでなくても悪い印象を持たれないよう態度を慎むのは基本となっていた。

 そのせいか、モンスター退治に出てる連中からの女子事務員の評価は高い。

「あの子良いよな」

「愛嬌有るな」

「愛想もいいそ」

「弁当、美味かった」

 単純と言えば単純である。

 実態を何となく察知してる男の事務員は、それとなく内部情報を流しているが、効果はあまりない。

 そうした接点だけをもとにして、野郎共は野郎共で女子事務員の評価をしていく。

 主に顔と胸と腰つきあたりが話題になるのは言うまでもない。

 それに加えて、自分達と接してる時の態度なども評価項目にあがってくる。

 弁当持参や応急処置のための道具持参などは更に評価が高くなる傾向にあった。

 女子が技術研修を終える頃には、概ね野郎共の方でも評価・査定がなされていく。

 もっとも、女子が行ってるものに比べればいささか(どころではない程に)精度に問題があったが。

 元になる情報量が違うので、こればかりは仕方がなかった。



 一方で女子の方は、実際に接した事で手に入れた生の情報を、事前に入手した書類と組み合わせていく。

 それで事前の評価が一気に変わる事もあれば、全く変わらないでいる事もある。

 だが、それで狙いが変わる事はさして珍しくもなかった。

 高評価で高止まりしてる者を狙うのが常であるが、競争率の高いそこをあえて外す者も出てくる。

「まあ、これくらいでいいか」と妥協できるあたりまで下の順位の者に狙いをつけて接近していく者が出てくる。

 下手な博打を捨てて、確実に手に入る辺りを狙っていく。

 それなりの収入、死亡確率が低くなるくらいに高いレベル、接していて苦痛にならない程度の人柄。

 概ねこれらが評価基準になった。

 もちろん、「見てくれが良い」というのは絶対条件である。

 あえて取り上げる必要がないくらいに当たり前の選考基準なので、口にする事もない。

 意識に上がる事すらないほど無意識に評価を下していた。

 ただ、それも見ていて問題が無いくらいの、愛嬌と感じられるくらいの容姿であれば妥協できるくらいの柔軟性はあった。

 かくて、女子による結婚活動情報収集と分析・評価・裁定は進められていく。

 それが終われば、あとは狙いを定めて接近して、攻撃を繰り返していく。

 …………書いてて怖くなってきた。

 …………なお、これがフィクションであるのは言うまでもない。

 …………言うまでもない、言うまでもないんだ(大事な事なので繰り返す)



 そんなこんなで目星がつき始める頃には色々と牽制が始まる。

 言葉の端々に狙った相手を求めての対立が浮かび始める。

「あの人はねえ…………(と牽制しておくか)」

「そうよねえ…………(あら、もしかして。でもここは受け流して)」

「それよりあっちの方が良くない?(方向を逸らしておかなくちゃ)」

「あ、いいかも。それにあっちの方も(ついでにあっちの最下位近くをおすすめしておこっと)」

「いいよね、誠実そうだったし(嘘情報、嘘情報。ひっかかってよね-)」

「分かるー。人当たりいいよねえ(それしかないけどね)」

「やっぱり、一緒にいるならああいう人だよねー(だから貴女達はあちらに流れてね-)」

 概ねこんなやりとりがそこかしこで起こるようになっていく。

 実際にはもっと違った形で様々なやりとりがあったりするのだが、そこは割愛する。

 何せ作者の描写能力と経験と情報の不足が著しいのでどうしようもない。

 その辺りに詳しかったとしても、おっかなくて描写出来るものではない。

 君子ではないけど、危うきに近寄らないだけの危機管理能力と知恵は働かせておきたいものである。



 そんなこんなの牽制と衝突などを制した者が、目的の男へと接近していく。

 さりげなさを装い、自然な感じで接近をする。

 無言の戦いを制してきた者は、狙った相手との接点を大幅に獲得し、交流を深めていく。

 他に相手がいない事もあって、男のほうも次第に好意を迫ってきた相手に抱いていく。

 そりが合わない限り男の方が距離を置くような事はまずない。

 そもそもそんな事を考えてる余裕がない。

 命がけの戦いを繰り返す日々である。

 目の前に同じような年頃の女がいればそれで十分だった。

 それ以上に何かを求めるような事は無い。

 目鼻立ちが個性的すぎたり、性格などがあまりにも規格外でもない限りは。

 弁当を持ってきてくれたり、敗れた衣服を繕ってくれればそれだけで有頂天になる。

 男なんてそんなもんである。

 また、実務的な技術だけでなく、こんな事の為にそれなりの技術を得ている者もいる。

 主に心理とか交渉などを身につけた者は、それを用いて相手に接近していく。

 標的となった者達は、ほとんど無警戒な状態でそれらに接していき、ほぼ確実に女子を意識させられていく。

 かくて狙われた野郎共はほぼ確実に接近してきた女子に熱を上げる事になっていく。



 社内…………ではない、一団内部におけるそんな実態に気づいたヒロノリは、それに唖然とした。

 前世の仕事の関係で交渉やら心理やらを会得してしまっていたから、手練手管の手の内がいやという程よく分かる。

 分かる者が見れば、それはもう捕獲と言ってよいものだった。

 網を張って絡め取るジョロウグモの姿を想像してしまう。

(すげえ……)

 そして、えげつない。

 我が一団にて、そろそろ誰かが付き合ったり結婚とかしたりしないのだろかと思っていたヒロノリは、実態を見てそんな考えがあまりにも甘い事を自覚せずにはいられなかった。

 自分の考えがあまりにも甘かったと。

 そして、撃墜というか被害者というか、落としたつもりで落とされていってる野郎共にわずかな憐憫をおぼえていった。

 救出する事など決して出来ない事を知りながら。



 もっとも、そんな事をしている余裕も一気になくなっていく。

 廃村への進出を決めた事で、事務作業の作業量が格段に跳ね上がっていったのだ。

 適宜新人も入れてはいるのだが、それで追いつくわけもない。

 ただでさえ狭い事務所が余計に狭くなり、新たな不平不満が噴出する。

 一時的にでも新しい場所を借りようとするが、そう簡単に見つかるわけもない。

 そんなわけで女子社員達の苦難は一気に跳ね上がった。

 同時に、女子連中から男子への接近もなりを潜める事になった。

 作業に時間がとられて逢い引きしてる場合ではないのが理由である。

 おかげで野郎共からも不平不満があがってきてしまう。

 通常業務と、社員連中からのそういった方面の文句が相まって、ヒロノリは胃の辺りに不調をおぼえた程である。



 事務作業そのものは何とか進むが、内部にたまった不満は高まる一方だった。

 それでも女子社員達はあちこちからやってくる書類と格闘を続け、それらを切り伏せ続けていった。

 ただ一つ利点があるとすれば、おかげで経験値がかなり手に入った事であろう。

 さすがにヒロノリも申し訳ないので、時間延長して行われた作業の分の給金は出した。

 懐事情の関係で、適切な金額とは言えなかったが。

 それでも残業代が出た事に女子連中は怒りを多少は和らげた。

 この世界、残業代など存在しない。



 そんなこんなでヒロノリの一団の机仕事を支える女子社員達は、血眼になりながらも頑張っていた。

 仕事に向かう姿勢は真面目というか謹厳実直と言ってよい。

 それが大変ありがたく、ヒロノリは本当によい娘がうちにきてくれたなあ、と感動をおぼえた。

 同時に、野郎共に接する時の事を思い出し、それ以上に思う事があった。

(…………女はおっかねえ)



 なお、この話はフィクションである。

 現実に存在しない話である。

 一応その事をあらためて示しておきたい。


 微笑ましい日常の一こまである。

 それ以上でもそれ以下でもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。




活動支援はこちら↓

あらためて支援サイトであるファンティアの事でも
https://rnowhj2anwpq4wa.seesaa.net/article/501269240.html
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ