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転職4日目 何も無いんだ、仕方ないだろ

 何はなくとも食い扶持を稼がねばならない。

 この世界に来た夜、その次の日に町に到着し、更にその次の日に冒険者登録。

 食事もろくろく食ってないので急いで稼がねばならない。

 アパートに帰る途中、コンビニで食い物を買っておいて本当に助かった。

 とにかく仕事を、モンスターを倒してこなければ飢え死にしてしまう。

 そうなる前に少しでも稼いでおかねばならなかった。



 とりあえず武器である。

 当然持ってない。

 武器になりそうなものも持ってない。

 こんな事なら、禿げ・デブ・チビ上司や体育会系先輩や眼鏡腰巾着同僚を殺すつもりで包丁でも持っていけば良かった、と今更ながら後悔をする。

 実際に殺す事はなくても、持っていれば今頃役に立っただろうと思うももう遅い。

 何もない状況で、とりあえず出来る事をやっていくしかない。

 幸い、近くに川があり、瓦には適度な石が転がっている。

 その中で、それなりの大きさのものを手にとり、モンスターが出て来る場所へと向かっていった。


 悲しい事だが、バレーボールくらいの大きさの石

がヒロノリの初期武装となった。



 その石を持って、田畑の周りの堀を巡っていく。

 小型のモンスターならそのあたりにほぼ毎日はまり込んでるという。

 それらを倒す事で核を入手するとか。

 たいていは田畑を耕してる農民が倒しているが、それで全てを処理できるものでもない。

 いつの間にかやってきて、堀に小型モンスターが入り込んでしまうという。

 即座に脅威になるものではないが、放置して増えていくと片付けるのも手間になる。

 なので、見つけたら極力倒しておくのが不文律になっていた。



 ヒロノリもそれらを求めて町の周囲の田畑の更に外側を歩いていく。

 ありがたい事に割と簡単に堀に嵌ってるのを見つける事が出来た。

 それに向けて石を投げつける。

 さすがに一発で死ぬ事はないが、動きは大分鈍る。

 そうなったところで堀に入って、石を持ち上げて再度叩きつける。

 二回三回と叩きつけていくと、確実に生命力を奪う事が出来た。

 頭を集中して狙い、動きを確実に削っていく。

 何度か持ち上げて叩きつけたところで、モンスターの動きが完全に止まった。

 初めての戦果である。



 そんな小型モンスター(ネズミと呼ばれていた)を三体ほど倒してとりあえず周旋屋に帰る。

 核を切り取りたいのだが、残念ながらナイフがない。

 なので、倒したモンスターをそのまま担いで帰るしかない。

 もったいないので石も抱えたままだ。

 そんな格好で町に入ったものだから、道行く者達が奇異の目を向けてくる。

 普通モンスターを倒してきたら核だけ持ち帰ってくるのだから当然だろう。

 しかも、大きな石まで持ってるのだ。

「なんだあいつ」

「頭、大丈夫か?」

「ねえ、母ちゃん、あれ」「しっ! 見ちゃいけません!」

 ……お約束通りの声があちこちでささやかれる。

 それをヒロノリは、ブラック企業で鍛えた厚かましさで無視した。

 世の中、金より大事なものはない。

 その前に恥などというのはとても小さくとるにたらないものだった。



 モンスターを持ち込まれた周旋屋はさすがに驚き、そして呆れた。

 核を切り取ってくるならともかく、モンスターごと持ってくるのは始めてだった。

 少なくとも、この町の周旋屋でこんな事をされた事は初である。

「何考えてんだ?」

 当然の声に、

「ナイフが無いんだよ」

と事実を返す。

 金のないヒロノリに核を切り取る手段はない。

 なのでモンスターそのものを持って帰らねばならなかった。

 呆れた周旋屋の職員は、自分の腰にさしていたナイフをよこす。

「それで切り取れ」

「ありがと」

 即座にヒロノリはモンスターから核を切り取った。

 切り取った直後にモンスターが霧のようになって消えていく。

 話に聞いていたが、モンスターが核と繋がってるのがよく分かる。

 これを失ったら消え去るのだ。

 その驚きから現実に戻ってくると、切り取った核をすぐに渡した。

「とりあえず金にしてくれ」

「はいよ」

 呆れながらも周旋屋は頷く。

 銅貨にして九百枚。

 大した金額ではない。

 だが、ちょっとした小物を買うには十分だった。

 もちろん、そんなものに用はない。

 今はまだ他より優先して買わねばならないものがある。

「じゃ、もう一度行ってくるよ」

 ナイフを返したヒロノリは、石を抱えてもう一度外へと向かう。

 まだまだ稼がねばならない。

 一晩泊まるにも一食を得るにも全然足りないのだから。

 それを見て周旋屋の職員は呼び止めた。

「だったら、これを持っていけ」

 一度返してもらったナイフをもう一度ヒロノリに投げる。

「いいの?」

「モンスターごと持ってこられちゃたまらん」

 そんなの今回だけで十分だった。

「貸すだけだからちゃんと返せよ」

「分かってるって、必ず返しにくるよ」

 そう行ってヒロノリは出かけようとしたが、今一度足を止める。

「だったら、これで袋をくれ」

 手にした銅貨を差し出す。

「核を持って帰ってくるのに、素手じゃね」

「ほらよ」

 周旋屋の職員は粗雑な袋をよこした。

 見てくれは良くはないが丈夫そうな生地で出来ている。

 口の所を縛れるように紐もついている。

 その袋の分の代金を出された銅貨から差し引き、残りを返す。

 代金は六百銅貨だった。

 残高差し引き三百。

 一気に残りが少なくなった。



 新たに袋とナイフ(借り物)を手に入れたヒロノリは、更にモンスター退治を続けていく。

 小型モンスターを見つけては石を投げつけ、投げつけて動きが止まったところで止めをさす。

 ナイフが有る分だけ簡単にできるようになった。

 倒した獲物は一度堀の外に出し、そこで核を切り取る。

 堀の中にいると、いつ襲われるか分からないからだ。

 投げつけた石も堀の外に出し、自分も這い上がる。

 堀と言っても深さ一百五十センチくらいなので、外に出るのに支障はない。

 一百七十センチのヒロノリには余裕だ。

 そんな作業を繰り返し、ヒロノリは三十体のモンスターを倒した。

 暗くなるまで頑張った結果である。

 買い取り代金は九千銅貨。

 そこから税金が差し引かれ、手取りが六千三百銅貨。

 まずまずの報酬になった。

 これで一晩の宿と一食は確実に食える。

 周囲の目や恥なんてのは、食い扶持を稼いでから気にするもの。

 それくらいの図太さが無ければやっていけませんわな。


 23:00にも投稿予定。

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