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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第三決算期

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転職34日目 良い方向に変わってた

「そこまで人が必要ならさ、うちからも連れていってくれないか?」

 そんな事を言われたのは、人手が足りないとぼやいてる時だった。

 言い出してきた孤児を見返し、

「あっ」

と漏らした。

 最近急がしてく忘れていた、元々は孤児達を引き連れていた事を。

 そもそもの動機はともかく、彼等を戦力として用いていた事実は消えない。

 今も子供達はモンスター退治に参加している。

 稼ぎを孤児院の運営にあてながら。

 そんな彼等が呼び水となって参加者が増え、一団は大きくなった。

 既に無理して孤児を引き連れていく事も無い。

 だが、彼等からすればそうも言ってられないのだろう。

「出来ればもっと稼ぎたいんだけど」

 懐事情が改善されても、稼ぎが足りてるとは限らない。

 収入が改善出来るならそうしたいのだろう。

 それ以上に、就職先の問題が大きいらしい。

「働ける場所なんて他に無いし」

「なるほどな」

 孤児という境遇はともかく、伝手もない、技術も無いでは雇ってくれる所も無いだろう。

 せいぜい周旋屋で仕事をもらうしかない。

 それよりはヒロノリの所でモンスター退治をした方が良いと思ってるようだった。

 危険はあるが稼ぎが違う。

 今の孤児達は、技術レベルも上がり、他の者達よりも簡単に稼いでいる。

 だからこそ冒険者として稼ごうと思ってるのだろう。

 それに、彼等自身も色々と考えてる。

「もっと稼いで、家を新しくしたいんだ」

 食事が改善され、生活に必要な様々な道具も手に入れた。

 台所用品から戸棚、ベッドに衣服。

 今までとは比べものにならないくらい生活環境は良くなってる。

 しかし、住居だけは簡単に変える事は出来ない。

 多少は修繕してるようだが、根本的な解決にはなってない。

 既にかなり老朽化している。

 このままではいずれ崩壊しかねないとも言われてるらしい。

「新しくするだけの金を稼がないと」

「そういう事か」

 言いたい事は理解した。



 あらためて孤児院の現状、というか孤児の状況を確かめにいく。

 稼ぎが改善され、食材を持っていく必要もなくなってから足が遠のいていた。

 もう一年以上来ていない。

 一緒に仕事をしてる連中はともかく、他の子達がどうなってるのかを知りたかった。

 町の外れの外れにあるそこに行くと、見覚えのある廃屋同然の建物が見えてくる。

 そして、妙に元気な声と騒音も。

 以前は見れなかったものだ。

 それらが孤児院からのものであると知り驚く。

 以前はそんな元気もない状態だったのだから。

 しかし一年という時間はかなり大きな変化をもたらしていた。

「……大きくなったな、こいつら」

 驚くヒロノリの目には、以前とは比べものにならないくらい体格が良くなった子供達がうつってる。

 骨と皮だけだったのが、今では普通の子供達と同じくらいになっている。

 背丈も伸びてるようで、同年代の子供達と同等の体つきをしている。

 一年という時間の大きさを感じた。

 その間頑張って稼いだ孤児達の努力も。



「それで、何人くらいうちに来る予定なんだ?」

 中に入り、仕事の話をしていく。

 体面に座る老婆は、以前と変わらぬ口調で、

「そんなの知らないよ」

と答えた。

「子供が勝手にやってる事だからね。

 こっちの出る幕じゃないんだよ」

「あんた、保護者じゃないのか?」

「つってもね、勝手にやる事まで一々目を向けてらんないよ。

 何人いると思ってんのさ」

 そういって周囲に目をやる。

 二十人を超える子供がそこらにいた。

「……なんか、前より増えてる?」

「行き場のない子供なんて幾らでも出て来るからねえ」

「そんなに?」

 恐ろしい事実だった。

「売春宿や貧民街やら。

 あちこちから出てくるよ。

 町の中からだってね」

「いや、町からどうして出てくるんだよ」

「色々あるんだよ、町の中だって。

 清廉潔白だとでも思ってるのかい?」

「うーん」

 そう言われると何とも言えない。

 酒場の女給が実質的な売春婦だという話も聞いた事がある。

 また、強姦事件なども割と多いらしい。

 全体的に遵法意識というか、道徳観などが低いようには感じていた。

 望まず生まれてくる子もそれなりにいると言われれば、そうなのかもしれないと納得してしまう。

 それを裏付けるように、老婆は事実を口にする。



「あんたが来なくなってから六人増えたよ」

「増えたって、子供が?」

「ああ、赤ん坊も含めてね」

「おいおい……」

 何にしても最悪である。

「だから、何か勝手にやらかしても、こっちとしちゃ目を向ける余裕がないんだよ」

「お疲れさまです」

 自然と頭が下がった。

「じゃあ、冒険者になるかどうかは、直接本人に聞いてくわ」

「そうしてくんな。

 あたしゃ、そこまで面倒見切れないからね」

「はいはい」

 仕方が無いので老婆ではなく、希望者と直接話す事にする。

 保護者と先に話をしておこうと思ったが、そんな余裕も無さそうだ。

(まあ、本人の自主性を重んじてるって考えておけばいいか)

 決して放置ではない、育児放棄でもない──そう思う事にした。

 何にしろ余裕がないのは確かだ。

 女の子達が家事の手伝いをしてるようだが、それでも手が足りないのだろう。

 二十人もの子供を相手にするのだから当たり前であるが。

(意外と苦労してるのかもなあ、あの婆さんも)

 口は悪いし表情も険しいが、それも仕方ないだろうと思った。

 子供相手というのはかなり大変だ。

 部下を率いるのとはまた違った苦労がある。

 それを考えると、あれこれ文句を言う気にはなれなかった。

 続きは明日。

 今日はこれ以上無理でござる。

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