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転職3日目 省略出来る所は省略して話を進めます

「……なるほど」

 目をさまして外に出て、外の様子を見て呟いた。

 やはり状況は変わっておらず、鳥居の向こうの景色は野原のままだった。

 残念──ではなく、嬉しい事に別世界らしき所のままである事を確認する。

「よし、会社は無しだ」

 これで合法的に会社に行かずに済む事になった。

 何せ移動手段がない。

 連絡手段もない。

 最高だった。

 相変わらず部屋に残してきた様々なお宝については気になるが、それについては諦めた。

 せめてこちらに転送してくれと願ったが、それも聞き入れられた様子はない。

 しかし手に入らないものにいつまでも気を取られてるわけにはいかない。

 非情に残念だがこれから先の事を考えていかねばならない。

 何せ訳の分からない所に飛ばされたのだから。



(まあ、とりあえずは人里を探してみるか)

 暢気にそんな事を考える。

 だが、日の出前に始発に乗らずに済むというのはとてもありがたい。

 出来ればこの調子でこのまま行ってもらいたかった。

(いや、待てよ)

 そこで、ふととある可能性を思いつく。

(ここ、異世界じゃなくて日本の別の場所だとか)

 神隠しにあった人間が遠く離れた別の所に出るという話もある。

 そうだったら最悪だ。

 見知らぬどこかの世界ではなく、単に別の場所に移動しただけで終わってしまう。

 携帯電話に電波が入らないのも、山奥などで単純に届いてないだけかもしれない。

「いやいやいやいや、そりゃないよ」

 思い浮かべた可能性に血の気が引いていくのを感じる。

 ようやく解放されたと思ったのに、それが勘違いだったなど洒落にならない。

「神様、そりゃないっすよね」

 すがる思いで現実を確認しにいく。



 途中経過を記すのは手間がかかって面倒なので大幅に省略する。

 様々な作品で似たような事が記されてるのだし、同じような事を繰り返しても無駄にしかなるまい。

 行数稼ぎにはもってこいだが、今の所そんな事をする利点もない。

 時は金なり、説明と解説は手早く手短に済ます事が出来れば最善であろう。



 まず、ヒロノリの懸念は本当に杞憂に終わった。

 この世界は間違いなく異世界だった。

 神社から飛び出して、踏み固められた道沿いに一キロほど進んだ所に見えた田畑と集落を見てそれを確信する。

 茅葺きの小屋のような家が並ぶそれは、現代日本ではお目にかかれなくなってきたものだった。

 田畑に出てる農家の方々も、現代的な衣服というわけではない。

 かなりボロになってるのに継ぎを当てて着用してるのを見て、違う世界と感じられた。

 あるいは過去の世界に放り込まれたかもとは思ったが。

 しかし話を聞いてみたらそうでもないようだった。

 一軒、時代劇の日本のような姿格好をしてる者達ばかりであるが、過去の時代というわけでもないらしい。

 国の名前も聞いた事がないものだった。



 その集落である程度話を聞き、道なりに半日ほど歩いた所に少し大きな町があると聞き出す。

 礼を言ってそこを目指したヒロノリは、夜になりかかった頃にどうにか到着した。

 革靴であるき回るのは慣れていたが、それでもかなりこたえた。

 どうにかこうにか辿りついた町で、生まれた初めての野宿を経験する。

 そして再び聞き込みを開始。

 どこかの村や集落から来たおのぼりさんと思われてるらしく、割とすんなりと色々教えてもらった。

 フリーターと会社就職時に数限り無く書いた履歴書とこなした面接、そしてブラック企業での営業経験も助けになったかもしれない。

 そのおかげで、到着二日目、実質一日目にして結構な情報を仕入れる。

 とりあえずこの世界にモンスターがいて、冒険者がそれを倒して稼いでる事までは聞き出す事が出来た。

 ここまで、言語が日本語で、文字も平仮名カタカナ漢字だったのが幸いだった。

 実に便利なファンタジーだなと思ったが、ありがたく現状を享受する事にする。

 さすがに言葉が通じないとかいうのだったら洒落にならない。

 また、稼ぐ手段がとりあえずあるのもありがたかった。

 さすがにまともな所に就職できると思うほど脳天気にはなれない。



 一般的な就職はこの世界でも困難だった。

 元々、企業のようなものが少なく、それらも丁稚奉公で入るしかない。

 その枠はとてつもなく少なく、普通にそこに入り込むのも至難の業だ。

 コネがなければほぼ不可能という世界である。 

 それに比べて冒険者は格段になりやすい。

 極端な話、そう名乗るだけで冒険者になれる。

 もちろん自称冒険者と、本当に仕事として冒険者をやる者は明確に違う。

 この世界における本物の冒険者とは、モンスターを倒してくる者を指す。

 文字通りに冒険や探検に出て、未知の領域を探索するという者も含まれるが、そちらの意味は薄い。

 モンスターが出没するようになって、探査されてない地域を探るのにも戦闘力が求められるようになった。

 その頃から、冒険や探検はモンスターを倒す事とほぼ同義語になってしまっている。

 また、モンスターを倒して核と呼ばれる器官を持って帰れば金になるようにもなっていた。

 自然、そちらを目当てにする者が増えていき、探索や調査は後回しになってしまっている。

 状況の変化が言葉の意味を変えていったのだ。

 もちろんヒロノリには関係のない事である。

 彼にとって大事なのは、確実に金を稼ぐ手段があるかどうかだった。



 なお、財布に入っていた金はやはり使えなかった。

 硬貨の方は多少は価値が認めてもらえたが、別の国の刻印という事もあって価値は大分目減りするという。

 やむなく無一文という状況を認める事にした。

 もともと覚悟していた事である。

(まあ、しょうがないよな)

 無ければ稼げばよい。

 そう割り切る事にした。



 そして、冒険者としてやっていくにあたり、周旋屋なるものがある事もしる。

 もともと人材派遣をやってる店らしいのだが、勤めてるというか登録してる者のほとんどが冒険者だという。

 モンスターが出没する事もあり、それに対抗するために仕事を紹介していった結果だとか。

 武装していて戦闘力のある者達はこんな状況だから必要なのは理解できた。

 それに仕事をしっかりやるという信用をある者を見つけるにもこういう仕事があると便利だとも思った。

 どこの誰だか分からない人間を雇うのは使う側からすれば避けたいものだ。

(ああいう連中は使いたくないだろうしなあ)

 当然浮かんでくるのは、ブラック企業で机を並べていた連中である。

 取引相手としても避けたいだろうし、一緒に働く者としてもお断りしたい。

 そういう人間をあらかじめ分別してくれるというなら需要があるのも頷けた。

 ヒロノリのとってありがたいのは、モンスター退治に必要なものをある程度揃えてくれてるところだった。

 寝床に食事に装備に仕事。

 必要なら仲間を斡旋してくれる。

 倒してきたモンスターの核を買い取ってもくれる。

 もちろん金がかかるが、それは当然である。

 とにかく必要な業務を一手に引き受けてくれている。

 それで十分だった。

 早速登録して冒険者となった。



 登録すると、登録証なるものを渡された。

 驚いた事に、能力値を表示する事が出来るという。

 まるっきりRPGだなとびっくりするが、便利なので助かる。

 早速能力を表示すると、ある程度予想通りの数字が並んでいた。





【能力表示】



一般教養 レベル3

事務 レベル3

会計 レベル3

管理 レベル2

交渉 レベル3

心理 レベル3


運動 レベル2

肉体作業 レベル2

長距離移動 レベル3



【能力表示】





 以前の世界の技術であるパソコン操作などもあったが、この世界では関係ない。

 主に使えるものだけ見ていくとだいたいこんな所に落ち着いた。

 周旋屋に言わせれば、商会の仕事を任せても良いレベルだという。

 レベル3もあれば一通りの事は出来るというのだからそうなのだろう。

 なお、レベル10で一本立ち出来ると言われている。

 そこまで行けるとは思えないが、とりあえず食っていくのに困らなければそれで良い。

 ただ、残念な事に今の段階では紹介できる仕事がないとも言われた。

 商会にしろ何にしろ、事務作業を求めてる所はどこも埋まってるらしい。

 もっと大きな町に行けば仕事もあるだろうが、規模の小さな町ではやはり需要が少ないとか。

 それならば、とすぐに出来る仕事を聞いたら、

「モンスターを倒してくるしかないな」

と言われた。

 まあ、そんなもんだろうと思った。

 楽に出来る仕事が簡単に回ってくるわけもない。

 なので、モンスターについての事を可能な限り聞き出していった。

 今できるのがそれしかないなら、それについて徹底的に情報を得るしかない。

 周旋屋が呆れるくらい様々な事をヒロノリは聞き出していった。



 佐々木ヒロノリ、二十九歳。

 外見・中身共にガリガリ君系のオタク。

 今までの職歴などは全く意味を持たないので、説明から割愛。

 今やまっさらの新人冒険者である。

 この世界では、年齢的にかなり遅咲きというか出遅れであるが。

 そんな彼の新たな人生の開幕であった。

 説明不足にならない適度な省略の仕方を身につけたい。

 これがなかなか難しい。


 22:00にも続きを出す予定。

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