転職28日目 色めき立つ野郎どものあふれる意欲
到着した女子達を迎えたは良いが、色々と面倒も発生している。
単純な所では寝床。
野郎共なら宿舎の雑魚寝部屋に放り込み、他の連中と一緒にさせておく事も出来る
だが、さすがに女をそこに放り込むのは気が引けた。
なので、少人数用の集団用の部屋を借りてそこに入ってもらっている。
この部屋、一泊の料金が高いので、利用する者は少ない。
なのだがそうも言ってられなかった。
手痛い出費であるが、人員確保のための必要経費と言う事で確保した
野郎共もこれには反対しない。
むしろ、
『全然構わないっすよ!』
と快く承諾してくれた。
『俺達の嫁のために!』
下心は健全な動機となりえる。
戦闘に出さなくてはならないのも大変な負担になる。
レベルを上げるためなので仕方ないのだが、女性陣にもやむなく最初の何ヶ月かは戦闘に従事してもらう事にした。
高レベルの者と組ませ、極力効率よく成長出来るよう調整する。
一緒にモンスターを倒す人数が少なければ、一人当たりの経験値(と収入)も大きくなる。
危険なのは確かだが、これで経験値を獲得して必要な技術を手に入れる。
その為戦闘関係の技術成長は全くない。
一緒にレベル上げに出る者達の負担は大きくなる。
しかし、女性陣の引率係には希望者が殺到した。
『是非、俺に!』
そう言ってる連中の鼻の下は伸びに伸びまくっていた。
鼻息荒く申し出る彼等を見て、こいつらに任せて良いのだろうかと思ってしまう。
しかし、これがかなり難航していく事になる。
同時進行で、野郎の事務員の方も育成しているのだが、時間がかかる。
普通に仕事になれるまで、技術レベルが上がるまで待つよりは遙かに早く育成出来るのは確かだ。
普通ならレベルを一つあげるのに半年から一年はかかる。
それを二ヶ月三ヶ月でやるのだから相当に早い。
一年もかければそれなりの技術を身につけた作業員になる。
しかし、一年である。
早急に事務員の欲しいヒロノリにとっては長い。
(一年かあ……)
最低限の技術だけで良いとは思うが、それでもいくつかの技術はそれなりのレベルに到達していてもらいたい。
即席培養とはいえ、やはり一年は必要だった。
(まあ、新人研修だと思うしかないな)
まともな企業なら時間をかけると聞く。
ヒロノリも一年をそれにあてるつもりで覚悟した。
募集の締め切りを一旦打ち切ったヒロノリは、新人達のレベルを上げるべくひたすらにモンスター退治に繰り出していった。
とにかく数をこなすしかない。
経験値を稼ぐ為には、ひたすらモンスターを倒すしかないのだ。
倒しても倒しても減らないモンスターであるが、こういう時にはうってつけだった。
とにかく無くならない。
幾らでも次が出て来る。
それが人類にとっては脅威なのだが、稼ぐには最高だった。
倒せば金も手に入る。
経験値というすぐには結果の出ない積み重ねよりも、分かりやすい目先の利益の方が人を奮い立たせる。
レベルが上がり、一日の稼ぎが銀貨一枚を確実に超えてる者達は、それを求めてひたすらにモンスターを倒していった。
そうなると気になるのが浪費である。
モンスター相手だと特にそうなのだが、明日どうなるか分からないという不安がある。
だからこそ、貯金しても無駄になると考えてしまう。
それだったら、稼いだ分を全部使ってしまえ、という気持ちにもなる。
自棄になってるようなものだが、仕事が仕事なので間違ってるとも言い難い。
なのだが、女が入ってきた事でこれが変わった。
もしかしたら、将来所帯を持つかもしれない────そんな考えが頭にちらついてくる。
そうなると考えるのはそれからの生活だ。
金が幾らあっても足りないのは、簡単に予想がつく。
特に一般教養まで身につけた者達は、多少は頭が使えるようになっている。
楽しみを捨てたくはないが、無駄な浪費をしていてよいのかと考える。
自然と、幾らかを蓄えに回すようになっていく者が増えていった。
(もしかしたら、誰かを嫁にするかもしれないし)
その候補(という名目で集めた)となる女が目の前にいる。
実物を見るとやはり現実感を抱きやすい。
むさくるしい野郎共も、次第に預金口座に金を貯め始めた。
一日の稼ぎの半分を蓄えに回しても余裕があるだけに、かなりの金額が貯まっていく。
面白いもので、ある程度貯まると変に使おうとしなくなる。
人によってその金額は様々であるが、貯金は次の貯金への動機となっていく。
それが銀貨五枚であったり十枚であったりと差はあるが、ある一点を超えると無駄遣いが本当になくなる。
毎日酒を飲んでいた連中が、一週間に一回、休日の前にだけの酒盛りになったり。
売春宿通いがほとんどなくなったり。
とにかく浪費と言えるものがなくなった。
装備品などの必要品への消費はしっかり維持されてるが、それ以外に用いる事はなくなった。
金の使い方だけでなく、仕事への態度も変わっていく。
もとより死なないよう頑張っていたが、それが更に一段と深まった。
いかにモンスターに当たっていくか、他の組との連携をどうしていくか。
モンスターを倒したあとの展開はどうしていくか。
進出と後退はどのようにやっていくか。
それらに熱が入っていく。
単に生き残るだけではなく、生き残ってその先の為に頭を使い出していた。
(所帯持ったら死ぬわけにはいかないし)
(新婚早々死にたくないし)
(女房子供を残して死ぬわけにはいかないし)
そんな思いを全員が抱いていた。
とかく欲望と下心が皆の意識や意欲を向上させていた。
それにヒロノリは満足していた。
(女を入れて正解だったな)
ここまでの効果があるとは思ってもいなかった。
欲望を否定してはいけない。
それはやる気と意欲の原動力なのだから。
そう思うのは俺だけだろうか?
続きを18:00に公開予定。




