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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第二決算期

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転職18日目 意外と早く問題が表面化して、自業自得名結果に終わる

「────というわけで、結構危険な状況が目立ってる」

 全員の前でヒロノリははっきりと言った。

 遠回しにとか、やんわりと、といった遠慮をしてる場合ではない。

 説明会より二ヶ月、更に参加者が増えて二十人にまでふくらんで一団が抱える問題である。

 放置するわけにはいかなかった。

「このままだといずれ破綻する。

 どこかで問題がかならず起こる。

 その時には、誰かが犠牲になる。

 だから、やり方をはっきりと考えておきたい」

 そう言ってヒロノリは、わざわざ一日潰して全員を集めた理由の説明を終えた。

 それだけ深刻な状況になっていた。

 少なくともヒロノリはそう見ていた。

 ただ、他の者達はそこまで危機感をおぼえてない。

 それも含めて大問題と言えた。



 目に付くのは基本的に小さな問題が多い。

 ただ、気づきにくいものがほとんどではある。

 個々の戦闘においてはまず問題は発生してない。

 全く無いわけではないが、それは戦闘であれば必ず発生する事である。

 攻撃が当たらなかった、回避が上手くいかなかったなどなど。

 確かに失敗ではあるが、大きな事には繋がらない事ばかりである。

 問題にしてるのはそこではない。

 そんな事レベルを上げれば解決する。

 そうではなく、個々の戦闘が全体として統一されてない事が問題だった。

 統一というよりは、連携である。

 互いに補完し合う関係ではない、と言った方が良いだろうか。

 なまじ各組が単独でモンスターを倒せるだけに、互いの連携を忘れてしまう。

 戦闘中は仕方ないのだが、それが終わっても状況の把握を怠る。

 戦闘が終わったら周囲を見渡してもらいたいのだが、それがない。

 見る事もあるようなのだが、まだいけると思うのか次のモンスターに向かっていってしまう。

 その為、他の者が援護に入る事が出来ないくらい奥へと進んでしまう事がままあった。

 危険極まりない事である。

 確かに一体ずつ相手をするならそれほど苦労はない。

 五人で囲めば確実に倒せる相手だ。

 だからこそ怖いのだ。

 与しやすいと思ってどんどんと先へと進んでしまう。

 そうしてるうちに引き返す事が困難なほど奥地へと踏み込んでしまう。

 そうなったら終わりだ。

 モンスターを倒すためには先に進まねばならないが、そうやって進んだ分だけ退路を断たれる事になる。

 進んだ分だけモンスターがその空白に進出する。

 それはさほど早い展開ではないが、確実に背後が狭まっていく。

 ある時ヒロノリはそれに気づいた。

 だからこそ、ある程度モンスターを倒したら一度戻る事にしていた。

 なのだが、それに異議を唱えられてしまう事になる。



「けど、上手くやってるじゃなですか」

 新人達の何人かはそう言って反対してくる。

「このやり方なら確実に倒せるし、後ろがふさがっても切り開いていけばいいでしょ」

「考えすぎですよ、それは」

 そう言ってヒロノリの慎重論を否定する。

 全く話にならなかった。

 ヒロノリも理由を提示して危険さを訴えるのだが、聞き入れる気配は全く無い。

 その理由についてもはっきりしてる。

「今の勢いならがんがん稼げるじゃないですか」

「一気にいけばいいんですよ、あんなの」

 そういった言葉を理由としてきた。

 稼ぎが増える事。

 今のやり方で上手くやってる事。

 だが、それらは建前に過ぎない。

 実際のところ、彼等は酔っていた。

 自分達がモンスターを倒していける事に。

 強くなった、少なくとも現状ではモンスターを上回ってる。

 その事に興奮していた。

 高揚していた。

 それを捨てるつもりはなかった。

 また、これが一番大きな理由だが、主導権を握っていられる。

 ヒロノリを押しのけて自分達が一団を引っ張っている。

 そう思う事が一番大きな本音だった。

 人間、様々な力におぼれるものだが、権力は格別だという。

 それは様々な場所で見られる主導権争いに顕著であろう。

 単純な利益を考えれば全く無意味な指揮権の争奪戦。

 それは主導権を求める本能と言えるものではないだろうか。

 そんなものを今の彼等は確かに感じていた。

 この一団を率いてるヒロノリを押さえつけてるという事で。

 自尊心を満たすという、ただそれだけを理由にしている。

 だからこそ、口にしている事にそれほど意味はない。

 彼等が求めてるのはそれではないのだから。

 だからこそ理由や理論など全く意味が無い。

 どれほど正論を述べても意味が無い。

 そもそも人間は正統的な考えや、真相・真理による踏むべき道など見向きもしない。

 損をしようが破滅しようが、主導権を握る事に血道を注ぐ。

 そういう傾向がある。

 それに関わる事で妥協や譲歩をすることはない。

 例外的な一部を除き、何の理もない意見であっても主導権がとれるなら破滅の道を選ぶ。

 今、ヒロノリに反発してる者達もそういった気持ちで動いていた。

 その気持ちに従って頭を動かしている。

「まあ、気にする事ないですよ」

「そうそう、大丈夫ですって」

「おい、そういう問題じゃないだろ」

「まあまあ、落ち着いてくださいよ」

「もう遅いし、明日もある。

 今日は解散て事で」

 そういってヒロノリに反対してる連中は席を立った。

 五人はそのままその場を後にして部屋へと戻っていく。

 その後ろ姿を見たヒロノリは、冷めた目で彼等を見送った。



 翌日。

 いつも通りにモンスター退治に出たヒロノリ達であるが、雰囲気はいつもと違っていた。

 反発していた者達が組をつくって行動していく。

 それも周囲の事など気にせず、どんどんモンスターを倒していく。

 ヒロノリはさすがに驚いた顔をしたが、それもすぐに冷めたものになる。

 周りの者達には、どんどん進んで行く連中の事は気にせず周囲と連携をとるように指示を出した。

 それはモンスターをどんどん倒して奥地まで進んで行く連中にも伝えたが、当然のように無視された。

 伝令から戻ってきた者が呆れた顔をしていたが、ヒロノリはただ一言だけ漏らして終わった。

「じゃあ、仕方ないね」

 残った三組には、互いに見える位置を、そして援護に回れる位置を確認しながら戦闘を続けていくように言った。

 それでもヒロノリ達と先走り連中はある程度までは一緒に行動していった。

 モンスターを倒した後、すぐに次のモンスターを狙っていくから当然だ。

 だが、ヒロノリ達はそれを途中で止めて開始地点へと戻っていく。

 そうする間にも先走った連中はどんどんとモンスターのいる所を巡って進んでいった。



「すげえな、今までで一番の成果だぞ」

「やったな」

「この調子なら、上がりは今まで以上になるな」

 そういって手にした核の数に笑みを浮かべる。

 ヒロノリの指示を無視して先へと進んだ者達は、自分達のあげた成果に有頂天になっていた。

 数自体はそれほど多くはないが、時間あたりの入手数でいえば今まで以上である。

 この調子でいけば、更に大きな成果を手に入れる事が出来るはずだった。

「それじゃあ、次はどうするよ」

「あっちの方が近くねえか」

「じゃあそうするか」

 そう言って次のモンスターへと向かっていく。

 暫く彼等はその調子でモンスターを倒し続けていった。

 そこから三十分は。



 動き続ければ疲れるのは当然である。

 適度な休憩を入れ、水や食事もして体力を補いつつ作業はしなければならない。

 しかし、そんな簡単な事を彼等は無視していった。

 当然体力も無くなり、動きが鈍くなる。

 さすがにこれは一旦休まねば、と思ったところでそんな状況でない事を悟る。

「なあ、周りがモンスターだらけだぞ」

 闇雲に進んでいったのだから当然の結果だ。

 既に開始値点と現在値の間には結構な数のモンスターが進出している。

 そこを通り抜けなければ元の位置に帰る事は出来ない。

 気づかないうちにかなり深入りしてしまった事に気づいたが、それでも彼等はさほど問題とは思ってなかった。

 間にモンスターがいてもそれほど脅威ではない、一体ずつ倒していけば良いだけである──。

 間違ってはいない。

 確かにその通りだ。

 しかし、多少の誤算があった。



 とりあえず手近のモンスターに襲いかかり、これを倒す。

 疲れもあったので多少手間取ったが、どうにか倒した。

 それから次のモンスターへと向かっていく。

 縄張りに入った事で一気に襲ってくるモンスターを相手に、彼等は今まで通りに対処しようとした。

 しかし途中で邪魔が入る。

「おい、後ろから」

 一人が気づいて声をあげる。

 しかし、目の前のモンスターに忙しい連中は他を見てる余裕がない。

 それが命取りだった。

 背後から襲ってくる別のモンスターの攻撃を受ける事になったのだから。

「なに?!」

 驚く彼等に、後ろ脚で立ち上がったもう一体は、容赦なく前脚を繰り出してくる。

 それを捌く手段がない。

 一体ならさほど問題はないが、二体同時となると勝手が違う。

 すぐに一人が盾をかざして攻撃を受けるも、それで不利が覆るわけがない。

 それでも全く手段がないわけではない。

 一体の攻撃をひたすら受けてしのいでる間に、もう一体を他の四人で倒せば良い。

 ヒロノリは最初三人で倒していた相手だ。

 それでどうにかなる。

 だが、混乱してる彼等にそんな考えが浮かんでくるわけがない。

 そもそも、最初から五人で取り囲む事を教えられていたのだ。

 三人でもどうにかなるという事を知らない。

 その為、先走った彼等はこれが最悪の窮地だと思い込んでいた。

 しかも。

「…………な」

「おい、もう一体来るぞ」

 そにれ気づいた者達が更に顔を青ざめさせていく。

 縄張りの関係で普段は滅多に接近しないモンスターであるはずなのだが、この時は後からやって来たモンスターが更に接近していた。

 戦闘中という事で縄張りが確定していなかったのか。

 あるいは単に戦闘してる所に引き寄せられてきたのか。

 理由は分からないが、合計三体となったモンスターが五人の襲いかかる。

 この時点で彼等の生存はかなり難しいものとなっていた。

 それを察した一人がその場から逃げ出す。

「おい!」

「何やってんだ!」

 残された者達が叫ぶ。

 しかし、それで逃走者が止まるわけがない。

 五人が四人になった彼等はそこで終わった。

 さすがにこれだけの差があってはどうしようもない。

 ギリギリで生き残る可能性も無くは無いのだが、そうとう難しい条件をくぐり抜けねばならない。

 成功より失敗の確率の方が高い。

 それでも成功するには何をすべきなのかという所であるが、それを思いつく余裕も無い。

 結果は分かりきったものだった。

 残った四人から更に一人が逃げ出す。

 攻撃を受け止めるのではなく、囲んで攻撃をしていたからそれだけの余地があった。

「て、テメエ!」

 残された者達の悲痛な叫びは、確かに相手に届いた。

 しかし聞き入れられる事はなかった。

 残された三人が事切れるまでさして時間はかからなかった。



 逃げ出した二人も状況がよくなるわけではない。

 帰るまでに何体ものモンスターをくぐり抜けねばならない。

 二人でそれらを相手をする事は不可能に近い。

 縄張りに入ったところで一体が接近してくる。

 それを二人はどうにか避けようとするが、一人が確実に掴まる。

「ひっ……」

 攻撃を盾で受け止めた男は、戦うのではなくそのまま逃げようとするがそれも出来ない。

 意外と機敏で、そして人間より足の速いモンスターである。

 追いかけるのは難しい事では無い。

 すぐに接近された男は、背中に一撃を食らって絶命する。

 革の服を着ていたので通常よりは打撃への防御力はあったが、固い爪と強靱な前足による攻撃の前には無力だった。

 最後の一人も似たようなものとなる。

 逃げた先にいたモンスターに接近され、攻撃を受けて死んでいく。

 ひたすらにモンスターを倒し続けた彼等は、自ら死地へと進んでいき、当然の結果を迎えていった。



「まあ、そうなるよな」

 それを遠目で見たヒロノリは、同情も哀れみもせずにそう言った。

 それから周りの者達に、

「周りと自分を見極められない奴はああなる。

 調子にのるのは大事だけど、無謀な事だけはするなよ」

と忠告をした。

 その言葉を他の者達は呆然と聞いていた。

 ヒロノリの言葉よりも、目の前で起こった結果に気を取られていた。

 それだけショックな出来事だった。

 多少なりとも見知った者達が死んでいくのは。

 自分達が相手にしてるのは、凶悪なモンスターであるという事も。

 五人で相手にしてるから簡単に倒せてるが、本来はそんな甘い相手ではない事を思い出していた。



 それでもヒロノリは今回の結果を前向きに受け止めていた。

 こうなったのは予想外だったが、他の者達の注意を喚起する事になる。

 それに、勝手な行動をとった者が自滅してくれた。

 自分で手を下す必要がなかったのは幸いだった。

 下手すれば、いつかは決断を下さねばならないと思っていたから、これは素直にありがたい。

 ブラック企業における問題児というか、問題社員のような連中だったからいずれ処分をしようと思っていたのだ。

 手間が省けてありがたかった。

 そして何よりも一つの確信を抱く。

(やるなら慎重に進めた方がいいな。

 勇敢なのも考えもんだ)

 勇気を否定するつもりはない。

 モンスターに立ち向かっていくためには必要だ。

 だが、勇気はそこまでで良い。

 実際の戦闘にあたっては、臆病なほど慎重に事を進めていく事が大事だと実感した。

 ある程度モンスターを倒したら一度退く事。

 やはりそれが最善の行動だったと思えた。

 生き残っていく為には戦わねばならないが、戦い方は慎重でなければならない。

 でなければ、先走った連中と同じ結果になる。

 それを他の者達と共有できたのが最大の収穫だった。



 この日ヒロノリは五人を失い、一団は二十人から十五人になった。

 しかし、それで大きな損失になる事はなかった。

 倒せるモンスターの数は確かに減るが、一人当たりの収益はそれほど落ちるわけではない。

 残酷だが、数字ですら死んでいった者の存在はそれほど大した物でないと示している。

 彼等がとった態度もあって、ヒロノリは完全に彼等の存在を切り捨てた。

 また、他の者達も死んでいった者達にそれほどこだわったりはしなかった。

 付き合いが短いので思い入れや思い出が無いのと、最後に見せた態度がひんしゅくを買ったらしい。

「言いたい事があるのはいいけどなあ」

「もうちょっと言い方や態度をどうにかすればねえ」

 そういった声が大半だった。

 また、冒険者である事も大きい。

 モンスターを相手にしてるのだから、いずれ死ぬ事になるだろうと誰もが考えている。

 それがたまたま今だったというだけと思われていた。

 そういった要因も含めて、ヒロノリ達は今回倒れた者達を程なく忘れていった。

 思い出す事もないままに。

 この世界ではさして珍しくもない事ではある。

 ちょっとした油断と注意の欠如などが最悪の結果になる。

 慎重になってなりすぎる事は無い。

 無茶しなければならない時もあるだろうけど、そんな無茶をしないで済ませていきたいもの。



 22:00に本日最後を公開予定。

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