転職156日目 決算報告1
最終的にヒロノリが現役だった頃の一団は、順調に拡大を続けていった。
なり手は減ったとはいえ、まだまだ冒険者くらいしかやる事が無い者達は多い。
そういった者達を受け入れ、一団の規模は更に拡大していった。
国にある拠点の方もそれにあわせて活動範囲と拠点をひろげていった。
かつては最前線にひとしかった鉱山も、次第にその範囲の中におさまるほどに。
その分安全圏も拡がり、国境地帯は大分モンスター側に前進する事となった。
それに合わせて、安全地帯となった地域に人が移り住むようになる。
領主や貴族らが行ったそれらの入植について、一団は冷ややかに見つつも特に妨害などもせずにいた。
殊更協力する事もなかったが。
仕事として発注されれば受注するかもしれない、くらいの関係が続いている。
わざわざ仕事の提案もしなかったので、基本受け身というか消極的ではある。
その分、一団以外の冒険者に仕事が回るので、それはそれで冒険者業界としては問題がない。
ただ、一団の勢力範囲で活動するので、直接間接問わずに一団と関わりは出来る。
宿にしろ物資の調達にしろ、道具の手入れや必要な道具の発注にしろ、何かと一団と関わらねばならなくなる。
それが金として入ってくるので困る事もない。
自前の冒険者を用いる事無く金が入ってくるので、あるいはこの方が都合が良いという意見もある。
そんなこんなで、国のほうの拠点もそれなりに発展はしていった。
そのおかげで色々な工作がしやすくもある。
何せ勢力範囲が広いので色々と隠れてやりたい事を実施しやすい。
統治者達の目も手も、モンスターとの接触地帯である場所までは届かない。
大がかりな事をやれば気づかれるだろうが、こそこそやってる分には誰にも分からない。
気づかないし、気づいても何かをするには遠すぎる。
そんな所まで赴く余裕などあるはずもなく、差し迫った脅威にならないなら放置というのが基本である。
ありがたい話であった。
そんな拠点を経由して流れて来る物資に頼りながらも、開拓地の発展も続いていく。
鉱物が採取出来るようになったとはいえ、やはり全てを賄えるわけではない。
金属にも様々な種類があり、用途も違う。
それらを賄おうと思ったら、やはり輸入に頼るしかない。
他にも海産物や塩などはどうしても輸入せねばならない。
このあたりは内陸部なので海はない。
川や湖はあっても塩はとれない。
岩塩がどこかにあればよいのだが、今のところそれらを手に入れられる場所はない。
あっても遙かに遠い。
更に北へと向かい、かつての人類の版図を取り戻せばそれらも見つかるかもしれないが。
今はその余裕もない。
それこそ何百年という未来の話になるだろう。
輸入せねばならない物資は少しずつ少なくなっていってるが、完全な自給自足は難しい。
これは無理からぬ事である。
そもそもそんな事を達成してる国などほとんどない。
文明が高度化し、必要になる物資や技術・知識が多岐にわたればわたるほど、様々な地域で採取される物資や発見される知識が必要になる。
一国でそれらを賄おうなど不可能というものだ。
それこそ大陸一つ…………複数の国家を治めるほどの版図を持ってるなら別であろうが。
現状でそんな国家が存在しない以上、何らかの形で互いに輸出入する事が必要だった。
文明を維持するためにはやむをえない。
国にも満たないいくつかの集落の集まりでしかないヒロノリの開拓地が自給自足など夢物語だった。
海産物に限らず、何らかの形で外部からの調達に頼る事はまだまだある。
それでも、外部からの影響を極力減らせるよう自給体制を追求していっている。
輸入する品目が少しずつ減ってるのがそのあらわれであろう。
物資だけではなく、知識や経験の積み重ねにも気を配っていく。
小さな学校から始まった教育もその一環になっている。
まだそんな所にまで手はのばせないが、いずれは独自の研究機関も欲しいところである。
物理や化学だけでなく、法律や制度などの文系学問もおしすすめていきたい。
この世界ならではの魔術も。
そういった研究が進む事で生活の水準もあがっていく。
研究結果が現実の生活に用いられるようになるまでは時間がかかるが、新たな法則や知識が発見されなければそれすらも成り立たない。
便利な魔法道具の開発などにも、職人技だけではなくこういった知識が必要になる。
現在は小学校程度であるが、ゆくゆくは高等学校、そして大学といった水準まで学問を推し進めていきたい。
その為にも開拓地が発展しなくてはならない。
学問も結局は余裕がなければ発展しない。
労働などのように直接何かを得られるわけではないだけに、誰かが援助をしなければ研究開発など進められない。
研究に専念出来る者達を養っていけるほど開拓地が、一団が、社会が豊かにならなければならない。
そこまで開拓地を持ち上げていきたかった。
これまた果てしなく遠い目標になるであろうが。
問題も残っている。
北からやってくるモンスターは後を絶たず、その撃退に日夜追われている。
当然ながら核を手に入れる事を考えればありがたいのだが、防衛を考えると面倒である。
その中でも小鬼は変わる事のない脅威であった。
開拓地の発展と、拠点の拡大、それによって得られた活動範囲の拡大。
変わる事無く続いていたこれらが北方への調査を更に加速・発展させ、より多くの情報がもたらされた。
好ましいものだけであれば良いのだが、そんなわけもない。
見つかったのは北にひろがる広大なモンスター生息地域と、その中でも特に勢力を発展させてる鬼の集団だった。
人間型のモンスターである鬼は、小鬼より大型で強力な種族を中心とした集団を形成していた。
それこそ国家と呼んでも良いほどである。
小鬼の集団はその中の一部であり、本体はより大きなものだった。
既にこれはモンスター退治という生やさしいものではない。
国家を相手にした戦争という形になってきていた。
今の開拓地の勢力では抵抗するのも難しいが、これを乗り切っていかねばならない。
敗北が即座に滅亡に通じるような状態だ。
何がなんでも勝たねばならない。
それも勝てばいいだけではない。
勝ち続けなければならない。
損害は小さく、出来れば皆無に。
打撃は大きく、可能ならば敵を殲滅する勢いで。
それくらいでないと話にならない。
ヒロノリ達がまともな国家くらいの、そこまでいかなくても一地方(都道府県を幾つか抱えるくらいの大きさ)ほどの勢力であったならばもう少し余裕もあるのだろうが。
現時点ではそうはいかない。
可能な限り防御陣地を構築し、高レベル冒険者を育成し、戦争における戦略を練っておかねばならない。
相手が小鬼だけならともかく、人間を超える体格と力を誇るものや、高レベルの魔術を操るものもいるだけに油断は出来ない。
どれだけ備えをしていても決して気を抜けない情勢になってきている。
小競り合いは既に何度も始まっており、大きな衝突もそのうちやってくるだろう。
これをいったいどうするべきかというのが現在の悩みであった。
発展にともなう問題も大きい。
小さなところでは、町における土地問題が顕在化してきていた。
今や町と言ってよい規模になってるヒロノリ達の拠点は、住居すら事欠いていた。
何せ人が多い。
狭い場所に多くの者達がひしめき合っている状態である。
拡大していこうにも、外はすぐに田畑である。
簡単に住居を造れるわけがない。
その為、離れたところに新たな集落を作ろうという話にはなっている。
なっているのだが、ではどこに作るのか、という事で話が二転三転している。
安全性を考えれば出来るだけ南側に作るべきだが、土地の余裕が無い。
空き地はあるのだが、南に近づけば他国と接する可能性が出て来る。
ちょっとした集落を建造する程度で国境を接するほど近づく事は無いが、念には念をである。
それに、開拓地の中心となってる場所から遠く離れる事は不便である。
ある程度はやむをえないにしても、出来れば開拓地中枢の近くで、というのが大半の希望である。
となると町の近くとなると北しか残ってない。
東西は、他に国に接する可能性が出てくるので没となる。
必然的にモンスターに近くなり、防衛上の問題が出てくる。
ただ、無視出来ない利点として鉱山に近くなり、鉱物をより早く入手出来るようになる。
それだけしかないとも言える。
だが、進出するための拠点として始めていくならこれも選択肢の一つではある。
いずれは城塞都市にまで発展させれば防衛上の問題も小さくはなる……かもしれない。
そこまで発展させるためにどれだけの資本投下が必要になるか、考えるだけでもおそろしい。
立地条件や必要な面積を考えると北しかないので、最終的にはそうなるだろうと言われてはいるが。
とりあえずは、拠点の一つを中心にして発展させようという意見に落ち着いていく。
いつも通り宿舎などを造り、生活するための設備をそろえ、それが一段落したら拡張していく。
いずれは町と言える規模にまで発展させるつもりでやっていく。
今のところ最前線になりうるだけに、時間をかけるわけにもいかないという事情もあった。
他を捨ててというわけにはいかないが、様々な事業の中でも優先度を高めていく。
それだけ土地問題と住居については早期の解決が求められてもいた。
冒険者達の活動拠点としての役目も期待されている。
ヒロノリが一団の運営から一歩引いた頃、とりまく状況はそんな風になっていた。
新しい話を始めました。
「捨て石同然で異世界に放り込まれたので生き残るために戦わざるえなくなった」
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