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転職154日目 次世代育成計画23

「で、父ちゃんは俺を冒険者にしたいと」

 息子からの言葉に、ヒロノリは「いやいや」と首を振る。

「子供の一人がそうなってくれた方がいいとは思ってるよ。

 でも、全員にそうなれとは思わないな」

 モンスター退治は開拓地にいる以上必要不可欠である。

 何らかの形でそれに従事する者はいてもらいたいと思う。

 だが、全員がそれをやるのもおかしな事である。

 家族経営・ファミリービジネスにしても、それでは幅がなさすぎる。

「なりたいなら、なれるならやりたい事をやるべきだと思うよ。

 それが一番長続きする」

 生活にせまられてやむなく、というのもあるが、なんだかんだで一番好きな事をやるべきである。

 それがヒロノリの持論だった。

 冒険者が嫌だと思った事は無いが、それが性に合っていたとも思えないだけに。

 決して嫌いな方ではなかったが、一番楽しかったのはそれではない。

 仕事をしなければ生きてはいけないが、やりたい事でがんばっていくのが最善である。

「お前がモンスター退治や冒険者が好きだってんなら止めないよ。

 でも、他にやりたい事があるなら、それをやってもらいたいとは思う」



 引っ越しにあたり、子供の意見も聞いてこいというお達しが出た。

 ごもっともな話なので、機会を見て子供と話しをしていく。

 これから先の事もあるし、どのみち話を聞いておく必要はあった。

 とはいえ、将来などについて現実味をおびた話が出来るのは限られる。

 一番上を含めて二人か三人くらいなのが現状だ。

 その他は、将来の話と夢や理想と希望を一緒にしてる年齢がほとんどである。

 それはそれで聞いておきたい事ではあるが、もう少し大人の会話が出来ないといけない。

 そうなるとどうしても上の子供から話をしていく事になる。

 学校に通わせてる事もあってか、上の子供の話は割と具体的というか、将来を考えたものとなっている。

 同年代の他の子供と比べてどうなのかは分からないが、同じ年頃くらいのかつての自分と比べても言ってる事が大人びている。

 これが教育の成果なのか、持って生まれた息子の素質故なのかは分からない。

 ただ、どちらにしてもヒロノリの影響はさして大きくは無いような気がした。

 教育の成果ならば、それは学校と教えてる教師陣などのおかげであろう。

 持って生まれた素質であっても、どちらかと言えば母親の影響が強いような気がする。

 出来れば父親である自分の持ってる性質なども受け継いでいてもらいたいとは思うが、基本性能の違いを感じるとそうはとても思えなかった。

 卑屈すぎる考えかもしれないが、だからといって自分の因子がそこまで優秀で有能だと自惚れる事も出来ない。

 何にしても半分は自分をもとに出来上がってるという事に満足をおぼえることにする。



 実際、こういう話が出来るくらいに成長し、こういう話が出来るくらいの能力を備えてる。

 それだけでもありがたいものだった。

 乳幼児の死亡率が高い世界だけに、そこを超える事が出来ただけでもありがたい。

 事前に公衆衛生についてある程度徹底したおかげであろう。

 モンスターによる負傷治癒からはじまった治療院などの存在も大きい。

 無料で診療するわけではないが、それなりに廉価で医者の診断をあおぐ事が出来るというのは結構な利点だった。

 冒険者による治療魔術の存在も大きい。

 ある程度レベルがあがった治療魔術師が、そのまま治療院などに所属する事もあるので、世間一般の平均より病気や怪我の死傷率は下がっている。

 その為、生まれた子供が結構まともに成長してきている。

 この世界の他の地域(少なくともヒロノリの知る範囲)に比べれば大変に恵まれている。

 そのせいというわけではないが、子だくさんの貧乏という割と笑えない事態も発生していた。

 生まれた子供がちゃんと成長出来るかも分からないだけに、子供をたくさん作っておけ、という風潮が根強い。

 開拓地でも確実に治療を受けられる保障はないだけに、それもやむをえないものがあった。

 だから、結婚して(あるいは結婚してなくても)子供が立て続けに生まれて、それらが経済的な負担になってしまってる面がある。

 生まれた子供が半分は死んでしまう今までを基準に考えてしまう事による悲劇であろう。

 それらが家計を圧迫して破産、という事態になりかねない事もある。

 そういった者達は、やむなく冒険者になって家計を支えるという事もある。

 元冒険者だった者達は割とこの道を選ぶ事が多い。

 ヒロノリはそういった世の習いとは無縁なだけに、それなりに先を考えてはいた。

 実際にそれなりに稼いでる事による余裕もあって、子供達の育成による経済負担はそれ程でも無い。

 上の子供が学校卒業あたりで仕事に出られるよう考えて子作りに励んでるのもある。

 その為、女房二人の出産ペースは、他の家庭に比べて間があいている。

 授かり物なので完全な制御など出来ようもないが、それでも負担が大きくならないようにはしている。

 家計だけの話ではない。

 子育ての負担もそれほど大きくならないようにとも考えている。

 やはり乳飲み子を連続して何人も、となると大変な手間がかかってしまう。

 せめてそうならないように、気を遣ってはいた。

 やる事をやりながらも。



 そして長男が働きに出る時にどうするかを考える時期にまでやってきている。

 学校卒業までまだ二年ほどあるが、それからどうするかを考え始めるには丁度よかったかもしれない。

 息子の考えも知っておきたかったのもある。

「冒険者でもかまわないけど」

「けど?」

「一団を率いるかどうかは分からないよ。

 そんな才能があるとも思えないし」

 思った以上に謙虚な事を言ってきてびっくりする。

 冒険者になるかどうかだけではなく、そんな事まで考えていたとは思わなかった。

「まあ、いきなりだったら無理だろうな」

 ヒロノリもそこは分かっている。

 いきなり巨大な一団の指揮を執れといっても無理であろう。

「だから時間をかけて必要な能力を高めていけばいい。

 団長になるならだけど」

「ならなかったら?」

「やりたい事の為に必要な努力をしていく事になるな。

 なるのが団長なのか、他の仕事なのかで違うだけだ」

「努力しなくちゃならないと」

「もちろんだ」

 力強くヒロノリは頷く。

「どんな事であっても、経験を積んで技術を高めていかなくちゃならん。

 それを怠ったら、何も出来ないで時間だけを浪費する事になる」

「うん」

「まずは自分が何をやりたいのかをはっきり見定めた方がいいだろうな。

 それが分かれば、そこに向かってまっすぐ進めばいい」

「それが見つからなかったら?」

「当面の生活のために働いていけばいい。

 食ってく為には働かないといけないし。

 そうしてるうちに、やりたい事が見つかるならそれでいい」

「見つからなかったら?」

「だったら、今やってる仕事を大事にする事だ。

 何にしても食ってかなくちゃならねえ。

 生活の糧を手に入れる仕事は真面目にやる。

 それだけはしなくちゃならん」

 そこはヒロノリの仕事に対する姿勢として決して変えない部分だった。

 何にしても生きていかねばならないなら、その手段である仕事は大事にしなくてはならない。

 それが自分がやりたい事や理想のためだったらこんな良い事は無いだろう。

 だが、そうでない事の方が普通である。

 自分のやりたい事で食っていけるなんてのは難しい。

 職業選択の自由がほとんどないこの世界では特に。

 基本、世襲で仕事を継いでいく事がほとんどなので、一旗揚げるなんて事は夢のまた夢だ。

 だが、よほどやりたくない事でもないなら、今やってる仕事でがんばるべきである。

 やりたい事が特にないなら、今やってる事をやれば良いのだから。



「冒険者になれとも一団に入れとも言わないけど、それだけはちゃんとしてくれればいいよ。

 冒険者になって一団に入ってくれれば嬉しいけど」

 その事に息子がどう思うかは分からない。

 あとは本人が考えて決断をだすのを待つだけになる。

「でも、モンスター退治で経験値を稼いでレベルアップってのも方法の一つだ。

 自分を底上げしたいなら、いつでも協力するからな」

「考えておくよ」

 そう言って息子は肩をすくめた。

「そういう風に言われたって母さんにも伝えておくから」

「いや、それは待ってくれ」

 あわてて息子を止める。

 それが知れたらとんでもない事になるのは目に見えている。

「それだけはいかん、駄目だ」

 父は息子の口止めに全力を注いでいった。



 努力の甲斐無く、ヒロノリはその日、女房二人からの追求と糾弾を受ける事になった。

新しい話を8月16日19;00より開始(予定)

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