転職15日目 会社説明会ってそんなに珍しいですかね
(とにかくやるしかないか)
色々と迷いや不安はあるがやっていくしかない。
というか、もう踏み出している。
ここで「やっぱり辞めた」と言っても後戻り出来るものでもない。
少なくとも、募集をかけた以上は、やってきた者達への対応はしなくてはならない。
でなければ何の為に募集をかけたのかという話になる。
ヒロノリだけが始めたのであればそれでも良いのだろうが、周旋屋を経由しているのだから途中放棄はゆるされない。
出来ないわけではないが、やれば今後の信用に関わる。
(裏切ってはいけない。
約束は守らないといけない)
取引や契約の基本である。
守れない条件を求められたらともかく、出来る範囲で取り決めた事を反故にしたら次はない。
守るべき事を守る事で信用が生まれる。
信用するから相手も付き合ってくれる。
嘘や裏切りをした者に手間をかけて付き合ってくれる者はいない。
(出来ないなら約束しちゃいけない)
そうも自分に言い聞かせて事を進めていく。
とにかく人を集める。
集めてモンスター退治を更に拡大する。
それによって安定した組織を作っていく。
その為の第一歩だ。
何もしないうちから放り出すわけにはいかない。
そんな事、以前の世界で嫌と言う程巻き込まれた。
主に上司や同僚や別部署や後輩のしくじりによって。
繰り返すが、上司や同僚や別部署や後輩のしくじりによってである。
ヒロノリは全く関与してない所で事が始まったり、ヒロノリの知らない所で問題が発生したりしていた。
責任は全くないにも関わらず、なぜか後始末に狩り出される事となったのは一度や二度ではない。
そんな事はもう御免である。
(今度は、これからは俺が全部仕切る!)
久方ぶりに熱意とやる気がわいてきていた。
邪魔者がいないというのはとてもすばらしい。
その為の第一歩として孤児達に話をもっていった。
人手を増やすという事を伝えに。
彼等は特にそれに反対もしなかった。
かといって賛同していたのかというとそうでもない。
『別に構わないけど、わざわざ増やす必要あるの?』
彼等の口にした言葉をまとめると、おおよそこんな意味になる。
今の状態でとりあえず稼ぎは増えたし、わざわざ人を増やす必要があるとは思えなかったようだ。
確かにその通りである。
無理して増やす必要などない。
彼等の利点は少ないだろう、全く無いとも言えないだろうが。
ヒロノリもそれは同感である。
しかし、人数が増えた事による利点については実感している。
孤児を連れていってる事でそれは確定した。
これ以上に増やしたらどうなるか、というのも確かめてみたいというのもある。
やってみなければ分からない、というのも動機の一つだ。
「まあ、そういうつもりだから」
そう言って孤児の方は説得した。
上手く理解してもらえたかは分からなかったが。
その一方で集まった者達への説明をしていくための方法を考える。
このあたりは前の会社…………ブラック企業で何度もやってきた事なのであまり悩む事もない。
どういうわけかヒロノリは営業だけでなく面接などにも引っ張り回されていた。
そういう事は人事部の仕事だと思うのだが、全く考慮されなかった。
そもそも明確な人事部は存在せず、総務や庶務といった社内事務関連の部署の中での業務だった。
零細・中小ではないがそこまで大きな会社ではないので、社員の情報を扱う人事部が必要無かったからだ。
また、社内の部署間の仕切りも緩かった。
部署による仕事の違いはあるはずなのだが、そこが乱雑だった。
他部署から人を引っ張ってきて手伝わせるなんて当たり前に行われている。
縦割り行政というような部署間の連携が全く取れてないのも問題だろうが、仕切りがそもそも無いような状態も困りものだった。
おかげでヒロノリはあちこちから呼び出されていた。
ただ、面接については実際に現場で仕事をする者の意見を反映するという理由はあった。
確かに人事(というか事務担当部署)だけで決めて、実際には全くお門違いの能力を持った者を配属する、という事は避けたい。
名目だけ見ると、確かにその通りなのでヒロノリも文句はない。
しかし、事前に送られてきた応募書類や各人材派遣会社、公的就労斡旋機関などとのやりとりまでやらされた。
実際の面接でも、主に面接を担当したのはヒロノリだったし、その後の採用検討会議などでもヒロノリがほとんど処理をしていた。
本来の人事担当者の仕事は、そんなヒロノリに難癖を付けて文句を言い、最終的に決定した採用への承認印を押すだけだった。
最後の一つ以外は邪魔でしかなかった。
本来、営業で入ったヒロノリが立ち入るべきでない所までやらせていたのだからどうかしている。
しかし、そんな会社の杜撰というかいい加減な運営のおかげである程度の知識や経験は得る事が出来た。
その時の経験が今この異世界で役立とうとしている。
(それもどうなんだよ……)
納得しかねるものがあった。
そんなこんなで作業内容説明と求める業務態度を伝える説明会の準備を進めていった。
まず、自分達が何をするのかを、何をして欲しいのかを伝えねばならない。
入ってきてから「こんなはずじゃなかった」と言われても困る。
また、意識を集中させてもらいたかった。
これからやるべき事に。
それを把握しているのといないのとでは仕事に差が出て来る。
これは新人を育成する時に気づいた事だった。
幾らか例外はいるが、やるべき事をまずは説明しないと人は動かない。
当たり前だ、やるべき事が分かってなければ動きようがない。
だから、まずは仕事としてやるべき事を説明しなければならない。
大雑把な方針でも良い。
『客先に行って、仕事があるかどうかを聞いていくる』
『仕事を提示されたら、概要を聞き出し、それをまとめて一度会社に持って帰る』
『相手が資料としてまとめてくれてるものがあれば、それをいただいてくる』
概ねこんな程度であるのだが、この程度の事が分かってない者も多い。
その為、最初は基本的な動作を全員におぼえてもらう事になる。
型どおり、ワンパターンな行動を取る人間を量産する事にもなるし、臨機応変な対応まではこれでは伝えられない。
しかし、そんな事すら出来ない人間であるよりは、定型通りに行動出来る人間の方が役に立つ。
まずはそれを繰り返してやり方をおぼえねば話にならない。
自分なりのやり方などはそれから模索してもらえば良い。
その最初の第一弾として説明会である。
入ってから「何すればいいんですか?」とならない為にも、入る前にある程度は理解していてもらわねばならない。
もちろんやる事はモンスター退治だ。
しかしそれだけで終わるわけにはいかない。
(とりあえず、外に連れ出すまでのおおまかな流れ……と)
伝えねばならない事を列挙していく。
モンスター退治は外せないが、いきなり外につれていくつもりもない。
身につけてる技術とレベルにもよるが、まずは町の外周にある堀を巡り、小型モンスターを倒していく事から始める。
基本的には初心者にやり方を教える、モンスターという存在に馴染んでもらうのが主目的だ。
しかし、それだけが理由ではない。
(ネズミ退治である程度癖を掴んでおきたいし……)
無くて七癖というように、人間には自覚してなかったりそれと気づかない癖がある。
体の動きというだけでなく、気持ちの持ちようや考え方なども含んだものだ。
それを最初の段階で見抜く為にも、まずは簡単に出来る事からやらせてみようと思っていた。
そうした中で自然とその人の持つ癖が出てくる。
(出来るだけマトモな奴をとりたいしなあ)
その段階である程度見抜いたおきたかった。
どれだけ出来る人間なのか、どれだけ駄目な人間なのかを。
すぐに分かるようなものではない…………というものでもあるが、意外と簡単に馬脚をあらわすこともある。
そんな奴は可能な限り早く取り除き、使える奴だけを採用していきたかった。
割とギリギリの調子で続きを書いている。
明日もちゃんと投稿出来るか少し不安。
でも、がんばる。
てなわけで、上手くいったら明日の12:00にも続きが出せるはず。
出せたらいいなあ。




