転職144日目 次世代育成計画13
引っ越しに伴う問題を交えて今後の事を話合ってもいく。
その中で、当然ながら考えの違いなども表面化していく。
家庭の事を考えて交代制を支持する者もいれば、負担が偏る事を理由に反対する者もいる。
意外なのは所帯持ちと独身者で分かれると思ったこの意見対立が、そうでもなかった事である。
独身者であっても家庭を持ってる者を慮る者もいれば、家族がいても全員の移住を支持する者もいる。
それぞれの考え方の違いなのだろう。
その中で幾分冷静なものは、「まだ先の事だし、とりあえず設備をそろえる方が先でしょう」などと言う。
その通りで、今すぐという事では無い。
当分は拠点と行ったり来たりで過ごす事になる。
だが、その先でどうするかについてはやはり真面目に考える必要もあった。
「だいたい、団長はどうするんですか?」
別の問題も指摘される。
「一団の運営もあるし、簡単に引っ越せないと思うんですが」
言われるまでもない事である。
これについては散々悩んでもいた。
今は一団の作業はほとんど運営部というか指導部というか、各部代表による会議で進んでいる。
新規でやる事もほとんどなく、今までの延長や改善でどうにかなるので、ヒロノリに意見を仰がなくてもよくなっている。
議案や決定事項などについては報告を受けてるが、基本的にそれらに目を通すだけで終わる。
それもモンスター退治から帰ってきてから目を通すだけで終わっていく。
ただ、今後活動拠点を移す事になるとそうも言ってられない。
たとえ形だけでも頂点に立ってるとなると、おいそれと引っ越す事も出来ない。
これを解決せねばどうにもならない。
「それについてはもう考えてるよ」
ヒロノリは心配する者達にあっさりと伝えた。
「一団の中心も拠点に移す」
誰もが目を丸くした。
確かにそれが出来れば問題は解決する。
一団の中心が名実共に移動する事になるなら、運営に支障はきたさない。
全くないとは言わないが、団長が運営から遠ざかってるよりは良い。
「でも、そんな事出来るんですか?」
現実的に加納かどうかは別である。
やりたくてもそう簡単にできる者ではないだろう。
何せ運営の中心もその拠点も設備も開拓地の方にあるのだから。
そこから拠点に移動させるなんて、無理や無茶が過ぎる。
「簡単にはいかないだろうな」
ヒロノリもあっさりと認めた。
だが、それでも諦めたわけではない。
「それなら時間と手間をかけて移動していくだけだよ」
「は?」
「一気にやったら問題が出るなら、時間をかけてやっていくさ」
繰り返し同じ内容を繰り返す。
詳しい説明はないが、それだけで他の者達は何となく言いたい事を理解した。
運営の中心を移動していく事。
それについては後日ヒロノリの口から当事者達にも伝えられていく。
驚きと反対の声があがるも、それらをヒロノリは一蹴した。
「いずれ開拓地の拡大が為されればこの辺りに留まってるわけにはいかなくなる」
言われてみればもっともである。
開拓地が今後拡大を続ければ、いつまでも初期の場所が中心でいられるわけもない。
北上を考えてるヒロノリの事、その中心地も北に移動していくのは当然の流れと言える。
「だったらそれを少しずつやっていく。
今だって、開拓地の中で末端との距離がそれなりにある。
いつまでもこのままってわけにはいかない。
ここが出発点なのは確かだけど、ここから指示を出し続けるってわけにもいかないからな」
「まあ、それはそうですが」
運営に携わってる幹部もそれは分かってる。
司令部の場所は可能な限り適切な場所にあるのが望ましい。
「今、俺達はまだここに留まってるけど、いつまでもここにいるわけじゃない。
これから北にどんどん進出する事になる。
今も拡大は続いてるんだし」
その通りだった。
今後も最初期の開拓地が中心地であり続けるなんて事は無い。
「まずは川沿いに北に向かう。
それは変わらない。
だったら、それを見越して行動していかないとな」
ヒロノリの言う通りである。
いずれやらねばならない事であり、それが早いか遅いかの違いでしかない。
そして、今後の展開を考えるなら、どこかに指揮所が必要になる。
出来るなら一団の上層部であり司令部もそこにあるのが望ましい。
そうでなくても、全権を託された代理機構が必要とはなるだろう。
何かしらの用意は絶対に必要だった。
「今すぐは無理でも、今からそれをやっていこうってだけだ」
時間がかかるし、やろうと思った瞬間に出来るものではない。
必要になったという時に何の準備も出来てなければ、様々な事が滞るだろう。
もちろん、事前の予定や想定が見当違いも良いところで、実際には思ったり考えたのと別の展開を見せる事もある。
だとしても、何もしないで済む訳がない。
準備があれば、想定外が起こった時にであっても、多少の手直しで対処出来るかもしれない。
「慌てる事はない。
一年か二年はかかる事になるだろうし、ゆっくり進めていこう」
そう言ってとりあえずこの場はしめた。
実際、拠点を作り上げるまでそれくらいはかかる。
人を集めるのも同様だ。
だから、それほど急ぐつもりはない。
もっとも、多少の猶予をつける理由は他にある。
(引っ越すのも手間だからなあ……)
二人の女房と、その間に生まれた子供達の事が一番の心配事であった。




