転職142日目 次世代育成計画11
「とにかく、場所を拡大すれば人を入れる事が出来る。
今より人を増やす事が出来れば、成果も上がる。
その為にも拠点を広げなくちゃならない」
中身は後から追加出来る。
だが、まずは外枠を作らない事にはどうしようもない。
それを作ってから本格的に人を集める。
「その頃までには、新入りもレベルが上がってるだろうしな」
言われた新人達はそれぞれ違った反応を示していく。
驚くのは誰もが同じだが、自身たっぷりに応じる者、照れてる者、あわてて首を振る者。
そんな彼等もレベルを着実にあげていっている。
いずれは高レベルの冒険者になるだろう。
かなり無理をしてついてきてるだけに、その日もそう遠くはないはずである。
新人教育が終わってすぐの者も、それすらもせずにいきなりここに来た者達も、ひたすら毎日を必死に過ごしている。
無事に生き延びる事が出来れば、やがては彼等もモンスターを倒していく事になる。
生き延びる事が出来ればであるが。
そんな彼等の居場所を確保するためにも、場所をどうしても作らねばならなかった。
「作るにしても二ヶ月か三ヶ月先になるだろうけどな」
冷静にそんな事をいう者もいる。
もちろんそれは誰もが理解していた。
今のペースで頑張っても、どうしたって限界はある。
稼ぎを増やすには稼げる人間を増やすしかない。
今現在の状態ではそれは不可能である。
「あっちとどっちが先になるかな」
「水路か?」
「ああ。
ようやく建設が始まったっていうし。
出来上がるまでにこっちも片付けておきたいもんだよ」
開拓地でもようやくそこまで着手する事が出来るようになっていた。
競争するつもりではないが、作業進捗をはかる目安にはなるかもしれなかった。
とりあえず、ヒロノリの仲間達に対抗心を生み出す働きはしている。
競争する意味があるのかどうかはともかく、相手がいる事でやる気を出す者がいるのは事実である。
そういった気質を持ち合わせた者は、威勢を上げて仕事にとりかかっていく。
そうでない者は、周囲をよそに自分に出来る範囲で物事を淡々と進めていく。
どちらが良いという事は無く、どちらもそれぞれの性質にあったやり方をしてるというだけだ。
そんなわけでヒロノリ達はそういった気質によって新たに二手に分かれる事にした。
やる気を出してる者達はそんな人間で集まり、そうでない者達も似たような者達と共に行動していく。
綺麗に半々に分かれるわけではないので人数に偏りが出来たが、戦力を損なう程では無い。
それぞれがそれぞれのペースで活動出来るようにするための割り振りである。
成果に偏りは出来るが、それでも核の回収ペースが全体で落ちる事は無い。
もちろんやる気を出してる連中の方が結果は出している。
だが、それがいつまでも続くわけもない。
張り切るのは悪い事ではないが、あくまで一時的なものでしかない。
いずれは体力や気力の限界を迎えて落ち込む。
そんな事にあわせて皆のペースを上げる必要はない。
一時的な成果はともかく、長期的な経過を見ればペースを一定で保ってる方が累積の成果はさして変わらない。
稼ぎ時というのは確かにあるが、そうでもない時にまで励む必要は無い。
今がそうだとは誰も分からない事なのだから。
これからも長く続く活動である。
自分達の拠点建設に絞ってみても時間がかかる事である。
無理せずに確実な成果をあげていってくれればそれでよい。
なお、怠けるのと手抜きとは根本的に違う。
無理をする事を努力というのとも違う。
ここを理解出来ないと様々な問題を引き起こす。
ヒロノリとしては、そういったブラック的な部分はどうにか消し去りたいと考えていた。
なかなか難しいが。
長丁場という程では無いかもしれないが、外側の堀や柵だけを作るにしても数ヶ月はかかる。
そこから内装にあたる宿舎などの設備を揃えるとなるともっとかかる。
独立自立した活動拠点として機能するまでに一年はかかるだろう。
それだけの時間をかけねばならないのだから、一時的にペースをあげてるだけでは意味が無い。
継続的に、途切れる事のない成果が求められる。
そんな中で一時的な無理無茶など意味がない。
後々に悪影響を及ぼす最悪の所行とすら言える。
そんなものを認めるつもりは毛頭なかった。
かと言ってやる気を出してる連中を諫めるのも難しい。
言う事を聞くわけもないし、無理に止めたらそれはそれで遺恨が残る。
逆恨みとしか思えないが、人間とはそんなものである。
良いとか悪いではなく、自分の思った事ややりたい事を否定されれば頭にくるものだ。
そこに道理の有無は関係がない。
なので、やりたい奴にはやらせるしかない。
結果の責任は全部とらせる事にして。
そして、それを他に及ぼさない範囲で、やりたい連中だけで自己完結させてもらう。
他に方法はない。
そうやって適当にさばきながら仕事を回していくしかなかった。




