転職14日目 求人倍率がどれくらいになるか予想が出来ない
(でも、どうやって人を集めたもんだか。
集めても引き留めておくのにどうすりゃいいんだか)
人を集める悩みはそこにもある。
たとえ集めたとしても引きつけておくための何かがなければどうしようもない。
集団としてやっていく利点がなければ人をまとめておく事は出来ない。
それだけの利点や拘束しておくための手段を考えねばならない。
ここでふと考えてしまう。
「……なんか意味あんのか、会社って」
ぽろりと『会社』という単語が出てきた。
長年使っていた言葉だけに自然にそれが思いついたのだろう。
だが、口にしてしまったせいかやたらと意識してしまう。
組織、集団、一党。
人が集まって作るそれらにどんな意味があるのか。
どうして集まってくるのか。
なんでまとまっていられるのか。
ヒロノリも悲惨だと分かっていっつつもブラック企業を辞めなかった。
辞めてその先が無かったからと言えるが、だとしてもしがみついていた理由が今一つ分からない。
すぐに次が見つかるか分からないから、というのがもっともな理由だがそれだけだったのだろうかと思ってしまう。
実際それだけしか思いつかないのだけど。
(けどなあ……)
だとしても、なんでそこまでしてしがみついていたのかと考えてしまう。
そこまで魅力があったわけでもない。
むしろ辞める理由の方が色々浮かんでくる。
それでも会社を辞めずにいたのはどうしてなのか。
あらためてその事が頭に浮かんできた。
そこに何かヒントがあるかもしれないと思って。
考えてる時間は無いのだが。
(いったい、なんなんだろうな)
そこが分かれば勧誘もしやすくなるかもしれない。
(でも、冒険者やろうって奴なら引き込みやすいのかもなあ)
居着いてくれるか、真面目に仕事をしてくれるかは分からない。
しかし、どこかに入る事が出来ればと思っている者はいるはずだった。
ヒロノリだって、冒険者の一団に入ることが出来たらと思っていたのだ。
それが出来なかったから孤児達を集めて活動している。
結果としてそれは成功したが、もともと狙っていた事ではない。
もし先に他の冒険者達と行動していたら、孤児を引き連れていくなんて事はなかっただろう。
それだけ人手を必要としていた。
危険なモンスターを相手に生還率を上げるために、どうしても仲間が欲しかった。
それが得られなかったからこうなってるだけである。
しかもなし崩し的にそうなっただけでもある。
孤児院に出向いた元々の理由は、あくまで将来性のある女の子を手に入れて育てる事だったのだから。
色欲が動機なのは今更言うまでもない事である。
モンスター退治はそこから派生したものにすぎない。
それらを考えると、受け入れる場所があるかどうかが結構大きいとも思える。
もしヒロノリが大々的に募集をかければ、受け入れるつもりでいけばそれなりに人は集まる可能性はあった。
箸にも棒にも引っかからないような者ばかりかもしれないが。
だが、真面目に仕事をしてくれるならそれで十分である。
能力はあとからついてくるのはレベルアップが証明してくれている。
そこまでやり続けるかどうか、生き残り続けられるかが問題になる。
(受け入れか)
そんな場所を用意出来るかどうか。
提示するべき最大の旨みがあるかどうか。
考えるまでもない。
今のヒロノリにそんなものはない。
しかし、無ければ人を集める事は出来ないだろう。
売り文句というは結構重要な要素である。
誇大広告ではなく、しっかりとした実態があれば特に。
だからこそ、呈示出来る売れる要素を作りたかった。
(けど、今の状態じゃなあ……)
せいぜい十二歳や十三歳程度の少年達が四人。
それだけの集団では売りにはならないだろう。
もっとレベルが高く、たいていのモンスターなら問題なく倒せるような実態が欲しかった。
あと二年三年もすれば今の孤児達はそうなるだろうが、それまで待つのも大変だ。
出来れば今すぐにでも人手を集めて組織化していきたい。
(無理しても空中分解するけど。
どうにかならないもんかな)
無茶苦茶な計画と進行で破綻した仕事を幾つも見てきた。
そんな風にはしたくない。
だから無茶は出来ないのだが、無理を通して何とかしたくなる。
どうにかならないか、どうにか出来ないかと考えていく。
ありがたいのは知識や経験である。
何をすれば良いのかの答えは無くても、それに近いヒントがある。
かつての経験の中から似たような状況を思い出し、その時どうしていたかを考える。
(聞いてみるか)
情報収集。
とにかく何でも聞いて、調べる事。
それが解決に続く道を示してくれる事がある。
一人で悩んでるよりよっぽど建設的でもあった。
「──てわけなんだけど」
「ほーん、なるほどねえ」
呆れたような声があがった。
仕事を終えて帰ってきた周旋屋で、相談を持ちかけたヒロノリの受けた言葉である。
話しかけられた職員の方は、そんな態度をとりつつも質問に答えていく。
「まあ、なり手はいくらでもいるわな」
冒険者に、正確には周旋屋の作業員にだ。
食い扶持にありつけないような人間は割と多い。
そうでなくても冷や飯食いの立場にいる者も多い。
どの身分でも次男三男といった者達は家を継ぐ事がないので立場が弱い。
なので、機会があるなら独立したいと思っているものだ。
その為の手っ取り早い手段が冒険者である。
だが、命がけの仕事に出る者は少ない。
大半が低賃金の作業員に甘んじる事になる。
その大半が、入れる一団が無かったから、というのが理由である。
誰だって実績のある所に入って様々なやり方を吸収したいと思ってる。
だからこそ、何の実績もない所は敬遠する。
新人同士で結束して、なんて事もほとんどない。
そんな中で例外的な少数が、外周部の堀にはまる小型モンスターをコツコツと倒しレベルアップを目指す。
そしてレベルを上げてからモンスター退治に出向いていくのだ。
もちろんその時はどこかしらの一団に入っている事になる。
「一団の方だって能力の無い奴なんていらないからな。
けど、レベルが上がれば話は別だ。
刀剣でも槍でも弓でも良いが、レベル3にもなってれば受け入れようって所は幾らでもあるわな」
それだけの技量があれば、一団の方から声がかかるようになる。
一団の方からすればそういう人材が欲しいのだ。
即戦力となる人材が。
素人なんて迎え入れる余裕を持ってる所などほとんど無いのだ。
使えない人間を使えるようになるまで育てるなんて悠長な事が出来る者達は滅多にいない。
逆に言えば、それが理由で弾かれてる者は多いと考えられる。
受け入れ先がないだけで。
「なるほどね」
それを聞いて少しばかり勝機を見いだした。
潜在的な需要はありそうだった。
だったら声をかければやってきそうな連中もいるだろう。
まとまった人数であるならば戦力に出来る。
「そういう連中を集める事って出来る?
もしよければこっちで引き受けるけど」
「そりゃあ、何人かはいるかもしれんが。
けど、いいのか?」
「なにが?」
「戦闘技術を持ってるような奴はほとんどいない。
お前さんはモンスター退治に出向くんだろ?
それなのにそういう連中でいいのか?」
「構わないよ」
ヒロノリは言い切った。
「まとまって行動すればどうにかなる。
やり方は教えるから、死ぬ覚悟があるならそれでいい」
物騒な言葉だが実際それは必要になる。
技術や知識があっても、それを用いる気がなければ無用の長物になる。
ましてモンスターと渡りあうのだ。
相対しても決して怯まない心が無ければどうしようもない。
もし体がすくんで動かなくなってしまったら、モンスターの餌食になるだけだ。
だからこそ度胸だけは持ってきてもらわねばならなかった。
「あと、一人二人じゃどうしようもない。
最低でも五人。
これだけは欲しい。
多いならそれに越したこともない。
とにかく人数を揃えて欲しい。
それだけいればだけど」
「さすがにどうかな。
聞いてみないと分からんし」
そこは職員も断言できなかった。
誰がどれだけやる気なのかは全く分からない。
一人か二人くらいなら確実にいると思えるのだが。
五人となると途端に可能性が低くなる。
作業員をしてる者達の中でどれだけやる気のある者がいるか。
「まあ、聞くだけ聞いてみる。
それでいいか?」
「ああ。
とりあず三日したらまた聞きに来るから。
その時に結果を教えてくれ」
「分かった」
職員の請け負った言葉にヒロノリは安堵と緊張を抱く。
とりあえず第一段階は終えた事に安堵を。
その次に続くこれからの事に緊張を。
相反する気持ちを抱きながら食堂へと向かう。
何はなくとも食べなければならない。
(……あいつらにも説明しておかないとなあ)
今更ながら、孤児達に説明をしておく事を思いついた。
事前に相談も何もしてないのはどうかという所だが、事後承諾で納得してもらおうと思った。
上手くやる自信はこれっぽっちも無いが。
それでもやるしかなかった。
22:00にも出さねばならぬ。
義務じゃないのは分かってるけど。
でも、これを小説家になろうに投稿してる段階ではまだ書けてない。
どうすりゃいんでしょうか?




