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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第七決算期

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転職139日目 次世代育成計画8

「ここ……?」

「嘘だろ」

「おいおい……」

 誰もが同じような反応を示す。

 無理もない、それだけ意表を突いた。

 無理と無茶がすぎるとも言う。

「本気だ」

 返答は更に皆を呆れさせていった。

「でも、ここって」

「完全にモンスターの出没地じゃないですか」

「ど真ん中だぞ」

 正気を疑う理由が再び出てくる。

 地図で示された場所は、彼等が危惧する通り、モンスターの出没値であり、拠点から離れた場所だった。



「そんな驚かないでくれ」

 ヒロノリはニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべて説明をしていく。

「確かにモンスターの巣窟のど真ん中だけど、ちゃんと理由はあるから」

「本当ですか?」

「当たり前だ。

 俺だって考え無しにこんな所を選ばないって」

 その言葉に疑いを持って一同は見つめてくる。

 素直に信じるほど甘っちょろい人間はいない。

 だが、ヒロノリはめげたりくじけたりしないで考えを述べていく。



「俺達の目的はモンスター退治で稼ぐ事だ。

 だから、どうしてもモンスターのいる場所の近くの方が望ましい。

「まあ、そうですね」

「で、それなら出来るだけモンスターの近くに、出来れば最前線に拠点を構えたい」

 危険ではあるが、それが一番稼げるのは確かだ。

「だったら、このあたりが丁度いい」

 あらためて目的の場所を指す。

「このあたりはこの開拓地から四キロから五キロは離れてる。

 周りはモンスターだらけだから、稼ぎに困る事は無い」

 ものは言いようというべきであろうか。

 確かのその通りではある。

 命がけの危険をかえりみなければ。

「で、これだけ離れていれば、他の連中の邪魔にもならないし、ぶつかることもない。

 遠出してくる連中と接触する事はあるだろうけど、まあ、そんな事も滅多にないだろう」

 冒険者の活動半径にもよるが、今のところそこまで遠出する者はいない。

 いずれはやってくるだろうが、それもまだ先の事になるだろう。

 開拓地の備えがしっかりできあがり、更なる発展にのりだそうとするまでは。

 早くても五年はかかると予想される。

 その間、他の集団と衝突する事無くモンスターを倒していく事が出来る。

「獲物の取り合いで喧嘩しないで済むだけでもありがたい」

 仲間同士のいざこざなんぞ、少なければ少ないほど良い。



「そんで、ここには都合良く小川が流れてる。

 水の確保に困る事は無い」

 水道設備をしっかり作る事が出来ない場合、水場の近くというのは集落を作る上で最低限の条件となる。

 小川が存在するというのは、それだけで拠点を作る場合の候補地になり得た。

 なお、この小川は開拓地の傍を流れる大きな川へと流れ込んでいる。

 源流ではないが、水量に多少は貢献してるであろう。

「あと、小川が流れてるこのあたりはちょっとした山地になってる」

「丘陵っつった方が良くないですか?」

「そうとも言うけど、一応山って事にしておいてやろう。

 一番高い所で二百メートルくらいはあるっていうし」

 山というのは憚られる高さだが、それなりの起伏が連なってるのでそこそこ険しい地形になっている。

「これが壁になってるから、モンスターの襲撃方向もある程度絞られている。

 山に入ってくるのや、山で活動するのもいるけど、平地に出て来るのよりは多くはない。

 四方八方から襲われる可能性は低い」

 それでもモンスター出没地域の中であるのは変わらないが、満遍なく襲われる事がないだけでもありがたい。

「木材とかも現地調達しやすいし、薪なんかはそれこそすぐに入手出来る。

 まあ、それはどうでもいいか」

 あれば便利であるだろうが、積極的な理由にはなりそうもない部分だった。

 ただ、開拓地にはまだまだ木材は必要なので、その調達は便利になるだろう。

 そろそろ開拓地周辺の森林も少なくなってきているし、新たな伐採場所は必要ではあった。

「ただ、立地条件は悪くない。

 独立した拠点として機能させる事が出来る。

 ちょっと山の中に入った所に拠点を作るつもりだから、さすがに開拓は出来ないだろうけど。

 でも、麓に田畑を作る事も出来る。

 人数が多くなったらそれも考えてみたい」

 言われて皆も納得していく。

 多少なりとも高い所に構えていれば、モンスターもそれほど多くは出て来ない。

 山の中を歩き回るような奴は例外だが、それとて備えを作っておけば問題は無い。

 何より襲撃の可能性としては、平地にいる連中の方が多い。

 好んで上り下りが大変な山地に入ろうなんて者は、人間でもモンスターでもそうはいない。



「あとは、小鬼の連中とかへの対処だな。

 今は撃退したけど、またいつやってくるか分からない。

 前進して警戒しておくための基地も欲しい」

 調査隊は新たな脅威を発見はしてないが、第二第三の襲撃・接触があると誰もが思ってる。

 それへの対策は常に頭を悩ませる問題である。

「このあたりに進出して、すぐに敵を発見出来るようにしておきたい」

 モンスター退治だけではなく、多少なりとも知性をもった敵対勢力への警戒もあっての位置でもあった。

 開拓地から程よく離れ、なおかつ防衛の拠点になりうる場所。

 周辺の地形と開拓地の距離から、現時点においてはもっとも妥当と思える場所である。



「理由としてはこんなもんだ。

 もっと適した場所もあるだろうけど、俺の頭で考えられるのはこんなもんだ」

 そういって説明をしめくくる。

 聞き終えた一同は、声も出さずに考えている。

(確かに、言われてみたら)

(水があるってのは貴重だし)

(モンスターを切り開いて行かなくちゃならないのはきついが)

(食料の調達が一番手間がかかるな)

(まともに使えるようになるまで時間もかかる)

 利点と問題点を交互に考え、判断材料を増やしていく。

 現時点で見れば、危険と手間が大きい。

 確かに水があって山地(ではないにしても土地の隆起や起伏)があるのはありがたい。

 防衛と籠城を考えれば利点である。

 だが、そこに拠点を作るまでが手間であり、活動出来るようにするまでの苦労を考えると二の足を踏んでしまう。

 それをこなしたとしても食糧の確保が更に問題になる。

 輸送するにしても、そのためにモンスターの中を突っ切る事になる。

(まあ、それはモンスター退治の継いでって事にすればいいけど)

 そう思えばさほど問題もないが、それでも手間が大きい。

 間にある数キロの距離は、この場合とてつもなく長く大きな溝だった。



「どうしてもそこが問題になりますね」

 全員、そこに行き着いた。

 悪くない話であるが、問題点も大きい。

 そこをどう解決するかが商店になる。

「今すぐ解決って事は無いな」

 予想通りの答えが出てくる。

 しかし、『今すぐ』という部分がひっかかった。

「そのうちどうにかなるって事ですか?」

 何時になるか分からないが、将来において問題が解消出来るという可能性があると思えた。

「まだ何とも言えないけどね。

 でも、開拓地が今後も拡大するなら、いずれは俺達の拠点にも届く。

 そうなれば、輸送の手間はかなり省けるはずだ」

「なるほど……」

 言われてみればその通りである。

 基本的に開拓地は川沿いに展開していく。

 今は水路を造ってもう少し川から離れた所にも進もうとしてるが、それは先の話となる。

 水を引くなら川沿いの方が楽だ。

 時間はかかるが、いずれは川沿いに拡がっていくだろう。

 そうなれば、ヒロノリが作ろうと思ってる拠点近くまで届くようになる。

 その頃になれば輸送の手間も大分省けるようになるだろう。

 それまでは大変だが。

「でも、そんなに上手くいきますかね」

「途中で計画とかが変更になる可能性もあるんじゃ」

 それは否定出来ない。

「でも、先んじて俺達がこの場所に拠点を作れば、その方面からのモンスターは大分抑制出来る。

 安全地帯が拡がるから、拡大もしやすくなる。

 川沿いに拡大する可能性は大きいと思うんだ」

 現時点での計画を覆す事になるが、水路が出来上がってから川沿いに展開していく可能性はある。

 何年も先の事になるだろうが、十分にあり得る話だった。

「俺らがここに拠点を作れば、その先駆けになる。

 時間はかかるが、先々の布石になるし、今後の展開も楽になる」

 やるだけの価値は十分にある。

 ヒロノリ達に直接の利益はなくても、一団と開拓地への大きな貢献である。

「下世話な話だけど、皆の評判を良くしておきたいってのもある」

 自分達だけで勝手にやってるなら多少のひんしゅくを買う可能性もある。

 あの人達はレベルが高いからって好き勝手やって────などと言われるのはたまったものではない。

 そうならないように、多少なりとも意義がある所を見せておきたかった。

「何年も先の話だってのはその通り。

 けど、俺らがその時の苦労を幾分減らす事が出来る。

 先んじてここに拠点を作って活動していけば」

 その言葉に皆はなるほどと納得をしていく。

「ただ、やるにしてもまだ先の話だ。

 とりあえず金を稼がないと」

「違いない」

「それもそうですね」

 冗談めかした言い方に、皆の気分も少し解れていった。



(分かってくれたみたいだな)

 言いたい事を理解して暮れてるようで少しばかり安心する。

 この先心変わりするかもしれないし、計画を変更しなくてはならない事態になるかもしれない。

 それでも、この時点で反対が多数を占めるよりはよっぽどありがたい。

 やりたい事の第一歩として、この勢いを大事にしたい。

(あとは上手く拡大と拡張をしていければいいけど)

 ちょっとした居場所を作るだけで終わらせるつもりはない。

 当面は新人達も含めて寝泊まりが出来る場所、というだけで良いが、ゆくゆくはもっと大がかりなものにしたかった。

 ヒロノリの目指してるのは、そんなものではないのだから。

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