転職125日目 開拓日記13
二ヶ月の間に冒険者達は忙しく動き回った。
倒せる敵は全て倒し、調べられる場所は全て回った。
出入りする小鬼は全て倒し、あちこちの集団を孤立させていく。
開拓地から届く場所にある小鬼のほとんどは消滅していった。
残るは大型の拠点のみ。
それらもほぼ壊滅状態に陥っていた。
外に出る事が出来ず、食料調達が出来なくなってるから、どうしても衰退衰弱していく。
その効果は、既に撃破した大型の集団で証明済みである。
時間があるならそのまま相手が全員餓死するまで放置しておきたかった。
その方が無駄な損害を出さずに済む。
しかし、今回は二ヶ月という期限がある。
その間に片付けねばならない。
幸い、相手はこの二ヶ月の間、外部との接触を断たれている。
動けなくなる程では無くても、まともに動く事は出来ないはずだった。
仕掛ければ勝てる、という確信は誰もが抱いていた。
実際、やってみればそれほど難しくもなかった。
見張りも少なく、侵入するのはそれほど手間でもなかった。
内部に入ればあとはそれほど手間もかけずに相手を倒していける。
今回、相手がそれほど衰弱してなかったので抵抗も大きかったが、撃破はしっかり出来た。
実力差に加え、健康状態でも差があるのだから負けるわけがない。
怪我をする者はこれまでより多かったが、死亡する者は皆無であった。
少々無理はしたものの、結果は快勝と言ってよい。
当初は間に合うのかと懸念していたものだが、やってみると圧倒的な勝利で全てを終わらせる事が出来た。
食料を備蓄してたり、他の集団と連携していればもっと手こずっただろうが、それらが無かったのが幸いした。
ただ、毎度毎度こんなに上手くいくわけもない。
何時の時点になるかわからないが、今後同じように衝突────戦争になった場合には通用しないかもしれない。
その時に備えて、戦力の拡充と戦略や戦術の確立が求められていく。
だが、それよりもまずは生活基盤であり、生産体制の拡大拡張と成長である。
田畑の拡大に代表される横の拡大と、耕地面積あたりの生産高などの縦の成長の両立が欲しい。
その為には土壌の改善や栽培法の確立、水路などの基盤整備などが求められる。
田畑についてだけでもこれだけやらねばならない。
これに加えて、職人や工房の設置、これらの拡大も考えねばならない。
技術開発や研究などもせねばならない。
現時点の人口でこれらを一気にやるのは無理があるが、それらの端緒をつけておかねばならなかった。
幸いにも、小鬼を排除したことで場所はかなり確保出来る。
拡がった安全地帯に人を入れて、勢力圏の拡大を図っていく事が出来る。
まずは冒険者を割り振り、無人地帯に入ってくるモンスターを倒す事からになるだろう。
土地を耕して田畑にかえるのはそれからになる。
そもそも、それ以前にやらねばならない事がある。
小鬼を撃退して全てが解決というわけではない。
むしろ、ここからが本番でもある。
「水路だな」
「水路ですね」
「水源から離れた所まで、まずは水をひかないと」
確保した場所を耕地するにあたり、どうしてもこれが必要になった。
「でも、かなり時間と手間をかけないといけませんね」
「遠く離れるほど、作業の手間がかかりますし」
「かなり大規模な工事になりますよ」
そこが問題である。
すぐにでも取りかかりたいし、どうにかして完成させたい。
手つかずの土地を利用する為に、なんとかしたい。
しかし、必要となる資本を考えるとどうしても躊躇してしまう。
「少しずつやってくしかないか」
やるにはやるが、一気に作り上げる事は諦めるしかない。
「当面は川沿いに田畑を拡大していこう。
水路も造るが、その周辺を中心に広げていく事になるな」
妥協案でしかないが、そうするより仕方が無い。
「けど、川沿いもそろそろ限界だ。
水路は出来るだけ早く造っていこう」
他にもやらねばならない事はあるが、これもまた急務である。
だが、水路を作るよりも先に、まずは安全確保が必要になる。
その為、冒険者が駐留する拠点作りも進めねばならない。
モンスターがいたら作業なんて出来やしない。
収入確保のためにもモンスター退治を進めねばならず、順番としてはこちらが先になる。
さっそく拠点作りが開始され、主要な場所に柵が建てられていく。
また、拠点までの道に避難所としての小拠点も造られる。
更に、拠点から別の拠点までの間にも、小拠点が造られていく事になる。
これらの間には堀が掘られ、掻き出された土で出来た土嚢が柵代わりに重ねられていく。
堀の内部の両側面も土嚢が積み上げられ、雨などによる土崩れを防ぐ。
モンスターに対する国境線のようなこれらは、小型モンスターだけでも侵入させないために造られていく。
それを造るだけでも多大な労力と時間が必要だが、防衛を考えれば致し方ない。
その内側の開拓地を守る為に、地道にこれらは造られていった。
これらが出来上がるにつれ、開拓地付近でのモンスターが減少していく。
自然と冒険者の活動場所も変化していき、開拓地より遠くの場所へと移動していく者が出てくる。
全くモンスターがいなくなったわけではないが、食い扶持を稼ぐには足りなくなる。
稼ぎが必要な者達は、自然と国境付近に移動をしていく事になる。
極端に減少したモンスターは、村などに家を建てた冒険者で十分に対処可能だった。
このあたり、自然と棲み分けが出来ていっている。
ただ、こういった事が村に住み着いた冒険者に転換を促していく。
モンスター退治を捨てるわけではないにしても、今後もそれだけで食べていくのは難しくなる。
その為、他に食っていく為の手段を模索する必要が出てきた。
ある者は土地の開墾に乗り出し農業を。
ある者は必要な道具を作り出す職人としての道を。
ある者は必要な物品を買い付けてくる商人として。
ある者は治療の技術などを活かして医者に。
ある者は読み書きや計算などを教える教師となり。
ある者は誰もやりたがらない死者の葬儀・埋葬を。
それぞれが自分が出来る事ややりたい事で新たな収入を得ていく事を模索していった。
だんだんとモンスター退治が副業となっていく。
それとは別に、やはりモンスター退治を続けるために転居していく者もいる。
せっかく建てた家を手放す事にもなるが、他に道を見つける事が出来ない者はそうせざるえなかった。
そういった者達から一団は家を買い取っていった。
出て行く者の今後への援助という意味もある。
身銭を切って手に入れた者を無駄にさせるのもしのびない。
もちろんそれだけではない。
そういった家はこれからやってくる者達に格安で提供する事を考えていた。
捨て値で売るつもりはないが、そこそこ妥当な値段で売却し、入植の初期負担を減らすのが目当てである。
差額分だけ一団が損をするが、新たに入ってきた入植者が今後も居着いてくれれば、最終的には利益になる。
何より、一から全部造るよりは安くつく。
最終的な利益を考えれば、買い取ったものを安く売り払っても利益にはなった。
むしろ開拓地に必要なのは、新たな人である。




