転職119日目 開拓日記8
すんなりと、とはいかなかったが事情を知った冒険者達は概ね状況に納得した。
騒いだところで状況が変わるわけでもないし、それなら少しでも建設的な事をしようという者がほとんどだった。
それでも不平不満をこぼす者もいる。
こればかりは仕方が無い。
一方で、驚くほどやる気を出してる者もいる。
両極端の反応だが、そういった者は一定の確率で発生する。
それでも小鬼への対処は誰もが考えているようだった。
冒険者としての仕事意識なのだろうか。
逃げだそうとする者はいなかった。
追跡から帰還した者達の報告により、小鬼達は開拓地より歩いて一日かかる場所に固まってる事が分かった。
今回潰した居留地よりも規模が大きく、それに見合った数がいるだろうと予想される。
念のために、一日使って様子を伺い、出来る限りの事は調べてきたという。
もちろん外から見ただけではあるので、詳細な様子は分からない。
それでも、何も知らないよりははるかに良い。
少しでも情報があれば今後の参考になる。
その情報を元に、まずは相手の規模を割り出していく。
出入りしていた小鬼達の数や周辺の足跡など。
それらだけでも規模を把握するのに役立つ。
予測の幅はかなり大きくなるが、何も分からないよりは良い。
「……これだと、だいたい二百から五百ってところだと思います」
「居座ってる場所の大きさから見てもそれくらいはいるでしょうね」
「ただ、食料とかを栽培してないとなると、自給自足には至ってないんでしょうね。
周囲から採取するにしても限界があるし」
「それほど数は多くならないか。
だとしても、やっぱり三百くらいはいるだろうが」
「外から食料をもってきてるんならもうちょっといくだろうけど。
それでもこんなもんかな」
「今の俺達と同じくらいか、ちょっと多いかな」
「面倒だな」
「でも、全員が兵隊ってわけでもないだろう。
飯作ったり雑用やったりする奴らもいるだろうし。
武器持って戦うのは一割か二割くらいか?」
「だとしても、全員が何かしら手に持って押しかけてきたら面倒だけどな」
もたらされた情報を元に分析が進む。
日頃から一団の運営や戦略などを考えてる者達が集まっての会議は、静かな盛り上がりを見せていた。
白熱した様子はないが、数少ない情報から導き出される解答を組み合わせる、智慧のパズルに挑んでいる。
見える範囲から推測出来る人数を考えていき、大まかな数を探り出す。
決して正解ではないだろうが、それほど間違ってもいないだろう範囲から、大雑把な勢力比を割り出していく。
状況は決して良くはないが悲観する程でもない。
ぶつかれば勝てるのは見えている。
ただ、勝った後の事が問題になる。
勝てると言っても、それは損害を覚悟してのものになる。
数がほぼ同数かそれ以上だとどうしても損害が出る。
それに、小鬼の居留地はそれなりに防備が出来ている。
粗雑ではあるが壁や柵、堀が出来ている。
突破できない事は無いが損害も大きくなる。
なるべくそれを抑えたいものだった。
なお、前回の小規模な小鬼集団への襲撃では、怪我人は出たものの死亡者はいなかった。
重傷者もいない。
数の優位と個人の戦闘力差があったとはいえ、滅多にない快勝である。
さすがにこんな勝利を続ける事は無理だろうが、少しでも損害を抑えたいと思うのは誰もが思うところだ。
どうやってそれを成し遂げるか、頭の使いどころである。
「あとは皆にも考えてもらおう」
ひとしきり意見が出た後でヒロノリはそう促す。
「俺らだけで考えていても仕方ない」
元になった情報と導き出された予測を他の者達に公表するつもりだった。
これも全員に情報を共有してもらいたいのと、何かしら良い案が出て来るのを期待してのものだった。
大勢で話合えば上手くいくというものではないが、様々な考えを求めるには出来るだけ多くの者達に問題に向き合ってもらうしかない。
出来ればこれが良い結果になるよう願うばかりである。
「ところで、追いかけていったあの小鬼はどうしたの?」
「ああ、でっかい集団に合流する前に片付けました」
事も無げに言う追跡隊の言葉に、「さすがだね。抜かり無しだ」と褒め称えた。
合流されてこちらの事が伝わるのは防ぐ事が出来た。
最も懸念する部分が問題なく解決していたので安心する。
「これからもその調子で頼むよ」
「はーい」




