転職118日目 開拓日記7
外に飛び出した小鬼達は、自分達が何とか危地を突破した事を悟った。
そこから逃げるのも至難の業だが、とりあえず一番危険な所は抜け出した。
そう思っていた。
しかし、そうでない事をすぐに知る事となる。
「おお、出て来た出て来た」
思惑通りに事が進んで少し嬉しかった。
だからと言って小鬼を放置するわけもない。
「行くぞ」
そう言って第四部隊の前に立って走っていく。
狙うは出て来た小鬼達。
そこに向かってヒロノリ達は一気に攻撃をかけていく。
当然他の者達もそれにならって動いていく。
一番近くにいた第二部隊が小鬼の逃げ道をふさぐように移動していく。
再び逃げ道を失いそうになる小鬼達は、必死になって足を動かしていった。
彼等も命がかかってるので全力を出している。
追いかけるのも難しい。
武装の重みが今回は仇になっている。
それでも、後ろから弓で攻撃をして背中に矢を突き立てていく。
魔術による風の操作が及んでるのは、小鬼達の拠点内部だけである。
そこから出れば、弓矢はちゃんと機能する。
狙われた小鬼達が次々に倒れていく。
必死な小鬼は一本の矢が当たったところで足を止めない。
急所を射貫かない限りそうそう簡単に即死にはならない。
だが、狙ってるのは一人二人だけではない。
一団の射手で手が空いてる者達全員が狙っている。
間断なく飛ぶ矢が何本も一つの背中に押し寄せる。
次々倒れていく仲間をよそに、小鬼達はひたすら逃げていく。
仲間を助けようなんて殊勝な心など持ち合わせていない。
例えあっても、この状況では見捨てて逃げるしかないであろうが。
何せ、攻撃を仕掛けられてる最中だ。
しかも圧倒的に劣勢。
立ち止まれば自分が死ぬ。
残酷なことだが、この場合仲間を見捨てて逃げるのはそれなりに合理的である。
倒れた仲間を助ける為に立ち止まって自分が死んでは意味がない。
その場合、損害が二体になってしまう。
だが、仲間を見捨てれば損害は一体だけに留まる。
非情であるが、損失を考えたら仲間であっても倒れた者を見捨てるしかない。
結果としてそれが損害を少なくする。
ただ、数が恐ろしく減った今となっては、そんな事さしたる問題ではなくなってるとも言える。
かろうじて包囲を突破した時点で数は二十体から三十体にまで減っている。
そこに集中砲火を浴びているのだ。
次々と生き残りも倒れていく。
残りが二十体に減り、更に十体に減り、一桁台に突入していく。
そのまま指折り数えられる程まで減少し、残りわずかとなった小鬼の未来は風前の灯火になっていく。
だが、そこで攻撃が途絶えた。
飛んでくる矢が無くなり、小鬼達はほんの少し安堵した。
(矢が無くなったのか?)
確証はない。
だが、足を止めたり振り返って確かめる余裕も無い。
今はただ、攻撃が止んだという事実からそう推測するしかなかった。
そもそも矢は無限に存在するものではない。
飛ばせば手元から無くなる。
手持ちが無くなれば新たに補充するか、使えそうなものを回収せねば再攻撃は出来なくなる。
その状態になったと考える方が自然である。
(助かった……)
生き残った小鬼達は心底安堵して、それでも全力で足を動かしていく。
助かる機会がやってきたのだから、これを無駄にしたくなかった。
残り三体の小鬼は、ただひたすらに走っていった。
「残ったのが走っていくから、追跡よろしくね」
『了解です』
通信用魔法具からの応答を聞いて、ヒロノリはため息を吐いた。
とりあえず小鬼の群を一つ潰す事には成功した。
だが、それだけで終わるとは思ってなかった。
小鬼の群がこれだけとは限らない。
別の群がどこかにいる可能性がある。
この周辺を探索してそういった者達がいないか探しているが、簡単に見つかるようなものではない。
なので、少しばかり罠を仕掛けてみる事にした。
わざと小鬼の一部を逃がし、その後を尾行する。
上手くいけば、他の群まで逃げるはずだった。
この群が他の群と何らかの関係があればであるが。
もし孤立した集団だったら、そういった事はのぞめない。
逃げ出した連中はあてどなくさまようだけで、いずれ野垂れ死にするだろう。
そうでなくても途中で他のモンスターに襲われる可能性もある。
モンスターをモンスターが襲うのかは分からないが、分からないからこそ否定も出来ない。
確率というか可能性としてはそういう事もあり得る。
なので、これは賭けだった。
運が良ければ他の集団を見つける事も出来る。
その程度であるが、上手くいけば効率的に次の敵を見つける事が出来る。
見つかればそれはそれで手間が増える。
何せ、また戦わなくてはならないのだから。
それでもこの近隣の安全を確保するためにはやらねばならなかった。
今後も開拓地を拡大していくために。
それから三日。
追跡に出た者達からの連絡がようやく入った。
『ありました』
期待していた、そして出来ればそうでない事を願っていた答えがやってくる。
『もう一つ別の群がいました』
「そうか。
ご苦労さん、追跡はもういいから帰還してくれ。
詳しい話はそれから聞く」
『ええ、そうします。
あ、それと。
逃げ出した連中は群れに合流する前に始末しておきました』
「おう、助かるよ」
そう言って通信を切る。
とりあえず、これで新たに見つかった群れに情報が流れる事は無くなった。
暫くは時間が稼げる。
その間に次なる手立てを考える事が出来る。
詳しい情報を聞かねば手立てを考える事も出来ないが、それでもやれる事は無いか、何をするべきかを考えていく。
「……どうすっかな」
まずは次の敵が見つかった事を伝える事からかと思った。
物資の補充などは既に発注をかけてある。
防壁の拡張による冒険者の居場所も同様だ。
なので、出来る事といったらそれくらいになってしまう。
何が起こってるのかを伝え、今後についての意思統一を図らねばならない。
直前になって出発などと言っても誰もついてこれない。
分かってる情報は可能な限り早急に共有せねばならなかった。
極秘にせねばならないものは除くにしても。
それを伝えるために仲間の所へと向かっていく。
(どんな反応するかなあ……)
決して朗報とは言えない情報である。
うんざりするのが普通だろう。
士気が下がる可能性は大いにある。
だが、言わないわけにはいかない。
出来れば気落ちせず、敵をやっつけようという気になってもらいたいものである。
そう上手くいくとは思えないので、気落ちした時の説得の仕方を考えていく。
それこそ上手くこなせるかどうか、自信は全くなかった。
【能力表示】
一般教養 レベル4 → 5
事務 レベル3
会計 レベル3
管理 レベル3 → 4
交渉 レベル3 → 5
心理 レベル4
経営 レベル4 → 6
戦略 レベル2 → 3
政治 レベル1 → 3
【新規】礼儀作法 レベル0 → 2
運動 レベル2
肉体作業 レベル2
長距離移動 レベル3
刀剣 レベル2 → 4
盾 レベル4 → 5
【能力表示】




