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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第六決算期

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転職117日目 開拓日記6

「はじめるぞ」

 通信用の魔法具を持つ者達に宣言する。

 四つめの部隊、遊撃・後詰めの部隊に陣取るヒロノリの声を、彼はそのまま他の部隊に伝えていく。

「第一部隊から攻撃開始」

 戦闘が始まった。



 指示に従って第一部隊が横に広く展開しながら小鬼の群へと向かっていく。

 見通しの良い平原ではあるが、丈の高い草が生い茂っている。

 身を潜めていればそれなりに接近出来るはずである。

 実際、遠目の魔法具や望遠鏡などで見る限りでは、小鬼がそれに気づいた様子はない。

 いずれは気づくだろうが、それまでにはまだ時間がかかるはずだった。

 ただ、小鬼の集団の中央に立ってる物見櫓。

 丸太を縄で縛って組んだ簡素なものであるが、これが厄介である。

 そこにいる見張りが気づく可能性は十分にあった。

 小鬼の能力やレベルにもよるが、さすがに身近にまで迫れば気づくだろう。

 時間の問題である。

 なので、こればかりは運命と思って諦めるしかない。

 さすがにすぐそばまで接近してくるまで見つからずに済むなんて事は無いのだから。



 予想通り見張りに立っている小鬼が騒ぎ出した。

 様子を見ていた者達がそれに気づく。

「気づいたようですよ」

「分かった。

 それじゃ、第一部隊に攻撃を開始させてくれ。

 もう隠れる必要は無い」

「了解」

 一々指示を出すまでもないが、念のために指示を出しておく。

 小鬼の見張りは第一部隊でも見てるはずだが、気づいてない可能性もある。

 統率をしてる者達が自分の判断で、あるいは判断がつかずに行動が遅れる可能性もある。

 そんな場合を危惧しての事だった。

 実際には第一部隊はヒロノリの指示が魔法具で伝達されるより前に起き上がってる。

 そこで盾を構えて陣取り、弓矢での攻撃を始めていく。

 距離はおおよそ二百メートルといったところ。

 遠距離射撃になるが、それである程度数が減ればよい。

 とりあず、見張り台に登っていた者はそれで射貫かれる。

 レベルの高い射手が揃っているので、それくらいは訳もない。

 続いて見張り台に登ろうとした小鬼も同じ運命を辿った。

 さすがにそれで見張り台はがら空きになる。

 確実に狙い殺されると分かっていて登る者はいない。

 そして、射続けられる矢も小鬼の行動を阻害していく。

 直接的な打撃は与えられなくても、相手の行動を抑止する事は出来ていた。

 その間に第一部隊の前衛は、盾を構えて接近をしていく。

 小鬼が射撃をしてこない間に、出来るだけ距離を詰めていく。



 小鬼の注意が第一部隊の方向に向かってる間に、背後を突く第二第三の部隊が展開していく。

 一緒になって横一列になるのではなく、間を大きく開けて斜め方向から。

 第一部隊が矢面に立ってる間に接近し、かなり近くまで到達する。

 距離にして一百メートルはきっただろうか。

「第二、接近しました」

「第三もいけます」

 それぞれの通信が入り、ヒロノリは「やれ」と命じた。

 大声をあげた第二と第三が、立ち上がりながら小鬼へと接近していく。

 見張り櫓から周囲を確かめる事も出来なかった小鬼は、その絶叫に驚いて立ちすくんだ。

 第一部隊もその隙に接近をしていく。

 前後から挟まれた小鬼達は対処に手間取ってしまう。

 一方向からだけならどうにかする事も出来ただろうが、多方向からとなるどうしようもない。

 よほど防備を固めているか、一人当たりの戦闘力が極端に差がない限りどうにも出来ない。

 一応小鬼達も、自分達が居着いてる場所の周辺に堀をたて、板張りの壁は作っている。

 しかし、壁は背丈が低く矢を遮る事が出来てない。

 小鬼達も周囲にある木の板をかざし、住居などの影に隠れてるが、完全に隠れてるとは言い難い。

 飛んでくる矢を遮る事は出来ずにいる。

 少なくとも頭を出すことも難しい状態だった。

 動きを封じるという意味では、弓矢による遠距離攻撃は成功してる。

 その間に三つの部隊は距離を詰め、小鬼の集団に接触していく。



 距離が縮まってからは更に小鬼達に不利な状態になっていく。

 魔術師達が作り出した闇が表れ、彼等の視界を塞いでいく。

 冒険者達もその中を見通す事が出来なくなってしまうが、相手の攻撃が無いのが優先なので問題は無い。

 また、顔を出してる所には閃光を発生させていく。

 直視した小鬼達は目を光に貫かれて一瞬だけ失明する。

 直接的な打撃にはならないが、相手の戦闘力を奪う事は出来ている。

 それらによって生じた混乱が、小鬼達の拠点に取り付く余裕を生み出した。

 堀に厚みのある長い板が渡されて橋になる。

 持ち込んだ梯子が壁に掛けられ、冒険者が突入していく。

 そうなると別の魔術師が小鬼達の集団に風を発生させていく。

 これにより弓矢の弾道が代わり、命中率が悪くなっていった。

 冒険者側からの攻撃も出来なくなるが、接近戦に持ち込んでいくのでこれで良い。

 矢も尽きてきたので、遠距離攻撃が出来なくなる方がありがたかった。

 小鬼達としても、侵入して来た冒険者相手に弓矢を使ってる余裕がない。

 同士討ちの可能性が出てしまうし、矢をつがえてる暇がない。

 押し入った冒険者達は、手にした武器で小鬼に襲いかかり、ほぼ一方的な蹂躙をしていった。

 大多数が半分以上がレベル5に到達してる者達である。

 レベル3であっても複数の技術を保有してる者がほとんどで、小鬼の戦闘力は軽く超えている。

 劣勢どころか敗北が確定した戦闘に陥り、小鬼達は浮き足だっていった。



 小鬼の心理特性というか性質というのは、基本的に臆病・小心である。

 自分より強い奴には挑まず、弱い者には必要以上に残虐になる。

 向上心も無くないのだろうが、それほど強くはない。

 何かを入手する際には、自分で努力して何かを作り出すよりは、既に出来上がってる物を持ってる者から奪おうとする。

 その為、悪い意味で実力主義な社会を形成する事になる。

 強い者は弱い者からせびり、弱い者は強い者が命じるままに何かを作り出す事を強いられる。

 最下層にいる者は奴隷と言っても良いだろう。

 そんなわけなので、相互の結束はもろい。

 同じような境遇の者達同士であるなら、多少は助け合いというか、同病相憐れむといった気持ちで意気投合する事もある。

 だが、全体で言えばそんな事は無い。

 上手くいってるときや勝ってるとき、勢いに乗ってる場合はそれなりに団結するが、敗北潰走になれば我先にと逃げだそうとする。

 上にいる者が命令しようが何しようが関係が無い。

 むしろ、今の境遇から逃れられると思って我先にと逃走する。

 集団の中で下位にいる者は特にそうだ。

 ヒロノリが率いる冒険者達に襲われた小鬼達も例外ではない。

 襲いかかられた下っ端達はすぐさまその場からに逃げ出していく。

 それから中間層にそれが及び、上層部にまで波及していく。

 一番最後に残るのは、この集団を率いている者である。

 ただそれも、あくまで逃げ遅れた、逃げる時機を逸しただけの事。

 勇気や責任感から最後まで残ってるという事は無い。

 もし機会があったなら、頂点に立ってる者から逃げ出しただろう。

 その機会を得ることが出来ないまま、この集団を率いてる者とその周辺は取り残されていこうとしていた。

 周囲は逃げ出してきた小鬼が集まってきている。

 彼等も別に自分達の上層部に助けてもらおうと思ってやって来たわけではない。

 命に代えて守ろうという意志は、それ以上に無い。

 ただ単に敵である冒険者から逃れてきた結果である。

 それが多方向から押しよせて来たから、結果として中心にいる小鬼の上層部の居場所に集まってしまっただけだ。

 すぐに周りを冒険者に包囲され、逃げ場を失っていく。

 彼等は自分達の運命が、もうすぐ終わる事を何となく感じていった。

 だからこそ恐慌状態に陥る。

 ある者は怒り狂い、ある者は恐怖で呆然とし、ある者は泣きわめいていった。

 そこに集団としての規律や統率は無い。

 烏合の衆ですら無くなった、一塊の群があるだけだった。



 それでもこの集団を率いる団長は、幾分頭が回った。

 力尽くで従わせる事で頂点に到達した者だが、もちろんそれなりに頭も回る。

 悪知恵の類であるが、それでも頭を使う事も出来た。

 そんな彼の、多少なりとも冷静さを残した頭が、冒険者達の包囲の一角に隙間がある事を発見する。

 幾重にも囲まれてるので実際にはそんなものは存在しないように見える。

 しかし、確実に一カ所だけ、他に比べればわずかに包囲の薄い部分が見えた。

 錯覚かもしれない……と普通なら思うだろう。

 だが、窮地に陥り、二進も三進もいかなくなった彼に、それはこの状況から逃げ出す為の唯一の道に見えた。

「あそこだ!」

 小鬼が甲高い耳障りな声で、キイキイとうるさい言語を叫ぶ。

 鬼達の言語であるそれに、小鬼達のほとんど全部が振り向いた。

「あそこから突破できるぞ!」

 その言葉に一瞬小鬼達が静まりかえった。

 そしてすぐに、

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

という絶叫が重なっていった。

 示された方向に向かって小鬼達が突進していく。

 残った数十体のほとんどが一丸となっていく。

 さしもの冒険者も、その勢いは止められなかった。

 一つ一つは弱くても、何十という数がまとまればそれなりの威力を発揮する。

 いくらレベルの高い冒険者であっても、それを止める事は出来ない。

 それなりのレベルに到達してる者達ほどそれが分かっている。

 そんな彼等は、無理に止めることなく、少しずつ後ろに下がりながら攻撃を仕掛けていった。

 当たって転べば儲けものというくらいの気持ちでやっていく。

 退きながらなのでどうしても深傷を負わせる事が出来ない。

 だが、幾重にも重なった冒険者達がそんな事を繰り返していくから、徐々に数は減っていく。

 転んだ者に引っかかって次の者が転んでいく。

 仲間に踏みつけられた小鬼が絶命していく。

 数十体の小鬼達は、その数は減らしながら進んでいった。

 外に出た時には、その数は半分以下に減っていた。

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