転職110日目 進出計画14
「で、分かったのがこれか」
商人達があちこちに渡りをつけていく事で判明した事もある。
どこの商人や商会が関わってるのか、その大本はどこかのか。
取引に加われるかどうかは別として、直に接する事で判明していく事もある。
そのほとんどが状況証拠や推測である。
はっきりとした事実関係が明らかになるわけではない。
それでも、これまで蓄えた情報とここに至る経緯、実際に動いてる所などを組み合わせていくと、朧気ならも浮かんでくるものがある。
とりあえず、結構な規模で鉱山再開はなされるというのは確実だった。
出入りしてる商人や職人がかなり多い。
あちこちの町でも人集めがなされてるようで、それらの範囲からかなり大規模な動員があるのは伺えた。
また、運搬用の馬車や馬車に取り付ける魔法具の発注などもなされてる事から、本気でやるつもりなのが感じられる。
重量軽減の魔法具は運搬において重要な役目を果たす。
積載量の増加を促し、馬車一台あたりの輸送量を増やす。
値段もそれなりにはるが、採算が取れるほどの荷物があるなら元は取れる。
そして、その注文がかなりの数である事から相当な採掘を見込んでる事が予想出来る。
当然人数はそれなりに必要になる。
採掘道具の方も、かなりの数が発注され、それに使うであろう魔法具も注文されている。
相当数の魔法灯、空気清浄や空気循環の魔法機具、更には高温対策の冷房機器まで求められている。
数が多いという事は使用者もそれだけいるという事になる。
波及効果ははかりしれない。
すぐに完全な稼働はしないにしても、一年二年でかなりの人数が鉱山に集められるだろう。
そうなれば、鉱山関係者相手の商売だけでかなりの経済圏が出来上がる。
「忙しくなりそうだな」
予想される数値を見て、そんな感想を抱いた。
「でも、こうなると相当荒れそうだな」
そこが危惧するところでもある。
荒くれが多く集まるのは目に見えている。
喧嘩や衝突は避けられないだろう。
治安は決して良くはなりそうもない。
それに、酒場に賭博場、売春宿もやってくる。
酒場は食堂と兼ねてるだろうから必ず発生する。
賭博場は非公式なものであろうが、取り締まる側も見逃すだろう。
娯楽が無ければ更に荒れるのだから。
売春宿も然り。
こういう商売は人の集まる所ならば規模の大小はあってもほぼ必ず発生する。
鉱山作業で大量の人間が集まるなら、それに付き添ってこういった者達もやってくるだろう。
遮る事は出来ない。
拠点の周辺にだってこういった者達はいる。
人数が多くなればなるほど増えていっている。
村の傍に造り、その後も拡大を続けた拠点でもこういった者達が出向いてきている。
より大人数が集まる鉱山なら、それにあわせてより多くの娯楽産業(内容はお察し)が集まるだろう。
「面倒が多くなりそうだな」
経験上、断言できた。
身近な問題はだいたいそんな所である。
運搬する輸送馬車の立ち寄り先として拠点を活かせないかと考えてはいくが、鉱山作業に従事する者達には極力近づかないよう考えていく。
下手に接していると余計な面倒に関わる事になりかねない。
「まあ、これだけ大きければ、立ち寄るだけでもそれなりに旨みはありそうだな」
「モンスター退治以外での仕事も出来そうですね」
「食堂や宿屋もそれなりに潤うだろうな」
通過する輸送隊の全てが拠点に立ち寄るわけではないにしても、幾らかは寝泊まりをしていく事もあるだろう。
全体からすればわずかな比率であっても、母体の数が多ければかなりの規模になる。
その相手だけでも利益は出そうだった。
「休憩ならもっと簡単に立ち寄るだろうし」
宿泊までいかなくても、食事やちょっとした休憩で立ち寄る事は考えられる。
鉱山のほうで何らかの理由で馬車がつまってる場合などは特に。
通り道に沿って一団が展開してる以上、そういった余録を受け取る可能性は大きい。
「問題は鉱物を手に入れられるかだけどな」
それが一番重要だった。
産出される鉱物の入手はやはり難しそうだった。
鉱石は精錬所に送られるので直接入手する事は出来ない。
手に入れるとしたら、加工されて金属塊となった状態での事になる。
やはり市場に出回るまで入手する事は出来無さそうだった。
採掘から運搬、精錬に至る過程の全てが貴族につながりのある商会や工房に独占されている。
もっとも、鉱石の状態で手に入れても金属に加工する事も難しい。
上手く金属塊を入手する事を念頭にした方が良さそうだった。
周囲にばれないように金属を入手するという目的は、簡単には達成できそうもない。
様々な手段を用いてあちこちから仕掛けてみたが、事は上手くは終わってくれそうもなかった。
だが、それでも全く成果が無かったわけではない。
「とりあえず、こんなもんなのかな」
散々手を尽くして手に入れた成果について考える。
「卸への参入ねえ」
「皆さんの規模を考えれば上々かと」
「そりゃあ零細業者の集まりでしかないし、少しでも食い込めただけでも儲けもんだろうけどさ」
結果に満足してるかと言えば、やはりそうではない。
出来ればもっと盛大に利権に食い込めればと思っている。
だが、出て来た結果は決して悪いものではない。
それは分かっている。
「まあ、競り合いに入れるだけでもありがたいんだろうけどさ」
会議の席上、ぼやきに似た口調で呟く。
一団や関係のある商人達の努力の成果。
それをまとめる会議の中で出てきたのはそれだった。
加工した金属の卸市場への参加。
商人達がどうにかして食い込んだ結果である。
手に入れた金属塊は一般的に流通してる値段より遙かに安く一団で購入出来る。
商人を間に挟むので手間賃は取られるが、それにしても格段に安く手に入れる事は出来る。
上々の首尾と言えるだろう。
採掘から関わる事は出来なかったが、それでも十分な成果である。
ただ、ヒロノリとしてはやはり不満はあった。
(採掘から全部やっていける力があればな……)
その為には専門的な技術者と巨大な設備が必要になる。
貴族達の独占が無かったとしても、やはり自分達だけで事を進めるのは難しかっただろう。
いくら巨大になったとはいえ、一団がそれだけの事を成し遂げる事が出来るようになるのは、もっと先の事になるだろう。
(もっと力を付けなくちゃ駄目か)
開拓地を発展させるためにも、それだけの能力が求められる。
これから様々な産業を興していくとなるのだから。
現実問題としてそれらが今はない。
村を横取りされて腹を立てての考えた独立自立への道だが、至らぬ事がありあまる程になる。
事を成し遂げるだけの力を手に入れていかねばならない。
(まだまだ前途多難だ)
冷静に自分らを省みると、そう言うしか無くなる。




