転職10日目 子供だからとか言ってられない
そんなこんながあって何とか接点を持ち、週一回ほど食材を持ってくるのが定例化していった。
訝しんでた老婆と警戒心全開の孤児達も、多少は態度を軟化させていく。
ヒロノリが善意の寄付をしてると考え始めてきていた。
もちろんそんな事はないのだが、とりあえずそう思ってもらえた方がヒロノリとしてはありがたい。
(人手はいるって事だしな)
女の子云々はとりあえず後回しにして、孤児と孤児院の持つ価値を考えていった。
何でもかんでも利益や利点があるかどうかを考えるのは、染みついた癖である。
がめついと言われればそれまでだが、世の中を渡っていくには必要な能力だった。
(体はガリガリだけど、人数はいるんだな)
あちこちから流れ込んで来るから一定の人数は存在する。
労働力としては厳しいが、数があるというのは強みである。
ただ、栄養状態がかなり悪いらしく成長が著しく遅れている。
実年齢に比べて体格が貧相過ぎた。
(このあたりを改善しないと)
その為には栄養状態を良くしなくてはならないが、現状では難しい。
ヒロノリがどんなに頑張ってもこれ以上稼げるわけではない。
レベルが上がり、もっと強く、もっと稼げるモンスターを倒せるよにならない限りは。
それは当分先の事になる。
今の状態だと一年か二年はかかる。
とてもそんなのを待ってられない。
急いては事をし損じるというが、時間をかけすぎても意味が無い。
幼少期からの育成、というのをヒロノリは捨ててはいない。
だが、そうする為にもまずは現状を改善しなくてはならない。
やるべき事が増えてしまったのは手痛いが、それでもやるだけの価値はあると思えた。
(戦力は欲しいしな)
女の子を囲んでハーレムを……という以前の問題である。
一緒に作業をする戦力が欲しかった。
でないと稼ぎを増やす事が出来ない。
とにかく人員が欲しかった。
人数が増えればそれだけ負担も減る。
分け前も減るが、確保出来る成果が増えれば問題ない。
むしろ一人ではどうしても出て来る限界を、増加した人数で打破する事が出来る。
組織や集団の強みである。
それを以前の世界の勤務先が発揮してたかどうかというと悩ましい。
だが、本来組織とは一人で出来ない事を複数であたるためのものである。
その意義を放棄していた以前の職場のような状態にするつもりはない。
有機的に結びつき、機能的に活動する。
そんな組織を、一緒にやっていく仲間が欲しかった。
部下でも配下でも良い。
それが出来ないからこそ、ヒロノリは孤児院の子供達すら使おうとしていた。
冒険者としてやっていくにあたり、どこかに入り込めないかと考えてはいた。
既に存在する集団に声をかけたりもした。
しかし、何の経験もない者を受け入れるような所はない。
そもそもこの世界において二十九歳という年齢がかなり引っかかってしまっていた。
平均寿命が短いこの世界において、既に人生の半分以上を費やしてる事になる。
そんな人間をわざわざ招き入れようという酔狂はいなかった。
こればかりはしょうがないので、ヒロノリも諦めるしかなかった。
ヒロノリも何も出来ない人間と組みたいとは思わない。
それは職場でいやというほど痛感した事である。
となると、選べる手段は限られてくる。
目の前の孤児達の中から使えそうな者をつれてモンスター退治に出るしかない。
成果は全く見込めない。
上手くいくとはこれっぽっちも思えない。
何せ本当に子供だ。
技術も知恵も無い。
だが、全く目がないわけでもなかった。
年長の何人かは少しでも稼ごうとモンスター退治に出ている。
何度か見かけた事があるので、やり方を全く知らない事もないだろう。
それに、危険な所に出向く気構えは確実にある。
それがあるだけでも十分だった。
そいつらを引き込んで上手くやっていければと思っていた。
「そりゃいいけどさ」
子供達の方は割とすんなり納得した。
彼等も今より稼げるならその方が良いと思っていたようである。
「でも、上手くいくのか?」
問題はそこである。
組んでやれば一人でやるより手間は減る。
だが、今までより良い結果が出るとは限らない。
楽にモンスターを倒せるようになっても、モンスターそのものが増えなければどうにもならないのだ。
「それについては考えがある。
ちょっと危険だけどな」
まだやった事はないが、試してみたい事はあった。
それを実行してみようと思っている。
「上手くいくかは分からないけどな。
でもどうだ、一緒にやってみるか?」
「まあ、いいけど」
本人からの承諾はとれた。
世話をしてる婆さんも、
「本人が良いって言ってんならかまわんよ」
と頷いた。
こちらは認めたというよりは、どうでも良いという調子だったが。
それでも反対する者はいない。
問題なく次の段階に入っていける。
そして翌日。
孤児院から二人を引き連れて早速外へと向かっていった。
基本的に収入はさほど変わらない。
今まで通りに堀の中のモンスターを倒していくのだから、それ程倒せる数が変わるわけではない。
ただ、子供達からすれば今までより簡単に倒せるようにはなっていた。
彼等が持ってるのは錆びたナイフだけであり、モンスターを倒すにはどうしても堀の中に入る必要があった。
なので、危険がどうしてもつきまとう。
堀の上から石の入った袋を投げつけるヒロノリとは違って命がけになってしまう。
石を投げるつける事は彼等も考えたらしいのだが、重くて持ち運びに苦労するので諦めるしかなかったという。
子供の、それも発育不良で力もろくにない事を考えれば仕方が無い。
なので、一日に十体も倒せば御の字になっていた。
それで手にはいる収益は、手取り二千銅貨がせいぜいである。
孤児院の食事を幾らか賄う事は出来るので、それで十分ではある。
しかし、ヒロノリが一方的に攻撃してくれるので危険は激減した。
倒したモンスターから核を回収して回る。
ヒロノリも、倒したモンスターの核の回収を任せる事が出来たので、そのまま先に進み、どんどんモンスターを倒していった。
離れすぎても問題なので、ある程度立ち止まる事はあったが、概ねモンスターを倒す事だけに専念出来る。
おかげでだいたい五十体ほどのモンスターを倒す事が出来た。
いつもより数は多い。
もちろん三人で割ったらとてつもなく手取りが下がる。
そこは二人と話し合い、幾らかヒロノリの手取りが多くなるようにした。
分け前は、ヒロノリが六千銅貨、二人が四千五百銅貨となった。
ヒロノリの方が多いが、それでも二人の手にした金額は今までの二倍以上だ。
文句はあまり出なかった。
ただ、その全てを食費に回すのはヒロノリが止めた。
「それより貯めてくれ。
これからの事もある」
そう言ってヒロノリはこの先の考えを示した。
話を聞いた二人は驚いたが、しかし決して拒否はしなかった。
危険が大きいのでどうしても悩む。
だが、やれば収入は確実に向上する。
命と金を天秤にかけて考えねばならなかった。
ただ、幾らか悩んだ末に、二人はヒロノリの意見に賛成した。
今より稼げるならその方が良い。
それに、武器はどのみちもっと良いのを買わねばならない。
貯金はしなくてはならなかった。
二人はその日、周旋屋に金を預ける。
それぞれ一千銅貨ずつ。
金銭などを預かる場合にも金がかかるので、本来ならば預ける事は出来ない。
しかしその分はヒロノリが支払った。
最初の一ヶ月分はサービスとして。
物品や金銭の保管料は一ヶ月五千銅貨する。
これは仕方のない経費として割り切る事とした。
今は二人が装備を揃えるのを手伝うしかない。
途中で挫折して金を貯めるのを途切れさせるかもしれないが、それはそれで仕方ないと諦める事にした。
所詮それまでの人間だったと。
これから先、モンスター退治に出向くにあたって、これくらいの事が出来なければ困る。
手に入れた金を全部使うのではなく、将来の為に蓄えておくという事を。
そういった事も含め、人として基本的な事を教えねばならない。
(骨が折れるな)
かなり厳しい新人教育になりそうだった。
22:00にも続きを出す予定。
なるべく多くの話を提示したいのだけど、なかなかそうもいかず。
やっぱり続きを書いてないとどうしようもないので。
ある程度書き溜めておいてはいるのだけど、それもすぐ底を突く。
困ったもんだ。




