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閑話、付島悠乃01

閑話 付島悠乃01




 アタシの生まれた付島家は、当の昔に力をなくしちゃっているけれど退魔師をやっていた。昔は本当に力の強い退魔師だったそうだけど、今では見る影もない。


 言い伝えによれば、異界から“チカラ”を体に降ろして戦っていた昔の付島家の退魔師はある時を境にして、“チカラ”を使う側から使われる側になりつつあることに気が付いたのだそうだ。そこで“チカラ”の降臨を制限したのだけれど、“チカラ”を制御するには人はあまりに矮小だった。結局、“チカラ”の使用を禁止し、仲間の退魔師たちと協力して“チカラ”による干渉を受けないよう私たちの家系は生まれてすぐに刻印を体に刻むことになっている。そう、生まれてすぐにやらなくちゃいけなかったのだ。


 アタシのお母さんはアタシを産む前になって、いきなり家の人たちの前から姿を消した。それは何が原因だったのか、誰も教えてくれはしなかった。けれど、お母さんはアタシをその辺の道端に生み落して忽然と姿を消してしまった。


 何が原因だったにせよ、アタシは数日刻印を受けなかった。それが理由で“チカラ”はアタシに干渉することができてしまった。“チカラ”が何を求めているか、それは分からない。でも、アタシの周辺では奇妙な出来事が起きるようになったのだった。


 付島家の人はもう刻印を授ける技能のみを残し、退魔の力はとっくの昔に失ってしまっていた。それでも、付島家の本家には古い資料や文献がいくつも残されていた。それを引っ張り出して父方のお祖母ちゃんと退魔の力を学んだ。


 “チカラ”の干渉を受けたアタシは一般人同然になった付島家の他の人と違って多少は退魔の力を持ったのだ。“チカラ”の干渉で歪んだ世界の理からにじみ出てくる魔之物をアタシはあの日まで一人、黙々と倒していた。


 アタシが成長するにつれて、対峙する魔之物が強くなっていくのは分かっていた。それでも、予め準備した退魔の符や蔵に眠っていた退魔刀を使えば容易く倒せる程度の魔之物にしかアタシは出会ったことがなかった。


 頑張って勉強し、この辺りでは結構な進学校である三谷第一高校に入学したアタシは入学後しばらくして再び魔之物の気配を感じ取った。


 またか。もう慣れ切っていたアタシは面倒だという感情しか湧かなかった。だけど、魔之物の気配が濃厚になるにつれてアタシの背中には冷や汗がべっとりと流れ始める。


 こいつ……今までとけた違いだ。学校内を這いまわる魔之物に気取られないよう平静を装いながらアタシは準備を進めた。その間に被害者が出たことはアタシの心臓を凍り付かせた。


 今まで、こんなことはなかった。精々、クラスの友達が体調を崩すくらいでまさかここまでの事態になるとは思わなかった。


 一体、どうしたらいいのか分からなくて絶望的な思いで魔之物との戦いに臨もうとしていた時、晴が現れたのだ。


 初めての共闘者だった。巻き込んでしまった罪悪感よりも遥かに孤独な戦いから解放される喜びが優った。


 ムカつくことに退魔の力はアタシよりも遥かに晴が上だった。“チカラ”に左右される付島家と違い、天賦の才で晴はアタシをあっさりと抜き去っていった。


 高校生になって以来、何故か力を増した魔之物との戦いも晴がいればあっさりと片がついた。嫉妬も多少はあった。でもやっぱり、一緒に戦える喜びには代えがたかった。アタシが知識で魔之物の正体、対処法を助言し晴が魔之物を倒していく。


 そこに割り込んできたのが三谷鎮だった。


「これ以降、魔之物との戦いは俺に任せるんだ。手を引け」


 今まで手助けなんてしてくれたことがなかったくせに、いざ出会ったらこれだ。三谷家はこの地域を昔から守っていたそうだけど、アタシが小学生になって引っ越してこの方魔之物との戦いで助けてくれたことなんて一回もなかった。


 そのくせ、晴は三谷鎮を信頼しきって蒼波とかいう両刃剣を貰ったり修業を付けて貰ったりしている。ああ! もうイライラする!


 不思議なことに三谷鎮が黒いローブを着たおかしな男を殺して以来、アタシの周囲で起きる異変は一気にスケールが小さくなった。影が不自然に蠢いたり、耳元で不快な音が鳴り響いたり、車の傍で背を押されるような感覚に襲われたり。どれも子供の頃に通り過ぎた道だったので対処は楽に行えた。


 相変わらず三谷鎮には探知出来ないようだったけど。何でアタシは助けられないの? 三谷鎮は原因を異界との関連に見ていると話した。アタシの知る魔之物と三谷鎮が戦っていた魔之物は全くの別物なのだという。


 は? アタシが戦ってきたのは魔之物じゃないっていうの? じゃあ、今まで戦ってきたのは一体何だったっていうの……?


 まあ、あのおかしな男が元凶だったに違いない。だって、もうアタシは大丈夫だもの。いざって時には俺に連絡しろなんて三谷鎮はほざいていたけれど、アタシには晴がいるから大丈夫。


 晴。佐藤晴。初めての共闘者。そして、恐らくアタシは……。幼馴染の裕子は美人で頭もよくて学校でもすごい評判いい。でも、諦めたくない新たな戦いが始まった。今度の戦いは薄暗く、気味の悪い、怖気の走る怖いものじゃない。意識するだけで心が浮き立つような楽しい戦い。


 敵は手ごわいが、負けないぞー!



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