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攻撃?

生きてます。

 ……なんだ、これ?


 僕の目の前に何度も夢で見た、あの光景が広がっている。


 懐かしい木の匂い。


 響きあうセミの声。


 葉のカーテンを通してきた光と熱が、いまが夏であることを僕に主張してきた。


 突如そのような状況に飛ばされた僕の目の前に、11年前の小さな二美がいる。

 その小さな二美がカブトムシを追いかけ、僕から逃げるように走りだした。

 そんな二美と同じように小さくなった僕の体は、それが当たり前かのように、その背中を追いかける。


 な、なんだ、この状況は!?


 頭ではこの状況が異状だと理解しているのに、体の自由が効かないぞ!?


 小さくなった僕の右手が二美の右手を掴むと、無意識にその手を全力で引き寄せようと力を込めた。


 ガッ!! ドンッ!! ゴンッ!!


 あの時と同じように虫かごのヒモで絡まった二美の右手に引っ張られ、僕は体を強く打ち付ける。


 っっ、痛みまである! 無敵モードが無効化されている!? どうなってる!? 幻覚か!?

 と、とにかく、このままじゃ駄目だ。この状況自体が何らかの攻撃かもしれない。光の糸を周囲に展開して……


『『お兄ちゃん。また、手を離すの? 』』


 11年前のフミと現在の二美の声が重複して僕の心に響いてくる。

 その声を聞いた僕は、胸が張り裂けそうな……思わず叫び出したくなるような精神的な痛みを感じた。


 ぐっ、なんて攻撃を……


 魂を傷付けた時のような痛みを感じながら、僕は光の糸を周囲に展開する方向から自分の身体に充満させる方向へと変化させる。


 これが何らかの魔法攻撃なら……あったぞ!!


 右肩の辺りに僕のものとは違う魔力反応があった。目視で確認すると、黒い魔法の糸が僕の身体に入り込もうとウネウネしているのが見える。

 どうやら光の糸を展開しようとしたときに出来た極小の隙間に入り込んだようだ。

 僕は迷わず『鑑定』×『限界突破』を使用したが、文字化けして名前すら読めない。


『『お兄ちゃん、私ね。みんなが困るだろうから黙っていたけど、本当はこの足のことずっと後悔してるんだ……』』


 強い痛みを与えてくる二美の言葉を聞きながら、僕は黒い糸を『かんていさん』の光の糸で鑑定しようとする。

 それと同時に『カウントダウン』も10秒で設置。保険の為に1秒毎に5回ほど『カウントダウン』を予約しておく。


『『だって、いろんな未来を……可能性を潰されて。でも、皆のために泣けなくて……』』


 ……二美の声が響く度に、思考と右手が重く、そして暗く沈んでいくのを感じる。

 自然と呼吸も浅くなり、全てが苦しく、何かにすがり付きたいと身体と心が強く訴えかけてきていた。

 『かんていさん』からの反応がない。あちらも交戦中なのか?


『『できるなら私も歩きたいよっ!  私も皆と一緒がいい……でも、無理だもんね。お兄ちゃんの手は私を……』』


 『限界突破』×4


 僕は二度目のカウントダウンに合わせて『限界突破』を自分にかけると、その痛みを誤魔化すかのように二美の手を強く握って引き寄せた。


『『えっ!? い、痛いっ!! 今度は私の手まで……酷いよ。 足だけじゃ……どうして私だけ……』』


「ぐっ……ぅぅっ、ム・ド・アムストラル……さん?」


 全身に走る激痛を『再生』と気合いで押さえ込み、僕は幼い二美を胸に抱き寄せながら、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、腕のなかでいる偽物の二美に向かって会話を試みた。


「僕は絶望きみの仲間になるつもりはないよ。この星の皆もそう思ってるはずだけど……一度話し合いをしてみるのはどうかな? アムストラルさん」


 言いたいことは色々あるが、とりあえず僕は平和的な解決法を口にしてみた。


 最初のカウントダウンに合わせて『鑑定』×『解読』×『限界突破』×3をコイツにかけた結果、ある程度以上の知性があることが判明したのだ。戦う意思がないことも。

 アムストラルさんにとって先程の精神攻撃は、友達になりたいといった気持ちを伝える挨拶みたいなものらしい。

 ……正直、価値観の不一致が酷すぎて会話になるのか不安すぎるが、そんな理由なら攻撃より先に会話をしてみるのも悪くないだろう。

 倒すにしても、コイツは本体じゃなくて触手みたいなものらしいしね。


 僕に抱き寄せられた幼い二美は、ニッコリと笑うとゆっくりと宙に浮かびだす。

 そして目と口が黒い霧のような穴になると、口裂け女のようにニマァと笑って煙のように消えた。


 ……黒さんはホラー要素が強いな。っと景色が戻った?


 僕の周りの景色が、匂いが、温度が、本来の姿を取り戻した。

 僕のことを心配して大声で呼び掛けてくれるアリシャさんの声も聞こえてくる。


『イチくん! しっかりして! こら! 目を覚ませ、バカッ!!』


 体があったなら胸元を掴んでガタガタ揺らしてきそうな勢いのアリシャさんが画面一杯に迫ってくる。

 そんなアリシャさんに、僕は現状確認の言葉を放った。


「アムストラルに会ってた! 現状は!?」


『!! 家の中から叫び声や破壊音っ! 急いで!』


「了解!」


 僕は家の方向へと走り出しながら、渡への連絡スイッチを押しつつ、光の糸でみんなの場所への道しるべをつくりだした。

 無敵モードで壁をすり抜けながら『結界』を発動。

 指定は『ム・ド・アムストラルと黒い魔法の糸』

 新たな結界を配置してみると、一ヶ所だけ穴があるのを感じる。


 まだ黒さんは帰っていないようだ。あの挨拶攻撃は一路君との相性が悪そうだから苦戦しているのか?


 途中で光の糸は二手に別れている。一方は家族とハム助、『かんていさん』、新菜ちゃん、咲さんといった7本の糸。もう一方は――


 濡れたタオルを鞭のように振ったときに鳴る乾いた音。


 その音を最大にまで高めた空気の歪みと共に、家の壁が散乱する音も聞こえてきた。

 まるで散弾銃のように迫ってくる壁の残骸などを透過しながら、僕は二本の光る糸の先に目をやる。

 その奥には二つの人影……僕に背中を向けながら手招きする猪熊先生と、頭を抱えてうずくまる黒色に染まった一路君が見えた。

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