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想いと行為

 ソファーで寝たフリをしながら、僕は一路くん達の会話を聞こうとしたが、それ以降は何も聞こえてくることはなかった。

 隙を見て光の糸の能力を使い、かんていさんに連絡を何回か入れてみるが返事は返ってこない。


 「「いただきます」」


 そうこうしている間に夕食の準備も出来たようで、僕は胸にしこりを抱えたまま、アリシャさんの歌付きの夕食を始める。

 アリシャさんの歌はやはり素晴らしかったし、夕食も美味しい。アリシャさんの歌には、なんらかの効果が有りそうだけど、初日ということもあり検証は明日にすることにした。

 アリシャさんを気遣ったのもあるが、いまは一路くんの事を優先したい。

 一路くんや『かんていさん』になんらかのアクションをとるべきか悩みながらも、時間は勝手に過ぎ去っていき……


 「おやすみなさい。イチお兄さん。アリシャお姉さん」


 「ああ、おやすみなさい。一路くん。新菜ちゃんと『かんていさん』もおやすみなさい」

 『うん。みんな、またね』


 「はい、それではお先に失礼します」

 「うん? ……おやす……ぃ」


 かんていさんの腕に抱かれた新菜ちゃんは、すでに半分夢の世界に入っているようだ。

 ……あれからずっと『かんていさん』の周りには、新菜ちゃんが張り付いていた。

 新菜ちゃんや一路くんの目の前で話をするわけにもいけないし、最も気付かれないであろう光の糸を使用しないのだから何か理由があるのだろう。


『だって僕はお父さんを殺した人殺しなんだから……』


 寝室のベットで横になる僕の頭の中で、一路くんのその言葉が再生される。


 「ふぅ……」


 胸にたまった淀みを吐き出すように一つ息を吐き出すと、画面の中からアリシャさんが心配そうに声をかけてきた。


『大丈夫? 無理してない?』


 「え? ああ、ごめん。ちょっと考えなきゃいけないことがあってね。アリシャさんは大丈夫?」


 体を起こしながら返事をする僕に、アリシャさんはそのまま寝ているようにと命令してきた。


『こら! そのまま寝てなさい! まったく、もう……おかげさまで私は元気そのものだよ。みんないい人だし……手伝えることがあったら遠慮しちゃ駄目だよ?』


 「ありがとう、アリシャさん。アリシャさんも遠慮せずに……」


 心配そうに僕の顔をみるハム助を感謝を込めて撫でながら、僕はアリシャさんと少し話をした。この世界のことやスマフロのことなど、アリシャさんと話すことは沢山ある。

 しかし、考え事をしていた僕に気遣ったのか、アリシャさんから途中で話を切り上げてくれた。


『――それじゃあ、私はこの中で何ができるのか調べてみるね。おやすみ。イチくん』


 アリシャさんに「おやすみなさい」と返事すると、アリシャさんは画面から姿を消した。ハム助も僕から離れると、回し車で走りだしてくれている。二人への感謝の言葉を口にしながらスマホを手に取ると、僕は調べものをすることにした。


 「えーと、これかな?」


 少し迷いながらも昨日、渡に頼んでいたファイルを開いていく。


 ……一路くんのお父さんの詳しい死亡状況はこれか。

 これはスマフロでの死亡例とお父さんの死亡状況に近い死亡例のまとめで、こっちはスマフロで確認された職業……


 一路くんがお父さんを殺害した可能性は想定していた。

 猪熊先生に新菜ちゃんの様子が変であること、一路くんが何か隠していることを教えてもらい、自分なりに考えた可能性の一つに()()はあった。

 一路くんが新菜ちゃんを大切にしているのは、まず間違いない。

 その新菜ちゃんの記憶を操作してまで隠すようなことは……余程のことだと考えたのだ。

 本当にモンスターに襲われたトラウマを緩和するために実行した可能性もあったが、一路くんの言葉でだいぶ状況が絞れてきた。


 渡からの情報ではお父さんは死後二週間ほどして発見されたようだ。死亡原因は心臓麻痺で外傷はない。

 部屋は弁当の箱やおにぎりの袋、ペットボトルなどのゴミで一杯だったが、荒らされた様子はないようだ。


 次にスマフロプレイヤーによる死亡例。そのほとんどが暴力行為によるものだった。

 暴力行為による死亡例なので、当然のように外傷ができるのだが、外傷が全くない場合も少数だがある。

 それはスマフロで呪いに関係した職種を選んだ人達によるものらしい。


 その代表的な職種が呪術師。

 最初は見習い呪術師から始まるようだが、相手を呪えば呪うほど呪術が強化される職種らしい。

 呪術は相手に不調を与えることが出来る魔法のようなもので、呪いの藁人形的なこともできる。

 見習い呪術師がモンスターにできることは、良いとこ嫌がらせだが、人間相手には非常に厄介な存在らしい。

 なんせ……準備は必要だが、相手を怨む気持ち一つで人を殺せるのだ。

 その準備とは相手の髪の毛と……本人または血縁者の血液か……


 そして、一路くんの現在の職種は『願うもの』

 強い想いを叶える職種である。


 確定ではない。

 確定ではないが……モンスターとはお父さんの事ではないのかと僕は思う。

 僕は『夢所』で一路くんが話してくれた言葉を思い出していた。


『ひさしぶりにお父さんがボクたちに会いに来てくれたんだ。こうヒゲがモジャモジャだったけど。ご飯を沢山持ってきて……これを渡して遊んでなさいって……』


『その日のお父さんとってもイイ人だったんだよ。ずっと話も聞いてくれて……妹の二菜にいなともいっしょに寝てくれて……ごめんって泣きながらあやまってた』



 いままで放置していた子供に突然優しく接してきたこと。

 何日もヒゲを剃らずにいたような姿。

 ごめんと泣いて謝る父親……


 あの時の一路くんは本当に嬉しそうで、悲しそうで……怖そうだった。

 そう、モンスターに襲われた新菜ちゃんのことを話す一路くんは、本当に恐ろしいことが起きたのだと実感できるほど、そのモンスターを恐れていたのだ。


 ……僕は何を見ていたんだ。


『でも、僕なんかと一緒にいたら、ニナも、かんていさんやイチお兄さん達だって……

 だって僕はお父さんを殺した人殺しなんだから……』


 僕は何を聞いていたんだ!

 僕は何を……




 人殺しは何故悪いことなの?


 この問いへの返答は、法律的な答え、道徳的な答え、生物的な答えなど、答え方は様々である。

 しかし、僕が返答するなら人間がそのようにして()()()()()()()からだと答えるだろう。

 ダーヴィン先生の理論が正しいなら、現在の地球で生きている生物は、数ある絶滅した生物達の中の生き残りらしい。

 生き残れた理由は様々だが、仮に仲間の殺害を良しとする人間に似た生物がいたとしたら、その生物はこの厳しい生存競争で生き残ることは出来るのだろうか?

 仲間と力を合わせる人間のような生物と、仲間すら殺してしまう人間のような生物。

 同程度の能力だとしたら、どちらが生存競争を生き残れるか……


 同じ仲間である人を殺すことはいけないことだ。

 僕は可能な限り()()を避けたいと思っている。正直、気持ち悪いしね。

 でも、自分の大切な人が()()でしか守れないなら……

 その様な状況で()()気持ちを持つことを僕は否定できない。

 僕と一路くんは状況が違っただけで……

 僕は一路くんと同じで……


 僕は外に出て夜風に当たることにした。

 少し頭と心を冷やすために外に出たのだ。


 「……結局、僕は一路くんの仲間に、味方になりたいんだな」


 名前も想いも他人とは思えない一路くんには、幸せになって欲しいと思う。

 その行為自体は悪いものだとしても、その想いは悪くないはずだ。

 だから、その行為に対しては……


 「……一緒に謝ろう。一路くん」


 一路くんは自分で自分を責めている。それを救うためにも謝る場所が必要だ。

 支える人や帰る場所も……


 さて、方針が決まった。なら後は、なるべく上手くやるだけだ。

 いくら味方になりたい気持ちがあっても、下手に伝えると一路くんは逃げてしまうかもしれない。

 ……失敗はできないな。

 よし、ここは経験豊富な猪熊先生に相談しとこう。


 僕は時間を確認すると、猪熊先生に光の糸を繋ごうとした……が、何か嫌な視線を感じ空を見上げる。


 ん? 気のせいか?


 空には星や月ぐらいしかない。あとは暗闇だ。

 だけど、最初に出会ったウサギのことを思い出した僕は、注意深く空を見つめた。


 あれ? あのオリオン座、星が一つ見えないぞ?


 星座の中でも特徴的な三つの星を囲む四つの星。

 その左上の星が雲もないのに全く見えない。完全に真っ黒だ。


 空……黒……あっ!


 僕は無敵モードを発動すると、目線を下に向け、ポケットからスマホを取り出す。そしてスマホに指をかけた、その瞬間――


 僕は11年前のあの時に戻っていた。


 そう、僕の目の前で、逃げたカブトムシを追いかけている小さな二美がいるのだ。


 「……フミ!?」


 この状況に戸惑っている頭とは違い、僕の体は勝手に小さな二美を追いかけていた。


 ……そのとき、家の中からは「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」と泣き叫ぶ、男の子の声が鳴り響いていた。


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