明るさと暗さ
思えば『かんていさん』とも光の糸で意思の疎通が出来ていたのだから、心で見聞きする機能ぐらいは確認すべきだった。
光の糸の魔力の流れを確認すると、いつの間にか僕からアリシャさんへ向かって魔力が流れている。
まあ、検証は後でいい。
とりあえず魔力の流れを止めて……よし。
さて、猫のように威嚇しているアリシャさんを落ち着かせるとしよう。
「――もう、本当に気を付けなきゃダメだよ! いくら私が綺麗で知的な頼れるお姉さんだからって、面と向かって伝えられると照れるんだから!」
『いや、僕はそんなこと言ってませんけど「イチくん?」……はい。綺麗って言ってたかもしれませんね。アリシャお姉さん』
まあ、綺麗なのは間違いない。どちらかと言えば可愛いなのだが……
なんとか落ちついてきたアリシャさんは、ブチブチ言いながらも話を再開してくれた。
「ホントにもう! ……まあ、それで私達の物語は悲劇で終わっちゃったんだけど……あっ、でも私、君の特殊能力になってるんだよね? もしかして私って君に力を与える悲劇の美女役!? いや~、照れちゃうね」
『……そうですね』
この人は本当に……
『ま、君には慰めてもらっちゃったしね。出来るだけ力になっちゃうよ? なんなら今から歌おうか?」
アリシャさんは明るい笑顔で、僕への協力を申し出た。
『それは本気で嬉しいですが、それより先に聞きたいことが……』
それに比べて僕は……こんな奴のどこが英雄なんだ?
「うーん、ごめん! なんかそこら辺も記憶が曖昧でさ……」
アリシャさんは僕に気を使い、無理に明るく騒いでいるのだろう。
僕はそれに甘えている。
本当の英雄なら、こんなとき『俺が君を幸せにする! 君の過去と未来を俺が変えてみせる!』とでも言うのだろうか?
……僕には無理だな。
良いとこ『チャンスや可能性があるなら』が先に付いてしまう。
『いえ、無理を言ってすみません。それじゃあ、この光の糸で試してみたいことが……』
そんな当たり前のセリフしか言えない僕を見て、上位世界のお金持ちは何が楽しいのだろうか……
「えっ? それ大丈夫なの?」
『……以前、大丈夫だと言って実行したら壊れて、治りました』
「……本気で大丈夫?」
でもチャンスや可能性を作る努力はしようと思う。
『……前回は大丈夫でした。これで二回目です』
優先順位は自分の世界より下だけど……
「……ここに独りでいるよりは希望があるだけ良いか。よし、やってみるよ!」
チャンスや可能性があるなら全力で掴むつもりだ。
『出来るだけ安全にやってみます』
言わないけどね。
――――スマフロの画面に現れたアリシャさんは、猪熊先生の家をキョロキョロと物珍しそうに見ている。
その胸からは僕に向かって伸びる光の糸があった。
どうやら、『身代わり』&『鑑定』×『限界突破』×3は一定の成果を出したらしい。
『へぇ~、ここがイチくんの世界か~。あっ、いけない。えー、初めまして。歌姫と『限界突破』をやっておりましたアリシャです。ふつつか者ですがよろしくお願いいたします』
「アリシャさん! それ違う意味に聞こえちゃうから!」
頭を下げながらいきなり意味深な発言を放つアリシャさんに驚き、思わず声が大きくなる。
「あらあら、ご丁寧に。こちらこそ息子をよろしくお願いしますね」
頭を下げて挨拶を返す母さん。
……間違ってはいないけど、もっと別の言い方ないのだろうか?
「とりあえず、こちらが僕の父と母で、こっちが妹です。それでこちらに……」
みんなと軽い自己紹介を終え、母さんや咲さんが夕食の準備をしている間、アリシャさんの状態をかんていさんが調べることにした。
「『カウントダウン』の効果まであと十秒です。ではイチさん、後ろから抱き締めてください」
「わかりました」
かんていさんが僕とスマフロの画面に写るアリシャさんの間に入り込む。
アリシャさんと『かんていさん』は見つめ合い、僕はそんな『かんていさん』を後ろから優しく抱き締めた。
……これはこれで髪の良い香りや、手に伝わる鎖骨やお腹の感触が結構きつい。
ああ、僕の太ももに『かんていさん』の手の感触が……これは、より密着させるためには仕方ないんだ!
だから外野はちょっと静かにしてください!
かんていさん! お尻を後ろに下げないでください!
くぅぅぅ……心頭滅却すれば火もまた涼し、心頭滅却すれば……
「「3、2、1、『超越鑑定』『限界突破』」」
かんていさんに『限界突破』を使用した僕は、続けて『診断』×『限界突破』も使用する。
……今回は脳波の異状はないようだ。
「……今回も完全ではありませんが鑑定ができました。まず、イチさんの『限界突破』の使用には問題はありません。そして、アリシャさんもこの状態で安定しているようです。確実ではありませんが危険は少ないと推測します」
「おお、ありがとうございます。良かったね、アリシャさん」
『うん! ありがとう、イチくん! えっと、皆さんも本当にありがとうございます』
アリシャさんはみんなに何回も頭を下げてお礼を言った。
「よかったね。アリシャお姉さん」
一路くんが綺麗な笑顔で祝福の言葉をおくった。
『ありがとう、イチロくん! お姉さん皆のために頑張るわよ~!』
お世辞ぬきでお姉さんと呼ばれているアリシャさんは上機嫌である。
「かっかっか、元気な嬢ちゃんだな。いち坊、何かあれば話は聞いてやる。いつでも言えや」
さすが猪熊先生だ。元気そうにしているアリシャさんの暗い過去を察したのだろう。
でも、頭の楔が話さない方が良いって言ってるんだよな。
アリシャさんにも光の糸でその事は伝えているが、大きなネタバレは禁止ってことかな?
「うんうん、一が初めて家に連れてきた女性が、こんな可愛らしい異世界のお嬢さんだとは、お父さんは想像もしていなかったよ」
「……それを想像できてたら、凄いを通り越して頭がおかしいからね?」
『もう、綺麗だなんて照れますよ~。一曲、歌いましょうか?』
なるほど。アリシャさんの中では可愛いは綺麗に自動変換されているようだ。
あと、すごくチョロそうに見えますよ。アリシャさん?
「ついにお兄ちゃんも彼女を家に連れてくるようになったんだねぇ」
『自分の夢を二次元化した彼女の上に、他人の家だけどな。さすがはイチ様だ。想像を軽く越えてくる』
「彼女じゃないし、子供達に誤解を与えるから……せめて小声で話してくれ」
突っ込むことに疲れた僕は、二人を放置してソファーに座り込む。
……アリシャさんもみんなと仲良くやってるみたいだし、検証は食後でいいか。
『夢所』で休息は取ったつもりだけど、少し疲れたな。
目を閉じた僕に一路くんの声が微かに聞こえてくる。
これは『かんていさん』が光の糸で伝えてきているのか?
『……かんていさんにも過去の記憶があるの?』
『いいえ、存在しません』
『じゃあさ……過去の記憶が欲しい? もし欲しいなら僕、イチお兄さんにおねがいしてみる。その方が――』
『私は幸せですよ。安心してください、マスター』
『でも、僕なんかと一緒にいたら、ニナも、かんていさんやイチお兄さん達だって……
だって僕はお父さんを殺した人殺しなんだから……』




