笑い者
「渡……アレは渡がやったのかな?」
僕はあの映像をテレビ局にリークした犯人を探るために、重要参考人から事情聴取を行うことにした。
なんせ全国放送で望みもしない恥ずかしいパレード姿を流されるという、前代未聞の大犯罪をおかした極悪人がいるのだ。
僕のプロファイリングでは、犯人は身近にいる機械に詳しい人物の可能性が高い。
……これは流石に怒ってもいいだろう。
『ああ、さっきのニュースか? くっくっく、あれは俺の仕業じゃないぞ』
「……本当に渡じゃないのか?」
『くっくっ、アレを全国放送で流すのは流石にシャレにならんからな。俺なら、いいとこ脅しのネタにするぐらいだ』
確かに渡なら一気に全国放送に流すより、僕をからかうネタとして活用しそうだ。
それはそれで問題があるけど、他にあんな映像を撮れる人なんて……
「まさか……スマフロの関係者が?」
『ま、99%そうだろう。『結界』で機械類を侵入不可にしていたんだろ? 俺の小型ドローンも追跡できなかったからな……実に残念だ。望遠は画像が粗いんだぞ?』
「やっぱり、渡も撮ってるんじゃないか!!」
『二美ちゃんを笑わせるんだろ? サポートは任せとけ!』
「二美なら思いっきり引いてたよ! 慰めの言葉までいただいてるんだぞ! ほんと最悪だよ……」
あ、思い出したら涙が出そうだ。
『それは撮り方の問題だな。俺ならもっと幻想的な映像を撮ってやるのに……せっかくのイチのパレードを、あんな切って貼ったみたいな撮り方なんて、ほんとに最悪だよ……な?』
「『な?』って、違うから! なんでそれで共感した気分になってるんだ!? 日本語わかる?」
「馬鹿にするなよな。日本国の言語のことだろ? 古くは万葉仮名を……」
「日本語の意味は聞いてないから!」
――まあ、渡と大声で言い合いをしたおかげ?で、僕の頭も少し落ち着いてきた。
アレがスマフロ関係者の仕業だとすると、僕はピエロ役にされていると考えて良いだろう。
そう、あの馬鹿げた行為は、命綱を持っている相手を楽しませているのだ。
なら、我慢して文句を言うしかない。
相手がこの馬鹿げた寸劇を望んでいるのだから……物凄く嫌だけど。
ポジティブに考えると、こっちに手間を掛ける程度は興味があるってことだ。
ネガティブに考えると、まだまだ刺激が足りないってことだけど……
どっちにしろ、恥の海を駆け抜ける覚悟はもっておくべきだな。
幸せになるために笑い者になる覚悟をした僕は、精神的にとても重くなったリビングの扉を開く。
馬鹿にするならすればいい!
それが必要というのなら……喜んで笑い者になってやる!!
みんなの視線が僕に集まる。
僕は二美の方へと近づくと口を開いた。
「二美。なんか元気が出る応援ソングってある? できれば、女性が歌ってるやつで。アイドルグループのでもいいけど……」
僕は恥ずかしそうに二美に尋ね、二美は心配そうに口に手をあてて僕を見た。
大丈夫、兄ちゃんは正気だ。
たぶん……
――朝の約束通りに一時間だけ『夢所』を借りた僕は、光の糸の特訓をしている。
一本の糸だけではなく多数の糸を操る特訓だ。
これが結構難しい。
左右の指で別の絵を書くイメージなのだが、三本以上になると、頭も糸もぐちゃぐちゃになってしまうのだ。
繋げた人によっても操作のしやすさが違うし……
それぞれの特殊能力へと光の糸を繋いでみたが、どうも【友??】や【好??】の数値が高いほど操作しやすいみたいだ。
【友??】や【好??】が表示されていない特殊能力には、光の糸は使用できなかった。
まあ、まったく知らない相手の繋がりなんか想像できないのだから、これは仕方がない。
家族の糸は操作しやすかったのは正直ホッとしたが、これが好感度や友好度なら気軽に他人に使うのはよそう。
相手に失礼だし、人間不信になりそうだからね。
でも、操作しやすい糸なら三本まではスムーズに動かすことが可能になった。
これならアリシャさんへの糸も……
スマフロの画面を確認すると【好?? 70】【友??75】だった『限界突破』の表示は、【好?? 50】【友??60】まで下がっていた。
……そりゃ下がるよね。
どう考えても疫病神だもんな。
逆にまだこの数値なのが驚くぐらいだよ。
僕は少し操作しにくいアリシャさんへの糸を、かんていさんの糸と同じように自分の体に編み込んでいく。
……けっこう時間が掛かりそうだぞ。
これが終わったら歌の練習もしないと……
二美が恐る恐る教えてくれたのはアニメソングだった。
それを数曲スマホで再生してもらい、『記憶』で頭の中に押し込んできたのでしっかりと頭に焼き付いている。
初めて『記憶』を活用したのがアニメソングだとは……
追加で移動距離を消費しないと1週間程度で忘れる能力なので、なかなか使い勝手が悪いんだよね。
だが歌や動きなどを真似して覚えるのにはとても役に立つ能力で、映像を『記憶』すると自分自身が歌ったり動いたりした記憶とすり替えることが可能だ。
例えるなら、自転車に初めて乗る前から自転車の乗り方を体と頭が覚えている状態にできる能力だと言える。
やろうと思えば見た相手の記憶をコピーしたり、貼り付けたり、編集したりできる結構恐ろしい能力が『記憶』の本質なのだろう。
そんな恐ろしい能力を使ったのには訳がある。
はっきり言って僕は歌が下手なんだよね。
なんと言うか、歌に関してはリズム感が悪い。
猪熊先生には「独特のリズム感は武道においては才能だぞ」とのお墨付きまでいただいているほどの実力者なのだ。
でも仕方がない。
あの場所……アリシャさんの所に行けるのは僕だけなのだから。
そんな僕がアリシャさんへ確実に出来ることは、言葉を伝えて心を変化させることだけなのだ。
その条件なら歌が一番効果的だと思う。
未来を変えるために『光の糸』の強化はしているが、保険はかけておくべきだろう。
歌姫に僕の歌声を披露する、か……これ保険になるのか?
まあ、アリシャさんの歌に僕が感動できたのだから、地球の歌にもなんらかの感情が生まれることを信じよう。
僕はこれから予定している精神的に過酷な特訓を想像して、思わずため息がもれるのだった。




