パレード
僕はいま、ダンジョンを攻略した証でもある黒い球体の前で座り込んでいる。
つ、疲れた。
このダンジョンに入った時から悪い予感はしていたんだよ……
このダンジョンに入ってすぐの部屋で、あの忌まわしきお邪魔虫『バクオール』がいるし、『地形無視』は使えなかったし……
どうやっても壊せない金色の巨像をかわし、僕は先を急いだ。
大勢いるのに全員僕だけという不思議なパレード状態だが、後ろを見なけりゃ関係ない。
やっとボス部屋の前にたどり着いた時は、これで一人百鬼夜行も終わったと思ったのに、何故かアイツらは消えなかった。
それどころかボス部屋まで追いかけて来たのだ!
そして、ボス部屋にいたのは上半身が裸の僕の巨像……
最終的にボス部屋は大きな僕達で埋め尽くされて……
もう思い出すのはよそう……頭がおかしくなる。
このダンジョンを作った人の思考が一つも理解できない……
ただ、このダンジョンを考えた人の所に行くことになれば、とても酷いことになるであろうことは心の底から理解させられた。
それにしても――
「特殊能力の使用不可か……」
それについては想定の範囲内だ。
先日の暗闇ダンジョンでは全ての特殊能力が使用不可だったしね。
『地形無視』×『限界突破』の無敵モードはいわゆる反則技で、スマフロの運営側から使用を制限されても不思議ではない。
いきなり無敵モードが通用しなくなるより、とても優しい対応だといえるぐらいである。
その可能性は何時でも存在していたから、脳だけは最初に攻撃されないように気を付けていた。
意識があれば『再生』様でなんとかなる……はず。
でも、このダンジョンで使用不可にしたのは……
「ズルは駄目ってことだな」
やはり自分が作ったゲームは、ちゃんと遊んで欲しいのだろう。
気持ちはわかる。
気持ちはわかるが……趣味が悪い。
僕専用に作られたであろうダンジョンは、カリヤが言ってた人達の仕業に違いない。
逆にカリヤがこのダンジョンを好んで作ったとすれば、カリヤの危険度が違う意味で跳ね上がる。
……たぶんカリヤは「なんでこの私がこんな低俗なことを――」とか言って、仕事しているんだろうな。
その姿を想像すると少し笑えるが、カリヤが語った上位世界の信憑性も増してくる。
うーん、七割ぐらいはカリヤさんの説明通りだと考えとこうかな。
だいぶ疲労も回復してきたので、そろそろ黒い球体に触れてマスタールームに帰ろうかな。
僕は頬を叩き、気合いを入れると、勢いよく立ち上がった。
疲れた顔を二美に見せたら、また心配させてしまうからな。
『ダンジョン攻略おめでとうございます。今回は特殊ダンジョンの攻略特典として、特殊能力『パレード』を獲得しました。それでは転送を開始します』
……このダンジョンの特典が『パレード』?
「あっ、お兄ちゃん……どうしたの? 難しい顔をして」
「……ちょっとね」
これは使用しろってことだよね……嫌な予感しかしないぞ。
その後、山奥で『パレード』を検証したが、非常に賑やか&目立つ、呪われた特殊能力だった。
まさか使用者を無理矢理お祭り気分にさせるとは……保険で『結界』を使用してて本当に良かったよ。
まあ、結構楽しかったけど。
昼御飯を食べた後も僕はダンジョンを攻略し続けていく。
重力が増加したダンジョンや、マグマを潜って移動しなければいけないダンジョン。
空間を埋め尽くすほどの餓鬼が、全てを食べ尽くそうとするダンジョンを攻略した時には、もう夕方に近づいていた。
もう1つ攻略するのは、ちょっと時間が厳しいかな。
「一日でダンジョン4つ攻略か……」
マスタールームに転移した僕は、一人で新しく追加された4つのダンジョンを確認していた。
一番新しい餓鬼のダンジョン以外は、もう手を加えているのか。
二美は働き者だな。
餓鬼のダンジョンが星九つなのを確認して、渡に出現した場所と星の数をメールする。
これで、ひとまず安心だ。
それにしても特殊ダンジョン以外に、『地形無視』が使用できるのは嬉しい誤算だった。
まあ、それだけ特殊ダンジョンは特別だってことだな。
もしかしたら特殊ダンジョンを追加するためには、手間だけでなくお金とかも必要なのかも……
なら地獄のようなダンジョンたちは、他の下位世界でも使い回しをしているのだろうか?
そんなことを考えながらマスタールームを出ると、冷たい風が強く吹いてきた。
邪魔にならないように縁側の端に置いてあるから、風がよく当たるのだ。
「さむっ、だいぶ寒くなってきたんだな」
マスタールームは快適な温度なので、外に出ると余計に寒さを感じてしまう。
そろそろスーパーなどでクリスマスの曲が流れても、おかしくない時期だもんな。
僕は身を縮ませながら、足早にリビングへと向かった。
リビングでは車椅子に座った二美が、ノートにむかって何かを書き込んでいた。
よく見れば片方の手でスマホも操作している。
「ただいま、書きながらスマホを操作するなんて器用だな」
「あ、お兄ちゃん。おかえり。マスタールーム《あそこ》電波悪くてさ。でも外は寒いでしょ? だからここでやってるの。新しいダンジョンはどう?」
「星九つだったよ。渡には連絡したぞ」
「星九つかぁ~、先にそっちを確認しとこっかな。冷蔵庫のプリンアラモードは私のだかんね」
「わかった、わかった。送ろっか?」
「いいよ、すぐそこだし。お兄ちゃんは、テレビでも見ながらダラダラしときなさい」
二美が少し命令口調でだらけることを言ってくる。
「いや、みんな頑張ってるのに一人だけダラダラなんて……はい、わかりました。ゆっくりしときます」
僕は素直にテレビをつけて、ソファーに座った。
二美がリビングから出ていき、ハム助におやつをあげながらゆっくりとしていると、咲さんと新菜ちゃんがやって来た。
元気な新菜ちゃんに誘われ、みんなでキュアキュアごっこをして遊ぶことにしたのだが……
「……あの、僕が敵になりますから、咲さんプリンセス役をお願いできますか?」
「え~、サキさんすごいんだよ。イチおにいちゃんはプリンセス! ハムちゃんはコビトさんね」
「キュッ」
キュアキュアはコビトの力で変身するヒーローで、悪の手先からプリンセスを守るらしい。
「……れー、た……てー」
「おにいちゃん、こえちいさいよ?」
「あれー、たすけてー。キュアキュアさまー」
「わるものめ! プリンセスをはなしなさい!」
「キュッ、キュッ!」
「ふははは、また邪魔をしにきたかキュアキュアめ!」
「アレー……」
……本当に早く助けて。
わたくし……いや、僕が心をリフレッシュさせ過ぎた頃、お父様達が帰ってきた。
「ただいま、少し遅くなったね。待たせたかい?」
「おかえりなさい。大丈夫だよ。新菜ちゃんと遊んでたから……」
僕達は簡単に今日の成果を報告しあって、先に夕食を食べることにした。
夕食はカキフライだ。
子供たちはカキが苦手だったのでエビフライにしていたが……うまい!
カリカリで熱々の衣をかじると、中からあふれる何とも言えないあのスープ。
口の中でカキ独特の旨味と香りがはじけて、衣の油分や香ばしさと混ざりあう……
思わず飲み込みたくなるほどの快感を我慢して、口の中で数回噛んだのだが、ついつい我慢を忘れて喉の奥へと送り込んでしまった。
……幸せはここにあったのだ。
次はタルタルソースで攻めてみるかな。
そんな幸せな食事をしていると、テレビからニュースが流れてきた。
『みなさん、こんばんは。今日は特別寒い一日でしたね。最初のニュースはそんな寒さを吹き飛ばすような話からです。最近話題のあの男性、一文路さんが今日……』
え?
自分の名前が呼ばれたのに気付いた僕は、食事を止めてテレビに集中する。
「お、一が出るみたいだね」
父さんがみんなに声をかけたが、すでに興味津々でみんなテレビの方を見ている。
「あっ、イチおにいちゃんだ!」
新菜ちゃんがテレビを指差しながら、大きな声でみんなにテレビに写った僕を教えてくれた。
呪われし特殊能力『パレード』を使用したときの僕を……
笑顔の僕を筆頭に様々な動物達が森の中を踊り、歌い、楽器を演奏しながら練り歩く。
この映像を……全国区で流している、だって!?
新菜ちゃんだけが「うわ~、うわ~」と騒ぐリビング。
二美が気まずい雰囲気を吹き飛ばすように、「動物さん達かわいーね!」と明るい口調で言ってくれた。
『――さながら森の音楽隊ですね。でも、これからが本番です』
テレビの中の僕達のまわりで花火が上がる。
誰もいない森の中を笑顔で手を振りながら歩いている男は、何を思ったのか、いきなり上着をヌギハジメタ……
誰かの息をのむ声が僕の耳に聞こえてくる。
それからも上半身ハダカで森を練り歩く笑顔の男と動物達の映像が、リビングを支配し続けた……
「お、お兄ちゃん? ……生きてたら良いこともあるから、ね?」
僕は世界が壊れる音をこの耳で聞いた。




