相手or自分
何度も、何度も糸を繋ごうとした。
何度も、何度も糸を結ぼうとした……
何度も……何度も……
でも、二人を繋ぐはずの糸が再び繋がることはなかった。
……もしかしたら、魂を犠牲にすれば修復できるかもしれない。
でも、その代わりに僕は違う絆を失うだろう。
そして、それは家族の誰かになるかもしれない……
僕と……長子はお互いの状態を話し合い、確かめ合った。
なくしたものを思い出すように、必死に語り合った。
……二人で抱き締めあって、絆を取り戻そうともした。
そんな僕らは、お互いに理解させられた。
お互いに相手が、悪い意味での空気なのだと……
いても、いなくても同じなのだ。
「……一さん。落ち込まないで……くださいね。私は、昔の私が一さんの事を大切に思ってたことを知っています。だって、日記に書いているですよ? 一さんのことを……たくさん」
少し疲れた顔の長子さんは、無理に笑顔を作って話しかけてくれる。
僕もそんな彼女と一緒に、暗くならないよう意識して話をした。
「そうなんですね。変なこと書いてないですか?」
「変なことどころか、べた褒めでした。でも、無茶するところがあるから私が見守ってあげなきゃって……ちょっと失礼でしたか?」
「いやいや、妹にもよく言われますよ。守って……くれたんですよね。すみませんでした。」
深々と頭を下げて、僕は謝罪の言葉を口にした。
「……でも、一さんを守ったのかどうか、まだ分かってませんよね?」
「それでも、その気持ちだけで……。それなのに、こんな思いをさせてしまって……すみません」
あるべきはずの彼女への感情が無くなる喪失感。
いまでも僕の心は『それを取り戻せ!!』と叫んでいる。
そんな、飢餓にも似た苦しみを彼女にも与えているのだ。
そして、そんな彼女に申し訳ないと心から思えない僕は、形だけでも謝るしかできなかった。
彼女はため息をつくと、自分の机から分厚い本を何冊か取ってきた。
その表紙にはdiaryと書いてある。
「一さんは日記に書いてある通りの人ですね。あの赤い巨人から私達を守ってくれたのは一さんなのに……人間は相手への感情だけで怒るんじゃないって知ってましたか? 私はいま実感しました。私はいま怒ってますよ?」
彼女は日記帳を小さなテーブルの上に置くと、ストンっと僕の隣に座り、少し怖い目で僕を見てくる。
「えっ? すみません、なにか失礼でも?」
「……例え失礼をしたとしても、怒る感情がないのは一さんが一番ご存知ですよね? 私は……私はこの状況を変えたくて怒ってるんです!」
「じょ、状況ですか?」
「ええ、時間はまだまだ大丈夫でしたよね?」
「はい! 昼間に嫌っていうほど寝ましたので……」
なんか、怖い。
昼間に『夢所』で寝たのは事実だが、何故か逆らってはいけない気がする。
「そうですか……私も覚悟を決めました。記憶が戻ったら赤面するかもしれませんが、全て暴露します。未来の私がいたら必死で止めるかもしれませんね」
彼女は少し笑うと、一番古そうな日記を開いた。
「知ってますか? 一さんがどれだけ私を守ってくれて、どれだけ私が一さんを好きだったのか……。だから、謝るのは……やめてください。昔の私が聞いたら、泣いちゃいますよ……」
「……はい」
相手への感情がなくても、人は自分のために怒り、笑い……そして、泣くことができるのだと、僕は知った。
怖いって怯えることが可能なのもついでに……ね。




