かんていさん
かんていさんは服を着るため、母さんに連れられて隣の部屋に強制連行させられることになった。
「あー、びっくりした」
『擬人化』って言ってたけど、あれは『人化』だよ。
まさか、女性に……
しかも、水着姿へと化けるとは……
仮に『擬人化』が元人間だとしたら、どんな人だったんだ?
そんなことを頭に浮かばせながら驚きを呟いた僕に、一路君があせったように謝罪をしてきた。
「ごめんなさいっ!! ぼく、かんていさんのこと寒いとか思ってなくて…… だって、いつも平気そうにしてたし……」
一路君は頭を下げた後に、見るからに反省している感じで、僕のことを見てくる。
「けど、ほんとうは寒かったんだね……。いちお兄さんがあんなにあわててタオルをわたすんだから……」
「うっ……そうだね。確かに寒そうだったよね……」
ごめん、いちお兄さんはもっと邪なことを考えていたんだよ……
そんな本心は言えるはずもなく、僕は必死で頭を回転させながら純粋な少年への言葉を探す。
「も、もしかしたら、かんていさんは暑がりなのかな? ははは……」
僕は笑ってごまかして、邪な何人かは笑い声をごまかした。
二美のジャージを着てから戻ってきた『かんていさん』は、休日でゴロゴロしている社長秘書のようだった。
「質問は『これからの最適行動は何か?』でよろしいでしょうか?」
そんな社長秘書が感情のない目で、僕に再び質問をしてきた。
……さっきの事があるので、本気で冷たい目をされているのでは? と錯覚してしまう自分がいる。
……なんか、ごめんなさい。
そして、どうかこの冷たい目が仕様でありますように。
「……質問は『これからの最適行動は何か?』でよろしいでしょうか?」
「あっ、ごめん。考え事をしていたよ。そうだなぁ……一路君、質問は何回も出来るよね?」
「うん、できるよ」
「それなら『かんていさん』に質問します。『どうやって最適行動を導き出しているか?』を教えてくれますか?」
「了解しました。最適行動を導き出す方法ですね。まず最初に……」
『かんていさん』はマニュアルを読むかのように説明してくれた。
『超越鑑定』は発動させると、この世界の全てを一瞬で鑑定できる。
つまり、本当の意味で『超越鑑定』を使用してる状態とは、常に世界全体を鑑定し続けている状態らしい。
しかし、常に世界全体を鑑定すると、莫大な移動距離を消費するので、通常は鑑定を停止してエコモードに切り替えている。
そして、エコモードでは鑑定で得た情報を使用者に伝えたり、その情報を元に未来を推測したりするとのことだ。
「「なるほど、そうやって僕の言葉を真似ているんだね。……あちょあちょぱんぱる。 おお、推測ってレベルじゃないぞーさん。うーん、ほんとに凄いね」」
説明の途中で新菜ちゃんが
「かんていさん、まねっこ、すごいんだよ~」
と言ってきたので、能力の実演を兼ねて、『まねっこ』をしてもらっている。
それだけではなく、僕が話しているときに動いていた動きも、鏡に写したかのように再現していた。
「「この未来予知……ごめん、まねっこを」 やめてもらえるかな? ……ありがとう」
凄いを越えて凄まじい能力だな。
まあ、『まねっこ』をするためには、僕を含めたこの周囲を鑑定し続ける必要があるらしい。
つまり、移動距離を消費し続ける必要があるのだ。
そう考えれば、僕の持っている『再生』や『限界突破』『地形無視』なども凄まじい能力だとあらためて理解できる。
「それじゃあ、『かんていさん』はこの未来予知のような能力を使って、最適行動を導き出しているんだね」
「訂正します。未来予知でなく、情報による推測です」
「うん。じゃあ、その推測による最適行動はどのくらい正確なのかな?」
「最適の定義を『みんなと一緒に元気で幸せに人生を過ごしていくこと』とした場合の正確性は不明です」
「えっ!? 不明? なんでかな?」
なぜ不明か?
それは『超越鑑定』の鑑定可能な範囲が関係している。
例えば、『超越鑑定』はアップデートの日時を間違えた。
アップデートが始まる一時間前まで、スマフロのアップデートは5日後の予定だったらしい。
その一時間の間に、何かがスマフロの予定を変えたらしい。
つまり、それは『超越鑑定』にも鑑定出来ない何かがあるということだ。
そして、その存在の行動が推測できないから、最適行動の正確性が不明になる。
「つまり、神様の気まぐれまではわからないってことか……」
「神様の定義を『鑑定できない存在』とすれば、肯定です」
「結局は神様の気分次第かぁ……。目的が分かればと思ったけど、無理だよね?」
無理だと知りながらも、とりあえず聞いてみた。
「神様を宿す人の目的なら『みんなと一緒に元気で幸せに人生を過ごしていくこと』です」
『かんていさん』は、はっきりとそう言った。
「それって僕の……そうか、この特殊能力は鑑定外なんだね」
僕が持つ『???』の特殊能力は、『かんていさん』でも分からないらしい。
「うーん、渡? 『かんていさん』に最適行動を聞いた方がいいと思うかな?」
とりあえず、渡の意見も聞いてみたい。
『それはやめとけ。それなら俺が指図した方がマシだ』
「やっぱりそう思うんだな」
『かんていさん』の最適行動は、例えるなら完全最適攻略マニュアルだ。
その最適行動をしてきた結果、一路君は最強になった。
そして、悪魔の子と呼ばれるように仕向けられている……
『それよりも、イチの神様を『限界突破』で鑑定してもらったらどうだ? それならリスクも少ないだろ?』
「たしかに……かんていさん。僕の鑑定出来ない特殊能力は、『限界突破』を使ったら鑑定出来るようになるかな?」
「不明ですが可能性はあります」
「危険はある?」
「不明です」
不明か……
明日の命も不明なのがあたりまえなんだけどね。
うーん。なまじ未来予知みたいな能力を見た後だから、ついつい尻込みしてしまってる自分がいる。
「よし! 一路君、『かんていさん』に僕の鑑定をお願いしても良いかな?」
「えっ? ……うん、良いけど。だいじょうぶ?」
一路君が心配そうに僕を見つめる。
「うーん。大丈夫! って言いたいけど分からないなぁ。けど、きっと大丈夫だよ」
僕が笑顔で答えると、一路君は少し考えてから返事をした。
「……わかった。がんばってね」
「まあ、頑張るのは『かんていさん』なんだけどね。じゃあ、『かんていさん』。一番安全で効果的な方法を教えてくれますか?」
それから『かんていさん』が、一番安全で効果的な方法を教えてくれたのだが……
「えーと、かんていさん? この体勢って本当に必要なんですか? 」
「『限界突破』を他者に使用する場合は密着時が一番効率が良く、目を合わせると『鑑定』の効果が高くなります」
「……そうですか。じゃあ、さっさと鑑定しましょう」
「『カウントダウン』が残り18秒あります」
……なんでこんなことに。
『きっと大丈夫だよ』
バカか!
明日の命も分からないのに適当なことを言うな!!
ああ、過去の自分を殴りたい……
僕は家族を含めた、みんなの前で『かんていさん』と抱き合い、みつめあっている。
……酷い罰ゲームだ。
「あらあら、まあまあ」と言い続ける人。
ときどき吹き出しながら、こちらを応援する人。
心配そうに眺める、優しい子供。
おおはしゃぎで僕達の回りを走り回る、元気な幼児。
大きな声で笑っている人。
その横で「ほほほ……」と微笑む人。
涙目で口を押さえて、せき込んみながら「お兄ちゃん、イベント発生中だよ。選択肢間違えたらダメだからね~」と、訳のわからんことをぬかす人。
そして、その一部始終をカメラに収めようと、頑張る魔王。
……この地獄が早く終わることを僕は心の底から願う。
そして、その時は来た。
「「3、2、1、『限界突破』『超越鑑定』」」
そのままの姿勢で少しの間待ってると、『かんていさん』の桃色の唇から「が……」という言葉が流れ出す。
僕は知らず知らずのうちに、彼女の言葉をそのまま口に出していた。
「……が?」
僕は思わず目を唇にそらしまったことに気付き、宝石のような瞳を見つめなおした。
その宝石のような瞳が、僕の目を覗き込みながら段々と近付いてくる……
綺麗だな……
そんなことを思いながら、僕も瞳の奥を覗き込む。
そして……その宝石のような瞳が白目になった。
「が、ががががががが……」
か、かんていさんが壊れたっっ!!




