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お手伝い

  母さんが「こちらにどうぞ」と一路君をテーブルの席に案内し、僕はその隣に座る。

 一路君は少し不安そうにしていたが、楽しそうに遊ぶ新菜ちゃんを見ると、口をぐっと締めて気合いをいれたようだ。


 「ふむ、そんなに気張らんでもいいぞ。誰も悪いことをしてやろうなどとは考えてはおらんのだからな。みんなでお手伝いしあって助け合おうっちゅうだけの話だ。そうだな、いち


 「はい。その通りです」


 猪熊先生が声をあげて笑うと、頭を掻いて僕に言った。


 「まったく、お前が緊張してどうする。ちったぁ、大きくなったがまだまだ坊主だな」


 猪熊先生はお茶を飲み、僕達にも飲むように促した。


 「さっきも言ったが、みんなで助け合って暮らしやすい様にしようってことだ。家の大掃除と同じだわい。それぞれが出来ることを話して、その出来ることをしようってことだな。ところで、掃除はできるのかな? いっくん」


 猪熊先生は優しい顔で一路君に訪ねる。

 どうやら一路君はいっくんで決まりそうだ。


 「うん。あ、はい! 出きます!」


 「おお、そりゃ頼もしいな。わしはお家や食事を用意することが出来るぞ。もちろん給食もな」


 新菜ちゃんが表門をくぐる時に歌った『給食ソング』を聞いたのだろう。

 三人はキンキンマンに勝利して、ご満悦な新菜ちゃんに少しだけ目線を移した。


 「で、でも、お掃除だけじゃ……」


 「うむ。いっくんがニナちゃんと掃除を頼まれたらどうする? ニナちゃんに、自分と同じだけのお手伝いをするように頼むかの?」


 「……ぼくがニナの分もがんばります」


 「うむ、格好いいぞ。良いお兄ちゃんだな」


 猪熊先生は一路君を見て笑うと、お茶を一口飲んだ。


 「わしもな、いっくんみたいに格好いい人になりたいっちゅうだけだ。それでも何かしたいって言うなら、隣の兄ちゃんのお手伝いをしてやるといい」


 猪熊先生と一路君が僕を見た。


 「その兄ちゃんと網野渡っちゅう名前の男は、馬鹿だが悪い男ではない。きっと、みなが暮らしやすい様に動く。なら、そのお手伝いをすれば、自然と皆のお手伝いになるってわけだ」


 猪熊先生は優しいが力強い目で一路君を見つめた。


 「いっくんにはその力があるんだろ?」


 一路君は少し怯えるように下を向いたが、やがてその目力めぢからに応えるように、顔をあげて猪熊先生を見つめると、


 「うん! ぼく、お手つだいがんばる!!」


 一路君は力強い声で返事をした。

 部屋に猪熊先生の笑い声がまた響く。


 ……猪熊先生にお願いしたのは大正解だったな。

 僕は少し恥ずかしそうに、こちらをうかがう一路君を見て、そう思った。



 細々した手続きは後にすることにして、僕は遊ぼうと一路君を誘ったのだが、一路君はお手伝いしたいと譲らない。

 嫌がる一路君を強引に遊びに誘うと、本末転倒になってしまいそうだ。

 そう思った僕は、渡に連絡をして、スマフロの話をすることにした。


 テーブルにはノートパソコンがあり、その中の画面に渡が映っている。

 その画面が見えるように、僕と一路君は並んで椅子に腰を掛けた。

 猪熊先生を含め、他の人は話に参加しない。

 異議を申し立てたけど、渡から『神様からの指名が僕』といった方針だと却下された。

 

 「えーと、まずは、みんなと一緒に元気で幸せに人生を過ごしていくことが目標。これは良いかな?」


 「うん。いいよ」


 一路君が頷く。


『そんなとこだな』


 ノートパソコンの画面の中では、渡が話を進めろと合図する。


 「そのためにスマフロの目的や、クリアー条件なんかが分かれば良いかなと思うんだけど……一路君は何か気付いたことがあるかな?」


 「うーん、これから何をすれば一番いいのか聞いてるんだよね?」


 一路君が少し考えながら答えたので、僕は頷いた。


 「そうだね。一路君はどう思う?」


 「それなら『超越鑑定』にきくといいと思うよ? ちょっとまっててね。えーと、ごめんなさい。ここで特殊能力つかってもいいのかな?」


 「えっ? 何か壊したりはしないんだよね? 猪熊先生、いいですか?」


 猪熊先生から「かまわんぞ」と許可をもらったのを聞いて、一路君は頭を下げた。


 「ありがとうございます。それじゃあ『超越鑑定』つかうけど、みんなと『超越鑑定』で話せたほうがいいよね?」


 「直接お話が出来るのなら、その方が嬉しいけど……そんなことが出来るの?」


 「うん。 ニナー! ウサギさんをかりるからねー!」


 一路君が新菜ちゃんに大きな声で声をかけると、新菜ちゃんが「うん! かんていさんだ! かんていさん、よぶんでしょ?」と、大きな声で一路君に返事をした。


 「そうだよ。 いちお兄さんが、かんていさんのお話をききたいんだって。だからニナは、お話のじゃまをしたらダメだからね」


 「うん。ニナ、みててもいい?」


 「うん。見ててもいいよ」


 一路君はそう言いながら両手で何かを持つような動作をする。

 すると、いつの間にかウサギのぬいぐるみが、その手の中に現れた。


 「いまのは『アイテムボックス』だよ。これはニナのウサギさん」


 少しくたびれたウサギのぬいぐるみを見せながら、一路君は話を続ける。


 「これからウサギさんに『超越鑑定』と『憑依ひょうい』と『定着ていちゃく』と……えーと、あっ! 『擬人化ぎじんか』をつかって、『超越鑑定』とお話が出きるようにするね」


 「……ありがとう。移動距離は大丈夫かな?」


 心の準備はしていたつもりだったが、自分以外が使う特殊能力を見ると衝撃的だ。

 やはり、人前で特殊能力を使うときには気を付けなきゃな。


 「うん。 移動距離はかってにふえているから、だいじょうぶだよ。じゃあ『超越鑑定』をよぶね」


 一路君が床にウサギのぬいぐるみを置いて少し下がると、ウサギのぬいぐるみが浮かびながら白い光を放った。

 始めはウサギの形だった光が、段々と人の姿へと変化し……って女の人だ!!


 光は収まり、耳が少し長い女の人……そう、エルフのような美人さんが目の前に現れた。


 「……え~、あの~……『超越鑑定』さんですか?」


 僕は目を伏せて、『超越鑑定』であろう人物に訪ねた。


 「はい。正確には『超越鑑定』の能力を、ウサギのぬいぐるみに対して『憑依』『定着』をし、『擬人化』させた存在です。マスターからは『かんていさん』と呼ばれています。質問は『これからの最適行動は何か?』でよろしいでしょうか?」


 かんていさんは凄腕のアナウンサーのような発音で、流れるようにお話をしてくれた。


 「質問は間違っていないけど、とりあえず……服着てくださいっっ!!」


 母さんが渡してくれた大きめのタオルケットを両手で差し出しながら、僕はそう声をあげた。


 猪熊先生と渡の笑い声が聞こえてくる。


 かんていさんの服装は、控えめに言っても水着と呼ばれるたぐいのものだった。


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