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自己紹介

 

 政府の……いや、世界全体の対応が異質なことを渡に伝えた僕は、その返事を待つ間に深く息を吐いた。


 落ち着け、落ち着け。


 思考を操作されている事に気付いた時の感覚はとても心臓に悪い。

 自分自身の根底が急に消えて落ちていく感覚というべきか……


 『……思考誘導は思ってたよりも適用範囲が広そうだな』


「そうみたいだね。目的はスムーズにスマフロが浸透させることかな?」


 『それもあるが政府のいざこざに興味がないんだろ? 見ていて面白いものではないしな。スキップして問題ないなら俺だってそうする』


「うーん、じゃあ問題は二美かな?」


 二美に目線を移すと、『えっ? 私?』と言いたそうに自分を指差している。


 『そうだな。二美ちゃんみたいにスマフロを使用できない人達から情報を集めてみる。もし思考誘導を受けていないなら、その差違で神様の意向が見えてくる可能性もあるしな』


「そうだね。……このことは広めない方が良いよね?」


 『ああ、神様の意向にはできうる限り従う方向で行く方が無難だろう。現状でも、あまり問題もないしな。それに広めたところで混乱するだけだ』


「でも……何でこんなにも簡単に解除できるんだろう? もっとガチガチに洗脳すれば楽なのに」


 『楽と楽しいは違うってことだろ? 神様のご機嫌伺いはこっちに任せて、イチはイチしか出来ないことやっとけ』


 一路君達が来る時間も近づいてきたので、渡との話を終了してリビングまで移動することにした。


「「えっ!?」」


 リビングに入ると、誕生日パーティーでもあるのかと思うほどの飾り付けがしてある。

 天井から吊り下げられた、色とりどりの紙で出来た鎖状の飾り。

 壁に貼られたウサギさんやクマさん。

 パンが顔になっているキャラクター系のオモチャなどなど……


「へぇ~、幼稚園みたいだね」


 そう、二美の言った通りこれは幼稚園のお誕生日会だ。


「どうだ、いち? これなら新菜にいなちゃんも喜ぶかな?」


「うーん、楽しそうだけど、やり過ぎじゃないかな? 僕なら逆に緊張してしまいそうだよ」



 そこに母さんが、ミカンが入ったかごを持ってやって来た。

 ちなみにミカンは新菜ちゃんの大好物らしい。


「いっちゃん。小さな子は大げさなぐらいの歓迎で丁度いいのよ。いままで我慢してたなら、なおさら危険じゃない、楽しい所だって一目で分かるぐらいじゃなきゃね」


「そうだぞ、いちいちや二美がこんなに小さな頃も、よくこんな感じでお祝いしてたもんだ。それこそ目をキラキラさせて喜んでたんだからな」


「そんなものなのかな? まあ、歓迎されて悪い気はしないよね。何か手伝うことある?」


 準備はほとんど終わっていたが、外で待ってるべきかな?

 そんなことを考えていると猪熊先生と咲さんがやって来た。


「おう、こりゃ立派なもんだな。別の家に来たかと思ったわい」


「あらあら、可愛らしいこと。子供さんも喜びますわね」


 二人とも変わり果てた部屋を見てにこやかな顔をしている。

 猪熊先生や咲さんも用意を手伝うと言ってくれたのだが、宿泊までさせてもらっているのにと、こちらだけで用意をさせてもらったのだ。

 その代わり、話し合いの進行&決定役になってもらうことをお願いした。

 僕達はこの家にお世話になっているだけの住人で、猪熊先生が主なんだから当然なんだけどね。


「おい、いち坊。表門から50歩ほど離れた場所でウロウロしとる気配が二つあるぞ。ちょっと様子を見てきたらどうだ?」


「えっ? わかりました。すぐに行きます。じゃあ、様子をみてくるから。一路君達じゃなくても、そのまま表門で待ってるからね」


 外の様子を見てこようと移動を始めた僕に、二美が訪ねた。


「私も一緒にいこうか? 向こうも妹を連れてきてるし」


「ああ。女性もいた方が新菜ちゃんも良いかもな。ハム助も一緒に行くかい?」


 「キュ~……」


 どうやら、子供に揉みくちゃにされるのを怖がっているようだ。

 そっとしておこう。


 二美の車椅子を押して表門に向かうと、確かに50歩ほど離れた電信柱の影に子供が二人いる。

 猪熊先生も十分ファンタジーの仲間だと思う。


「まだ、あと10分あるからもう少しのガマンだからね」


「うん!にーちゃん。ニナ、ようちえんいけるよ? きゅうしょく、きゅうしょく」


「うん、きゅうしょく食べれるようにお願いするから」


 電信柱の影で話し合う二人に、僕は大きな声をかけながら近づく。


「おーい」


「あっ! イチお兄さん。ごめんなさい。早く来すぎて……」


「全然大丈夫だよ。こんにちは、一路君。新菜ちゃんは初めまして。一文路一といいます。イチ兄ちゃんと呼んでね」


「一路君、こんにちは。新菜ちゃん、初めまして。私は妹の一文路二美だよ。ふみ姉ちゃんと呼んでね」


 僕達は電信柱に近付くと、目線を合わせてニッコリと挨拶をした。


「えーと、こんにちは。一ノ宮一路と一ノ宮新菜です。よろしくお願いします」


「ニナはニナ。うーんと、あっ! そうだ、よろしくおねがいします」


 一路君に後ろから小声で操られて、ニナちゃんはペコリと挨拶をする。

 ニナちゃんは痩せてはいたが目がくりくりとして、笑顔がよく似合う好奇心いっぱいの可愛らしい子供だった。


「よろしくお願いします。みんな一路君や新菜ちゃんに会うのを楽しみにしてるよ。はやくお家に入ろう」


「うん。ニナ、ちゃんと良い子にしてるんだぞ」


「ニナはよい子だもん」


 ニナちゃんは元気に答えた。

 ……想像していたよりも新菜ちゃんは元気で明るいようだ。

 うーん。この状態が普通なのかどうかは、ネグレクトを受けた子供と接したことがないからわからないけど、本で読んだ感じとは違うな。

 興味津々に表門を見上げる新菜ちゃんに、僕はしゃがんで声をかけた。


「うん。新菜ちゃんは良い子だね。二美も良い子にしてるんだぞ」


「はーい!って私、高校生だよ!?」


 二美をからかうと一路君と新菜ちゃんから笑い声が聞こえてきた。


 一路君達と一緒に玄関をくぐるとみんながお迎えに来ていて、一路君はその歓迎ムードに少し驚いていた。

 部屋の飾りを見た時は、思わず声に出るほど驚いてたけどね。


 僕のお見舞い時に一度は顔を会わせていた家族と猪熊先生達だったが、ニナちゃんとは初対面なのであらためて自己紹介をしたのだが……



「パ~ンパ~ンチ!」


 ニナちゃんの楽しそうな声に白熱の演技で対抗するのは、ガラガラ声に声色を変えた高校生の女の子。二美である。


「おのれ小癪こしゃくな。このキンキンマンに楯突たてつくとは! ものども、であえ、であえ~!!」


「承知!!」


 ニナちゃんが喜んでいるから構わないのだが、何で時代劇風なんだ?

 咲さんは子分役だし。

 それに黒糖パンマンは、確かに黒いけど気の良いお兄さんキャラで、キンキンマンの子分じゃないはずだぞ。


 それにしても咲さんの人形を操る技は凄まじい。

 五体の人形が生きているかのようにパンパンマンに襲い掛かっている。

 あっ、黒糖パンマンが裏切った。

 実は潜入捜査員だったとは……新菜ちゃんには早すぎる設定じゃないかな?

 いや、新菜ちゃんは大喜びだぞ。


 最初はみんなで自己紹介をしていたのだが、新菜ちゃんは明らかにオモチャが置いてあるスペースに興味津々だった。

 そこで二美が新菜ちゃんを遊ぼうと誘い、さらに咲さんも自然に参加して現在の状況である。

 子供は接してきた時間とか関係なしに、すぐに仲良く遊ぶんだなぁ。

 つまり、母さん達が正解だったということだ。


「新菜ちゃんも楽しそうだね。一路君も一緒に遊ぶ?」


「えっ!? 大丈夫です。ぼくは見てるだけで……ありがとうございます」


 一路君は頭を下げてお礼を言った。


「遠慮するんじゃねえぞ。子供は遊ぶのも仕事だからな」


 猪熊先生がそう言って、遊ぶことをうながすが、一路君はまた頭を下げて断った。


「ありがとうございます。でも本当にだいじょうぶです。それよりもお手つだい出きることはありませんか?」


 その言葉を聞いた猪熊先生は、声をあげて笑いだした。


 うーん、一路君はしっかりしてるよなぁ。

 本当に小学二年生なのか?

 自分が同じ年の頃、こんなにしっかりしてた自信がないぞ。


 そんなことを思ってると、声をあげて笑った猪熊先生が「こりゃ、なかなかのもんだ」と、ニヤリと笑った。


「うむ、そうだな。そんじゃ、ま、それぞれ何を手伝うことが出来るかっつう話でも始めるとしようか。なあ、いっくん」


 笑う猪熊先生と半笑いの一路君。

 どちらが子供なのかは分からない。


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