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秋の夜

 「へぇー、この唐揚げ二美が作ったの? 凄く上手く出来てるじゃないか」


 僕は唐揚げを箸で持ち上げながら感心したように二美を見た。


 「へっへー、そうでしょ? まあ、下準備だけだけどね。揚げたのは母さんだよ? さすがに揚げるのはちょっと危ないからね」


 二美は得意そうな、そして少し照れたような顔で僕の視線を受け止めた。


 「いや、大したもんだよ。二美が料理するの上手だったとはなぁ。昔は泥団子しか作れなかったのに……」


 「どんだけ昔にさかのぼってんのっ! そりゃ、あんまり料理したことは無いけど、普通に真似して作るぐらいは出来るからね!」


 「ごめん、ごめん。で、何で料理を手伝ったんだ? いや、美味しいし、良いことだと思うけど」


 百面相をする二美の顔を楽しみながら僕は疑問を投げ掛ける。


 「そ、それは……お礼だよ」


 二美の声が小さくて聞き取り難いが、その表情と仕草で大体の内容は理解できた。


 「二美ちゃん、真剣に作ってたわよ。お家の味を残しながらネットを参考にしてより美味しくって」


 「そうだぞ。ちなみに父さんは味見役で、昨日から唐揚げ食べるの三回目だからね」


 「あっ! それ内緒って言ったのに!!」


 二美が父さん達に文句を言って、皆が笑っている。


 「そっか……ありがとな」


 僕は素直に……本当に素直な感謝の言葉が口から溢れだす。


 「ん~、もう! 私がお礼をしてるのに、お兄ちゃんは少しぐらい得意そうな顔でいてよ」


 「そうか? ん~、ご苦労?」


 僕は精一杯のドヤ顔で二美にそう答える。


 「ぷっ……くっくっ。なにその顔。お腹痛いの我慢してるみたい」


 「えっ? ……嘘だろ?」


 その後、みんなに笑われた僕はドヤ顔の練習をすることを決意した。



 楽しい食事も終わり、歯みがきもしたので寝室に行こうとしたとき「お兄ちゃん~!!」と呼ぶ声がリビングから聞こえてくる。

 僕はリビングに顔を出して「どうしたんだ?」と声をかけると、テレビを背にこちらを向いて手招きする二美がいた。


 「ほら、急いで!お兄ちゃんがテレビに出るから!」


 急かす二美に「わかった、わかった」と言いながら、やれやれ困ったもんだといった感じで平然とテレビの前に座る。

 そんな僕の心臓はバクバク動き、頭の中は「うわ~!うわ~!」とムンクの叫び状態で走り回っていた。


 怖いもの見たさというか何というか……こんなことしている場合じゃないかもしれないが、はっきり言って凄く気になる。

 なんか恥ずかしくて自分から見たいともいえず、二美が誘ってくれなかったらずっとモヤモヤしていたところだった。

 ……今度プリンを買っとくからな。



 そんな僕がテレビを見た感想は……「もうお外に行けない」だった。


 なにアレ? 


 何でお目目がそんなに大きいの?


 何でお鼻がそんなに高いの?


 何でお声がそんなにカッコいいの?


 何で足が長いんだよっ!!


 ショックのあまりグレた赤ずきん状態になった僕は、狼のお腹という名の部屋の中で一生引きこもりたい気分だ。


 「え~と、大丈夫? 渡さんが言うには、容姿や言動などの世間体を気にしている少し馬鹿なキャラは危険視されにくいんだって。皆に嫌われたくないから。だから、あからさまに修正したらしいよ?」


 いや、明確な悪意を感じる。

 取って付けたような言い訳を聞いた僕は、それこそ絵に描いたように落ち込んでいた。


 「大丈夫だって。あからさま過ぎて現実のお兄ちゃんの方が良い感じだよ?」


 「……本当に? ガッカリされない?」


 「うん! 自信持ちなよ。私の友達の間でもお兄ちゃん結構評判良いんだから」


 「……そうか。ありがとな。嘘でも嬉しいよ」


 「テレビにも出たしモテ期到来だね!」


 「……この映像でモテても嬉しくないけどね。ま、変に有能だと期待されるよりは良いか」


 たぶんこの修正は現実世界への評価もそうだが、スマフロ側に対してのアプローチもあるんだろう。

 なんせあんな装備を無理矢理着せる連中だ。

 さぞ喜んでいることだろう。


 「……でも絶対に渡も楽しんでるよな」


 僕は大漁のゴミを結界でサンタの袋のように担ぎ、空を走っている修正後の僕を見ながらそう呟いた。


 テレビも見終わり寝室のベッドで横になった僕は、部屋の片隅でカタカタ回し車を走らせるハム助に気が付く。


 「ハム助。いつもありがとな。でもちゃんと休憩しろよ?」


 ハム助は目立たないけど、いつも一生懸命に僕をサポートしてくれている。

 システムの壁を越えた時だって、ハム助が移動距離を稼いでくれなかったら『再生』×『限界突破』をあんなに使用できなかったはずだ。


 「守護と幸運のハムスターか。確かに僕にぴったりの守護獣かもな」


 最強を目指すことなく、ただみんなとの生活を守り、幸せに暮らしたい。

 ハム助は僕の望みを的確に体現している守護獣だ。


 「なんか感謝のプレゼントを贈りたいとこだけど……何かあるかな?」


 スマフロのショップ画面を操作して新しく表示されたアイテムを確認していく。


 「おっ、黄金ヒマワリの種やハムスターの家DXがあるぞ。……ハムスターの着ぐるみと人間用回し車もある。誰が買うんだ?」


 部屋の中で移動距離を増やすには良いのか?

 ハムスターの着ぐるみも特殊な効果があるのかもしれない。


 「……一応、購入しとこっか」


 恥で安全が買えるなら安いもんだ。

 ハムスターセット一式を購入した僕は、その効果を調べてみた。 


 「うーん、着ぐるみで回し車を使用すると移動距離が7倍か……有能だ」


 わかってた、わかってたよ。

 今までの流れで呪われた装備の効果が素晴らしいってことは……

 僕はため息を吐きながら黄金ヒマワリの種を机の上に置くと、新しい装備の試運転をしてみる。


 秋の夜に二匹のハムスターが奏でる回し車の音と、虫の音がどこか悲しげに鳴り響いていた。


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