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応援

 マスタールームに入った僕は急いで中央の黒い球体を操作する。


 頼む。成功してくれ!!


 高校受験の合格発表を確認したときの何倍もの緊張を感じていた。


 これで失敗だったら次はどうする?

 いや、どうしなきゃいけない?


 黒い球体が変形するのを待つ僕の喉が、望まぬ未来を受け入れるための準備をするかのように勝手に唾を飲み込んだ。


 「…………お、おおー!助かったぁぁ……」


 楽に10日間は現状を維持できるダンジョンポイントを確認した僕は、なんとか反道徳的な行為をしなくても良さそうだと安堵し、自然とその場に膝をつくのだった。



 ―――――――



『それで、なんとかなりそうなのか?』


 「ああ、渡のおかげで上手く行きそうだよ。詳しくは言えないけど、時間とお金に余裕ができたから今後は大丈夫だと思う。定期収入もあるしね」


 夜の8時が過ぎて、肌寒い秋の夜風を感じる。


 僕はあれからダンジョンを簡単には攻略できないように改築したり、攻略度が70%を越えたら連絡が届くように設定したり、他の機能や情報を確認したり大忙しだった。

 そんなこんなでダンジョンを弄くっていたら、気が付けばこの時間である。

 このゲームは時間を飛ばす機能もあるらしい……恐ろしい話だ。


『そうか。ま、下手に情報を探って苦労する必要はないしな。油断はするなよ?』


 「明日の朝イチにでも一度確認しに行くよ。いや、扉の写真を試してみようかな」


 写真機能で撮った1,000kmの扉を試してみよう。

 他の道具みたいに持ち運び出来るかもしれないしな。


『そういや夕方のニュースでイチの特集をしていたぞ?』


 「えっ!本当に?」


『ああ、各テレビ局に写りの良い写真や動画を提供した奴がいる。実物をみたら少し残念と感じるぐらい良い出来だった。なかなかの腕だな』


 「それ絶対お前の仕業だろ!! なんで無意味にハードルあげるんだよっ!」


『よく聞け、イチ。試練なくして成長はない』


 「いやいや、まるでそれが必要かのように言ってるけどそんな試練いらないからな! 普通に恥ずかしいだけだから!」


『なるほど、普通じゃない恥ずかしさを求めるのか。一皮むけたな、イチ』


 「その皮むいたら駄目な皮だよね?ほとんど拷問に近い所業だぞ?」


 僕は渡と下らない会話をしながら、猪熊先生の家へと足を早めた。


 「ただいま帰りました。遅くなってごめん」


 ただいまの挨拶をしながら玄関の扉を開けると、母さんが出迎えてくれていた。


 「おかえりなさい。渡君からもうすぐ帰ると連絡が来たのよ。ご飯の準備も出来ているから早くいらっしゃい」


 「うん、わかった。お腹ペコペコだよ」


 僕は母さんを追いかけ、みんなが集まる部屋へ行く。


 「お、おかえり」


 「あ、お兄ちゃん。おかえりー。テレビに出てたよ?凄いよねー!」


 猪熊先生の家では珍しい洋風のリビングで、父さんと二美がテーブルを囲んで座っている。

 二美が車椅子だから気を使ってくれているんだろう。お、今日は大好きな唐揚げだ!


 「先に渡に聞いてたけど、どんな感じだったんだ?」


 「あー……うん、カッコ良かったよ?」


 二美が少し言いにくそうに、目をそらしながら答えている。


 「……そうか。そういえば猪熊先生と咲さんは?」


 詳しく聞きたいような、聞きたくないような気持ちを抱えながら、僕はここにいるはずの二人について聞いてみた。


 「ああ、どうも家族水入らずで食事したほうが良いだろうと気を使ってくれてね。

 父さん達は気にしないでくださいと言ったのだが、あまり断りすぎるのも失礼なので甘えることにしたよ」


 「そうなんだ。でも、みんなと食べるの久しぶりな感じだよね」


 「感じじゃなくて久しぶりなの!どこかのお兄ちゃんが家出してたから大変だったんだよ?

 今日はしっかりゲームの話をしてもらうからね。約束覚えてる?」


 「ごめんごめん。そういやそんな約束してたな。とある理由で話せないこともあるけど始めっから話すよ。少し長くなるけど大丈夫?」


 「うん!」


 二美が笑顔で元気に返事をした。そんな二美の声を聞いていたら、あのとき聞こえた二美の声を思い出した。


 「そうそう、あのとき大声で呼び掛けてくれてありがとな。おかげで諦めずに勝てたよ。あれがなかったら負けていたと思う……」


 「ええっっ!き、聞こえてたの?」


 「ああ、逆にあれ以外の声はあの時聞こえなかったぞ」


 「そ、そうなんだ……意外と効果あるんだね。無茶言ってたと思うけど……ゴメンね」


 二美が恥ずかしそうにこちらを見て謝ってきた。


 「あの時は無茶が必要だったから本当にありがたかったんだ。二美のおかげでみんなでこうしてご飯が食べれるよ」


 「そ、そう?……邪魔に、重石になってなかったのかな?」


 「……重石どころか翼になっていた。二美がいたから頑張れたんだ」


 「……そうなんだ。ま、まぁ、私の応援なら当然かな?」


 二美は胸をそらしながら、さも当然のように強気の言葉を口にする。

 けどその耳は赤く、目が軽く潤んでいたが僕は見てない振りをした。


 「……さあ、ご飯が冷めますよ。みんなお上がりなさい」


 しめった空気を和やかな空気に変えるかのように、ご飯の準備を終えた母さんがみんなに声をかけた。


 「「「いっただきまーす」」」


 みんなで食べる久しぶりのご飯は、最高に美味しいご飯だった。


 ただ「いただきます」のすぐ後に、「父さんも大声で応援したんだけどな」と少し寂しい小さな声が聞こえてきたのがとても気になった……




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